シンセサイザーで音作るときに重要なのはフィルターです。このフィルターでどれくらいの倍音を削るかで音の明るさが決まります。明るさだけにフィルターの使い方が音作りの明暗を分けると言っても言い過ぎではありません。
このフィルターですが、実はデジタルとアナログで音作りの方向性が変わります。これを理解していないとミックス段階で「何か邪魔な音が聞こえる」という状態になってしまう可能性があるのでちょっと軽視できません。
デジタルフィルターとアナログフィルターの使い分けのポイントは「フィルターを使うことで削った倍音とは違う倍音をコントロールする」です。
難しいかもしれませんが読み終わる頃には「そうなんだー」とあなたの悩みもカットオフ全開になっていますよ!
フィルターの種類と効果
アナログ・シンセサイザーで主に使われるのはLPFとHPFです。最近のソフトシンセではフィルターだけで何十という種類を選ぶことができますが、まずはこの3つがフィルターの基本になります。
- LPF(ローパスフィルター) 設定した周波数より下の周波数だけを通す 別名ハイカットフィルター
- BPF(バンドパスフィルター)設定した周波数のみを通す
- HPF(ハイパスフィルター)設定した周波数より上の周波数だけを通す 別名ローカットフィルター
あとはこのフィルターのかかり具体であるフィルターカーブこれは6dB/Octや24dB/Octという単位で表示されます。
基本フィルターは基本倍音を削るものです。LPFでは高い倍音を削りますが、HPFは基音となる元の音から削っていきます。例えば110Hzのラという音があったとしてHPFで110Hz以上にしていくと残っているのは倍音だけということになります。
LPFとハイカットの違い
よくLPFとハイカットなどの差の意味がごちゃごちゃになるという人がいますが。
- LPFはローをパスするというのはローだけを残すという表現ができる。
- ハイカットは文字通りにハイをカットするからローだけが残る
- HPFはハイをパスするのはハイだけを残す
- ローカットは文字通りローカットするからハイだけが残る
つまり表現の違いは始点と終点の違いをどこから見ているかということになります。
アナログシンセのLPFも一言で言えばハイカットです。
次の画像はFF Pro-Q3でハイカットでカーブ幅を変更したさいに起こる音色の変化を調べた動画です。(ノイズ音が再生されるので音量にご注意ください)数値が高くなるにつれてカーブの幅が急になると思ってください。
アナログシンセでよく使われるカーブ幅は12dBや24dBというものです。数値が低いほど音を削る角度がゆるやかになり音が通ってしまいます。
カーブ幅別アナログシンセ
- MINIMOOGやProphet5は24dB/Oct
- OberheimのSEMは12dB/Oct
- フィルターのカーブを変更できるマルチフィルターもある
俗にMOOGの音はキレがいいというのはこのフィルターのカーブ幅が要因だったりもします。(もちろんフィルター自体の質も大きな要因です)ちなみにPoleという書き方をすることもありますが、1poleは6dB/Octという意味で2Poleは12dB/Oct 4Poleになると24dB/Octになります。
フィルターによる音の違い
どのDAWにも必ずと言っていいほどフィルターは内蔵されています。フィルターは比較的作りやすいプラグインなので無償のタイプの含めて多くのフィルターが存在しますが、実はフィルターによっては音作りに大きな影響を与えます。それが最初にお話したアナログフィルターとデジタルフィルターです。
DAWに内蔵されているフィルターの多くはデジタルフィルターです。デジタルフィルターは設定した周波数をカットするパスするという目的のみで音色に色がつくわけではありません。しかしアナログフィルターであるVCFをエミュレーションしたフィルタープラグインは音色によってことなりますが、特定の周波数のときに倍音を発生させるものがあります。
この動画はLogicProXのテストオシレーターで55Hzのサイン波をLogicProX内蔵のフィルタープラグインAutoFilterとArturiaのMini-Filterを通して比較したものです。
AutoFilterはカットオフの量を変えても一切倍音に変化はありませんが、Mini-Filterは通した時点から奇数倍音である第3倍音が若干発生しています。カットオフの開閉が0.340付近では最大11倍音まで発生します。
次にMOOGエミュレーションで有名なSYNAPSE AUDIOのLegendも調べてみます。
SYNAPSE AUDIO LegendFilter
Legendフィルターの場合は最初から3 5 7の奇数倍音がかなり強く出ています。そしてカットオフを402Hzまで絞ると13倍音まで伸びてきます。そのうえで偶数倍音も出てきます。LegendはMINIMOOGのエミュレーションとしてもかなり人気があり「良い音だ!!」と太鼓判を押している人が多いのはこのあたりのフィルターによる色付けが影響しているのかもしれません。
フリープラグインでもアナログフィルターをエミュレーションしているものがあります。それがビットクラッシャーで有名なKrushです。
Krush
メーカーが「我社のビットクラッシャーのフィルターはアナログフィルターをエミュレーションしてるよ!」と豪語するくらいですが、最初からの色付けもありますし、カットオフを1140Hzにすると31倍音まで伸びます。
どうしてフィルターを求めるのか?
フィルターによって得られるサウンドの変化はフィルターでしか作れません。フィルターがだんだん開いていくときに見える世界の広がり、逆に閉じていくことで今まで無限かと思っていた世界が点にまで収束する世界観の変化これらをたった1つのノブで作り上げてしまうのがフィルターの世界です。DTMerなら一度はこのフィルターの世界に陶酔していると思います。拘りの強いアーティストは本物のアナログシンセのフィルターを使ったりもします。それほ音作りにおいてフィルターは必要不可欠なのです。
だからこそ、個性があるフィルターを探し求める人が多く。その数ほどフィルタープラグインも開発されていきます。
音楽にどういう影響があるか?
削った倍音に新しい倍音が発生するということはそれだけ音色のあり方を問われるシーンもあると思います。倍音がつくというのは一言で言えば「歪み」です。調査した内容がサイン波なので、ピアノやギターにフィルターをかけてもサイン波ほどはわかりやすくはないかもしれませんが、コンプやミックス処理などでその倍音が大きくなり他の音色に良くも悪くも影響を与える可能性があります。
つまりアナログモデリング系のVAソフトの場合などでフィルターによる倍音が発生する場合はデジタルフィルターと併用するという考え方もありなのです。低い音に倍音がつくと輪郭がわかりやすくなりますが、それ故に音作りの目的をしっかりしておかないと予期せぬ幽霊倍音に悩まされることになるかもしれません。
まとめ
倍音を調整するフィルターで倍音がつくというのはなんとも面白いですが、改めて音作りに重要な意味合いを持つことが認識できます。「たかがフィルターされどフィルター」音のあり方を決める重要な要素として必要に応じた使い方をしていきたいですね。