「音が抜けない」この問題はDTMの永遠の課題と言えます。音が抜ければ楽器の輪郭がはっきりして聞きやすくわかりやすい音楽になります。しかし、その対策はEQでなんとかする。コンプでなんとかするという話からアレンジレベルでなんとかするまで多岐に渡ります。
しかしそれよりも前に、もっと簡単に「こもりを解消」することができます。それは音色を見直し省ける音を省くということです。
「音色を見直すってどういうこと?」ちょっと難しそうなイメージがあるかもしれませんが、大丈夫です。理屈を知ってしまえば「なんだそんなことか?」と思えるレベルのことです。これを理解するコツは「その音色がどんな周波数帯域を持っているか」ということを考えることです。これを理解できればEQの使い方も今までと別次元で扱えるようになります。
音の倍音を知る
さて、ここで問題です。これはある音色でドミソを鳴らしたものをアナライザーで表示したものです。なんの楽器か分かる人いますか?答えはこちらです。
答えはサイン波です。見方がわからないという人のために説明すると、3本の柱は左からドとミとソで並んでいます。非常にわかりやすいですね。さてこはまったく倍音のない音です。ここから他の楽器だとどういう倍音が出ているのかを見ていきましょう。
では、こちらの画像は何の音色でしょうか?
先程のものより非常に複雑な音の表示がされています。正解はピアノです。
まったく同じドミソであっても音色が異なることでここまで音の出方が変わります。このドミソ以外の音が出ている部分を倍音といいます。倍音は抑えたドミソより高い音に発生します。しかし、ピアノように生楽器の場合はピアノ全体が震える(共振)でドミソより下の音も検出されています。このあたりが「ふくよかな音」という言い方をしたりすることもありますが、それはまた次回のお話です。
では、もうあと2つ
またちょっと違った表示になっていますが、なんだかわかりますか?正解はベースです。
ちなみにこちらは単音C2のみです。単音とは言え、和音に負けない複雑な倍音が出ています。
では最後にこちら
高域、2khz以上がかなり上がっているのが見てわかります。
正解はギター(ディストーションあり)ですこちらは2つ目と同じボイシング(ドミソ)にしています。さて、ざっと聞いた(アナライザーを見ただけでも音の出方は全然違います)同じドミソであってもここまで音の出方に違いがあるということを確認してくださいね。これが曲の中ですべて同じドミソで鳴らした場合どうなるか?
- 赤ベース
- 緑ピアノ
- 紫ギター
かなりざっくりとした言い方になりますが、重なり合っているところがこもるポイントです。ではどうやってこもりを取るかという話ですが、それは「省いてしまえる音は省く」です。次から省ける音について考察してみたいと思います。
コードの中で一番省ける音は?
コードの話になりますが、コードはわかりやすくいえば、メジャー(明るい)かマイナー(暗い)に分類されるのが一般的です。メジャーとマイナーの響きを担う音はルートと3rdつまりドとミになります。3rdの音が半音下がっていればマイナーです。
では、ソはどういう役目なのか?というと、これは役目というよりはコードの構成音として倍音の並び方は次のようになります。
- 第一倍音 ド
- 第2倍音 オクターブ上のド
- 第3倍音 ソ
- 第4倍音 ド
- 第5倍音 ミ
- 第6倍音 ソ
つまり4.5.6とドミソと並んでいることからドミソがCとなっているまぁ他のコードもFの場合の4.5.6もファラドGの場合もソシレと並んでいます。
さて、しかし、このコードに話を戻してドミソの「ソ」はルートを鳴らした瞬間にも「第3倍音」として結構出てきます。とくに倍音が多く含まれているピアノなどでは顕著に響きます。このあたりはこちらの記事に詳しくのっているので参考にしてください。
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つまり ベースでルートを鳴らしてもソが聞こえ
ギターで(ドミソ及びパワーコード)鳴らしてもソが聞こえる
そしてピアノでドミソと鳴らしてもソが聞こえる。
ソのオンパレードですw
DTMの音源はある程度チューニングが整っていますが、これがもし生バンドでチューニングがあいまいだった場合実音同士の音のズレ、倍音同士の音の干渉で音が抜けることは絶対ありえません単純なコードの重ね方だけでも抜けてこれないのに複雑なバンドやコードになったらなおさらです。
楽器のチューニングが大事なのは、もとの音もそうですが、倍音同士の無駄な干渉をふせぐためでもあります。そうなると、ソの音を鳴らさなければいけない明確な理由がない限り「こもり解消」という目的においては「ソ」の音は省くことが可能です。倍音は常に他の倍音と干渉します。だからこそ、同じピアノの音でも「この曲ではこのピアノがよい」というようにそれぞれの個性を生かしたサウンドのチョイスが求められるわけです。
ルートの音は省ける?
続いてルートの音で考えてみます。Cのコードでベースがドを演奏する場合これはコードのルートの音なので省略するのはあまりよろしくありません。安定感を増すためには必要不可欠な音です。では、ピアノとギターでなっている「ドミソ」の「ド」はどうでしょう?例えばベースのC(ルートに対して)ギターがパワーコードCGC(ドソド)と弾いた場合ルートの音が3音なることになります。ピアノが左手をあわせて「ドドドミソ」と弾くと全部で合わせて「6音のド」がなることになります。
先に言っておくと、上記の演奏スタイルはバンドなどで普通にあります。しかし、DTMなどで多くの楽器を使って作曲する場合において「抜け」を意識したサウンドの場合、そこまで必要かどうかは作曲者の意図に委ねられることになります。
3rdの音は省ける?
コードの中でもっとも役割が強い音と言えます。しかし生演奏においては少しでもピッチがずれれば音の不明瞭さにすぐに繋がり、大げさに言えば「メジャーマイナー感」感じにくくなる音ともいえます。この場合、ピアノがコードを担当するのかギターが担当するのかははたまた両方なのか?という考えをします。
あくまで一例ですが、ピアノがドミソと弾いた場合ギターはリズム楽器としてパワーコードで演奏するこうすることですっきりとした印象になりやすいです。
注意してほしいのは「同じ音を一つ以上鳴らしてはいけない」という話ではありません。その音が「抜け」を意識したときに必要なのかどうかで考えることが大切という話です。
話はそれますが、30年前のシーケンサー(DAWじゃないですよw)を使って作曲するときは同時発音数という制限があり、16音や32音という制限の中で以下に音を鳴らすか?ということを考えて作っていた時期があります。もうそうなると、当然のように「5音のソ」は省略していましたwこれらを考えながら、音色の配置(パンニング)を考えることで確実に音のこもりは解消することができます。
こもらない音色のチェック方法
必要以上にリバーブがかかっている音チューニングがずれている音などはチェックすることをおすすめします。最近はオーディオ波形でなればピッチ修正は簡単にできます。また、リバーブが大量にかかっていることを特に気にせず使うことで不必要な残響が音楽の邪魔になることもあります。
ギターなどの場合は歪ませることで倍音が強調されすぎた結果が音が潰れてしまいます。ギターの音抜けがとにかく「ギターのアタック」を感じることです。メタルで歪みまくっている音色であってもアタックを感じることができれば音は抜けてきます。
しかし、ベースに関してはウワモノを活かすためにあえて倍音が目立ちにくい音色を使うこともよくあります。このあたりは「なんでもかんでも抜ける」という意識をもつより「どこを聞かせたいか」という優先順位を考えるとよいでしょう。
まとめ
いかに倍音同士で干渉させずに音を鳴らすこれが「こもらせない」音の作り方(及び選び方)です。一つだけ注意してほしいのは「何が何でも題5音の音を省け」ということではありません。役目がそれほど大きくない音であるならば、こもり解消を目的に省略することも可能。という話です。
大切なのは一度試してみて「あーなるほど。確かに必要ないかも」と思えたら省略する。「いや、やっぱりあったほうがいい」となるとそのままにしておくことです。EQの設定やコンプの使い方を考えるよりも先に、音色のあり方を考えることは「こもり解消」において非常に有用です。
音のこもりを改善するためにもアナライザーを一つもっておくことで目で見て確認することができるので、おすすめです。なれてしまえば聞いただけでも判断できるようになります。
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コメント
コメント一覧 (2件)
最適なアドバイス!
スーパーわかりやすいです。
また1つ謎が解けました。
ありがとうございます。