最近のソフトシンセは高音質で、できることも多い。
それなのにプリセットを探していると、「どれも似たような音に聞こえる」と感じることはありませんか?
そんなときに使ってみてほしいのがRoland Cloud D-50です。
D-50の実機が発売されたのは1987年。40年近く前のシンセですが、実際に鳴らしてみると、古さより先に「この音、どこかで聴いたことがある」と感じる人の方が多いかもしれません。
有名な「Fantasia」をはじめ、きらびやかなベル、独特なピチカート、存在感のあるブラス、幻想的なパッドなど、現在まで続くシンセサウンドの原型ともいえる音が数多く収録されています。
その秘密が、PCMサンプルとシンセ波形を組み合わせる「LAシンセシス」です。
Serumのような現代的なウェーブテーブルシンセとは音作りの考え方そのものが違い、PCMによる複雑なアタックとシンセ波形を組み合わせることで、デジタルともアナログとも言い切れないD-50独特の音を作り出します。
そしてRoland Cloud D-50では、実機では決して快適とはいえなかった音作りも大きく改善されています。
専用プログラマーPG-1000を思わせるエディターによって、複雑だったLAシンセシスを画面上で確認しながら編集可能。さらに実機D-50のSysExデータも読み込めます。
ただ、すべてが実機そのままというわけではありません。
実際に使ってみると、Roland Cloud版は実機よりも音がクリアで、「もう少しザラッとした質感が欲しい」と感じる部分もありました。
それでもD-50を「昔の音を懐かしむためだけのシンセ」だと思わないのは、今のシンセとは違う音作りの発想と、D-50でしか出せない個性的なサウンドがあるからです。
この記事では実際の音を交えながら、Roland Cloud D-50の音質、プリセット、音作りの方法、実機との違いまで詳しくレビューします。
| メリット | デメリット |
|---|---|
| D-50のプリセットサウンドを再現 音色専用エディターPG-1000をエミュレート ほとんどのパラメーターをMIDI CCに割り当て可能 SysExによるオリジナル音色のインポート | 音質がクリアすぎる |
\ 名機D-50を現在のDAW環境で /
Roland Cloud D50とは
Roland Cloud D-50は、1987年に発売されたRoland D-50をソフトウェア化したシンセサイザーです。
D-50はPCMによるサンプリング波形とシンセサイザー波形を組み合わせる「LAシンセシス」を採用し、それまでのアナログシンセとは異なるきらびやかで幻想的なサウンドによって大ヒットしました。
Roland Cloud版では、オリジナルD-50の波形データに加え、Roland独自のDCB(Digital Circuit Behavior)モデリング技術を使って実機のサウンドを再現しています。
さらにソフトウェアならではの分かりやすいエディット画面や、実機D-50のSysExデータ読み込みにも対応しています。
実機のサウンドや音色資産を現在のDAW環境へ持ち込みながら、より快適に音作りできるようになったD-50と考えると分かりやすいでしょう。
D-50のLAシンセシスとは?
D-50最大の特徴が「LA(Linear Arithmetic)シンセシス」と呼ばれる音源方式です。
簡単にいうと、PCMによるサンプリング波形と、SawtoothやSquareなどのシンセサイザー波形を組み合わせて音を作る仕組みです。
たとえばピアノやベルなどの楽器は、音が鳴った瞬間のアタック部分にその楽器らしさが強く現れます。
そこでD-50では、複雑なアタック部分をPCMで再生し、その後の持続音をシンセ波形で作るといった音作りができます。
これによって、当時の限られたメモリー容量でもリアルさとシンセサイザーらしい音作りの自由度を両立できました。
ただし、D-50が「PCM+シンセ波形」という組み合わせだけに固定されているわけではありません。
1つのパッチはUPPER TONEとLOWER TONEで構成され、それぞれのToneに2つの「Partial」があります。
これらのPartialを組み合わせることで、リアルな楽器を思わせる音から「Fantasia」のような幻想的なサウンドまで作り出せるのがLAシンセシスの面白さです。
実機D-50のSysExを読み込める
Roland Cloud D-50は、オリジナルD-50で作成した音色データをSysEx形式で読み込むことができます。
過去にD-50実機で作ったオリジナル音色はもちろん、D-50用として配布・販売されていたSysExライブラリを持っている場合、それらをソフトウェア版でも利用できます。
長年D-50を使ってきたユーザーにとって、昔作った音色資産を現在のDAW環境へ持ち込めるのは大きなメリットです。
またRoland Boutique D-05とのパッチやバンクのやり取りにも対応しており、D-05本体をD-50 Software Synthesizerのコントローラーとして使用することもできます。
実機D-50との違いについて
Roland Cloud D-50は実機D-50の波形データとDCBモデリング技術を使って再現されていますが、ハードウェアとソフトウェアという違いがあるため、すべてがまったく同じというわけではありません。
基本的な音源構造や最大同時発音数16音といったD-50らしい仕様を受け継ぎながら、ソフトウェア版ではDAW上での音色管理やエディットなど、現在の制作環境に合わせた使いやすさが加えられています。
一方、実機固有のD/Aコンバーターなどハードウェアを通した音質まで完全に同じになるわけではありません。
実際に聴き比べるとRoland Cloud版の方がクリアに感じられ、実機の少し荒さを含んだ質感とは違いを感じる部分もあります。
| 項目 | 実機 D-50 | Roland Cloud D-50 |
|---|---|---|
| 発売年 | 1987年 | 2017年(Cloud版) |
| 音源方式 | LAシンセ(ハードウェア) | LAシンセ(ソフトウェア・DCBモデリング) |
| 音質 | ハード独特のD/A変換による太さとザラつき | クリアで高精度な再現。オリジナルより少しクリーン |
| 操作性 | 小さな液晶+ボタン操作 | GUI上のパラメータ操作、PG-1000エミュレータ搭載 |
| 音色エディット | 実機ではPG-1000が必須レベルで面倒 | マウス操作で視覚的に直感編集可能 |
| MIDI/SysEx対応 | 対応(古い規格) | SysExインポートに対応し、D-05とも互換あり |
| ポリフォニー | 16音 | 16音 |
| 保守性 | 故障時は修理困難、パーツ入手困難 | ソフトはアップデート可能で管理が容易 |
ハードウェア版にない同時発音数の問題や、音色エディットでは必要不可欠な専用のMDIIコントローラーなどがRoland Cloud D50に搭載されているため、初心者から当時D50を親しんだユーザーまで楽しむことができます。
Roland Cloud D-50はソフトウェア音源ですが、最大同時発音数がPC性能に応じて無制限に増える仕様ではありません。
Roland公式仕様では最大同時発音数は16音です。
KEY MODEをWHOLEにした場合はUPPER TONEを最大16音まで同時に演奏できます。
一方、UPPER TONEとLOWER TONEを重ねるDUALでは1鍵で2つのToneを使用するため、最大8鍵の同時演奏となります。
ソフトウェア版であっても、このD-50の基本的な発音構造は踏襲されています。
Roland Cloud D50 レビュー
- D-50のプリセットサウンドを再現
- 音色専用エディターPG-1000をエミュレート
- ほとんどのパラメーターをMIDI CCに割り当て可能
- SysExによるオリジナル音色のインポート
- 音質がクリアすぎる
Roland D-50 Fantasiaを含むすべてのプリセットを再現

「Fantasia」といえばD-50、D-50といえば「Fantasia」。80年代後半の音楽シーンに革命を起こしたこの象徴的なサウンドを含む、すべてのプリセットがRoland Cloud D-50で忠実に再現されています。
D-50は、短いPCMサンプルと持続音用の減算合成サウンドを組み合わせた“LAシンセシス”によって、アコースティックとシンセの境界を曖昧にし、従来のシンセでは得られなかった立体的で空気感のある音を実現しました。そのサウンドは「ノイズのよう」とすら形容されながらも、独特の倍音成分とデジタル・エフェクトの融合により、唯一無二の温かみを放ちます。
今日のサウンドデザインにおける“レイヤー”という考え方の源流とも言える存在であり、D-50は単なるレトロ機材ではなく、現代の音作りにも通じる革新を宿したシンセサイザーです。Roland Cloud版では当時の個性をそのままに、最新の制作環境で気軽に再現可能。デジタルでもアナログでもない、あの音がここにあります。
個人的にはFantasiaも素晴らしいのですが、私が注目したいのはブラスです。当時としてシンセブラスと生ブラス(トランペット)をミックスして歯切れのよいブラスサウンドとして多用されました。
個人的にですが、朝まで生テレビに使用されたGeoff Bastow の POSITIVE FORCE のブラスの雰囲気があります(ただし、Geoff Bastow の POSITIVE FORCEは1986年、D50は翌年の1987年にリリースされているので、Geoff Bastow にプロトタイプがわたってでもいない限り、不可能になります。一説ですが、 POSITIVE FORCEのブラスは1981年にリリースされているJupitar8ではないか?という話もあります)
Roland Cloud D50とArturiaのJupiter8でそれっぽいフレーズを作って比較してみました。最初がRoland Cloud D50、後半がArturiaのJupiter8です
もちろんブラスも良いのですが、次におすすめしたいのが、ピッチカートです。
90年代を代表するアイルランドの歌姫ことenyaのOrinoco Flowに使われたのがRoland D50のピチカートです。
ピッチカートは多くのPCMシンセにも搭載されている音色ですが、D50のピッチカートは唯一無二の存在であり、これでしか出せない音色です。これを楽しめるのもD50であり、Roland Cloud D50にも問題なく再現されています。
それ以外にも汎用の高いシンセベルやパッドなどとにかく「あっこんな感じの音色、他のソフトシンセで聞いた事がある!」というような音はD50をルーツしていると言っても言い過ぎではないくらいです。
Fantasiaだけでなく、ブラス、ピチカート、ベル、パッドまで聴いていくと、D-50が後のシンセサウンドに与えた影響の大きさがよく分かります。
単に「80年代の音が欲しい」という人だけでなく、Serumなどの現代的なソフトシンセとは違うキャラクターを曲に加えたい人にも、Roland Cloud D-50は面白い選択肢です。
一見するとわかりにくいエディット画面も慣れたら簡単!
Roland Cloud D50にはD50で音作りをスピーディーに行うために必要不可欠だった専用MIDIコントローラーPG-1000がエミュレートされているので、音作りも簡単です。
しかし、ぱっと見た目でどこを触ればよいかわからないかもしれませんがコツを掴めば簡単です。

上からCOMMON SELECTのPATCHから見ていきます。こちらはプリセット全体の概要、MASTERチューニングやピッチベンドやポルタメント、エフェクトではリバーブの深さや種類を選択できます。

そして、COMMON SELECTのLOWERとUPPERではコーラスエフェクト、およびLFO等の設定が可能になります。

ここだけでも複雑な音作りが可能になります。
UPPER・LOWERとPartialを理解すれば音作りは難しくない
D-50のエディット画面は最初こそ複雑に見えますが、基本構造を理解すると意外とシンプルです。まず1つのパッチは「UPPER TONE」と「LOWER TONE」という2つのToneで構成されています。
そしてUPPERとLOWERには、それぞれ2つの「Partial」があります。
つまり、
1パッチ=2 Tone=最大4 Partial
という構造です。
ここで注意したいのは、UPPERがシンセ波形、LOWERがPCM波形という意味ではないことです。各Toneを構成する2つのPartialをどのように使用するかは「STRUCTURE」によって決まります。
Partialをシンセサイザー音源として使用する場合はSawtoothまたはSquareを選択し、TVF(フィルター)やTVA(アンプ)を使って音を作ります。PCM音源として使用する場合はサンプリングされたPCM波形を選択し、TVAによって音量変化をコントロールします。
このPartialの組み合わせこそがD-50のLAシンセシスを理解するうえで重要なポイントです。


サンプリング波形はPCMと書かれたウィンドウのボタンをクリックするか、スライドバーで切り替えていきます。(ウインドウは画像ではわかりやすように一覧にしていますが、実際はひとつ分のウィンドウだけ表示されます)

UPPERの場合、PCM波形は選択できません。かわりにSAWまたはSQUARE、そしてPWを選択可能にです。D50にはフィルターも装備していますが、フィルターはLOWER(アナログ波形選択)のみに有効になります。
こうしてみると、近年のソフトシンセよりできることは少ないものの非常にまとまりがあってわかりやすいGUIなのがわかります。おそらく操作的にはここが慣れればRoland Cloud D50の操作は8割マスターしたも同然です。
また、ジョグスティックを除く多くのパラメーターはMIDI CCの割当が可能なので手持ちのMIDIコントローラーを使って音作りも可能です。
まとめ
| メーカー | Roland |
| システム | Windows: Windows 10 (64-bit) or Windows 11. macOS: macOS 11 (Big Sur) or later. |
| 認証方式 | シリアル認証 |
| マニュアル | ソフト内で呼び出し可能(日本語) |
CPU負荷計測/使用環境
パソコン Mac Studio
CPU M4 MAX
メモリ 64GB
システム OS15.5 Sequoia
Audio/IF Focusrite RED 8PRE
バッファー 64
DAW LogicPro11.2.2
48kHz/24bit
再生ストレージ SSD
Roland Cloud D-50は、単に80年代の名機を懐かしむためだけのソフトシンセではありません。
Fantasiaをはじめとした有名プリセットはもちろん魅力ですが、PCMとシンセサイザー波形を組み合わせるLAシンセシスは、Serumなどの現代的なシンセとは音作りの考え方そのものが違います。
そのため、最近のソフトシンセとは違うキャラクターを楽曲に加えたい人にも面白い選択肢です。
特に、
- 80〜90年代のデジタルシンセサウンドが好き
- FantasiaやD-50独特のピチカート、ブラスを使いたい
- Serumなどとは違う方法で音作りを楽しみたい
- 実機D-50のSysEx資産を現在のDAWで使いたい
という人にはおすすめできます。
一方、最新EDM向けの派手なウェーブテーブルサウンドや、大量のモジュレーションを使った複雑な音作りを求めるのであれば、D-50より適したシンセはあります。
Roland Cloud D-50の魅力は「昔のD-50を再現したこと」だけではなく、現在とは違うシンセサイザーの音作りを、今のDAW環境で楽しめることです。
40年近く前に生まれたシンセでありながら、D-50でしか出せない個性は今でも十分に魅力的です。
Roland Cloud D-50の魅力は「昔のD-50を再現したこと」だけではなく、現在とは違うシンセサイザーの音作りを、今のDAW環境で楽しめることです。
40年近く前に生まれたシンセでありながら、D-50でしか出せない個性は今でも十分に魅力的です。
その個性に魅力を感じた人なら、Roland Cloud D-50を一度チェックしてみる価値はあると思います。

