アニメサントラが好きなDTMerなら一度はブルガリアンボイスを耳にしたことがあるかもしれません。
しかし特殊すぎるその歌唱方法なのでとても普通のコーラス音源では再現できません。しかし、VOCALISA:SLAVIC WOMENS CHOIRを使えばかなり美味しいところまで作れます。
今日は民族音源の中でも特殊なコーラス音源であるブルガリアンボイス専用音源のVOCALISA:SLAVIC WOMENS CHOIRの使い方とクオリティをチェックしてみたいと思います。
ブルガリアンボイスって何?
ヨーロッパの国ブルガリアで歌われている民族音楽で、独特の歌唱方法と自由な拍子によるリズム、そして通常のクラシカル的な和声(音の組み立て方)ではないのが特徴的です。
ブルガリアンボイスは映画「攻殻機動隊」で有名になりましたが、攻殻機動隊のそれは本来のブルガリアンボイスではありません。
川井憲次さんは当初から「ブルガリアンボイス」の構想を考えていましたが、スケジュール的にも問題がありどうするか悩んでいたところに「ブルガリアンボイスの独特の歌唱方法は日本の民謡に通じる要素があると考え、西田社中という団体に依頼したことから「和声ブルガリアンボイス」誕生します。
「川井君は、それまでも結構なことをやってくれていたんだけど、『攻殻』の音楽にはちょっと驚いた。これは凄いぞってね。決め手となる西田社中のコーラスにたどり着くまでには色々あって、最初にでた案はブルガリアン・ヴォイスだったんです。でも、向こうの農家の娘たちが歌う民謡のようなものだから、仮に現地までいっても歌い手は譜面がよめない。このままでは収録できないことが判明して行き詰まったとき、もしかしたら国内で民謡をやっている人だったらいけるんじゃないかとなったんです。たまたま西田社中の皆さんは洋楽の素養があったから譜面がよめた。あとは、もうやるだけでした。音楽作業は楽しかったですよ」
https://anime.eiga.com/news/101181/2/
これがもし普通のブルガリアンボイスだったらおそらくここまで攻殻機動隊の世界は確立できなかったかもしれません。
映画版は川井憲次さんが音楽を担当されていますが、アニメ版攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXでは菅野よう子さんが音楽を担当しています。
菅野よう子さんといえば「ブルガリアンボイス」というくらいになっていますが、始めて使ったのは映画マクロスプラスのWanna Be an Angelが最初でした。(28秒からのコーラスがそうです)
その後、1998年に出したオリジナルアルバム「song to fly」の一曲目「ANOTHER WORLD」にもブルガリアンボイスの曲が収録され菅野よう子さんの個性として画一するサウンドになりました。
攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEXの劇中でブルガリアンボイスが流れたのは攻殻機動隊SAC 2nd GIGのサントラ「トルキア」という曲です。
菅野よう子さんらしい。デジタルサウンドとブルガリアンボイスを見事に融合させた一曲となっています。
さて、これらのブルガリアンボイスを「是非、DTMでやってみたい!」と思う人は多いです。それを再現できる唯一と言っても過言ではない音源、それがVOCALISA:SLAVIC WOMENS CHOIRというわけです。
VOCALISA:SLAVIC WOMENS CHOIRのメリット・デメリット
メリット次の2点です。
- ブルガリアンボイスの言葉eh, mah, yah, ree, shteh, svah, oh を収録と拳をキースイッチで変更可能
- ソプラノからアルトをまとめたサウンド
この音源の最大のメリットは言わずもがなブルガリアンボイスの歌唱方法を収録したコーラスサウンドをコントロールできることにあります。
その内容はソプラノからアルトまでを一つまとめた「1a Full Choir Master」から個別のコーラス、そして呼吸や足や手を使ったリズム音源も収録されています。
そして何より、母音を鍵盤にアサインされていて、キースイッチで歌詞を変更させることが可能です。
音のクオリティは唯一無二と言っていほどの存在感で特に「こぶし」に関してはこのまさにブルガリアンボイスといえる音色です。
デメリットは、次の3点です。
- キーが狭い
- 音がなりっぱなしになる
- ベロシティによる音の切り替えはない
女性のキーということもあって当然といえば当然なのですが、発音キーが狭いです。せめて上にあと2音くらいあればもう少し使い勝手がよいと感じたほどです。
またリリースタイミングによって音がなりっぱなしになることが多々見受けられるので、ピアノロールなので音のリリースコントロールを多少シビアにする考える必要があります。
ソプラノからアルトまでのベロシティによる音色の切り替えがなく、強弱の違いで音が変わることはありません。ただ、ブルガリアンボイスはそれほど強弱におけるサウンドの違いを強く求める音楽でもないので、それほど不都合があるようには感じません。
VOCALISA:SLAVIC WOMENS CHOIRの使い方
使い方は主に2つです。キースイッチで言葉を変更していく方法とGRID MODEでメロディ毎に任意で選択した言葉を変更する方法です。
どちらが便利かと言われると人それぞれな気もしますが、私は主にキースイッチを使います。ただGRID MODEでメロディ毎に言葉が変わるのは弾いているときにより「それらしい雰囲気」を味わえるでの便利といえば便利です
低音にある短いピアノロールがキースイッチになります。
ブルガリアンボイスの様式
複数の女性(3人以上)で主旋律、副旋律、通奏音をそれぞれ担当します。歌唱方法は地声で歌われるのが基本の様式ですが、最大の特徴はノンビブラートによる歌唱方法です。
ブルガリアンボイスはメロディを歌い上げることを目的とした音楽ではなく、独特のハーモニーを堪能する音楽です。そのうえで表現方法として日本の民謡でいうところの「こぶし」が用いられています。
ブルガリアンボイスはクラシカル的にハーモニーを動かすことを目的としていないためクラシカルの禁則事項についてはそれほど大きな問題ではありません。これを知っておかないとブルガリアンボイスは作れないとも言えます。
サンプルデモ
主旋律、副旋律、通奏音を意識しながら作ってみましたがいかがでしょうか?出だしの独特のこぶしだけでも雰囲気が出ているように感じませんか?
このこぶしの音をもう少しレパートリーがほしいところではありますが、満足のいく雰囲気は得られると思います。
ブルガリアン和声の特徴
ブルガリアンボイスの和声はテンションの解決や禁則事項の徹底したハーモニーではありません。さきほどもお伝えした主旋律、副旋律、通奏音の中でもブルガリアンボイスらしさは通奏音(同じ音を演奏し続けるペダルトーン)が特徴的です。この辺りはバクパイプの演奏(音の出し方)と似ています
そしてこの通奏音は解決を前程とする必要がないため、テンションとして存在することで音のぶつかりが頻繁にでてきますが、それもまたブルガリアンボイスの特徴といえます。
なので、あまり和声やハーモニーに詳しくないDTMerであっても
ベースの音をひたすら伸ばすそのうえでコーラスを動かすという方法だけでもそれらしく聞こえます。
VOCALISA:SLAVIC WOMENS CHOIRの値段
sonicwireでは13,992円で販売されています
もっとクオリティの高いブルガリアンボイス音源はある?
RHODOPE 2 Ethnic Bulgarian Choirという音源はさらにクオリティの高いブルガリアンボイス音源です。私が感じたSLAVIC WOMENS CHOIRの問題点をクリアしています。ただし、お値段も299$とSLAVIC WOMENS CHOIRよりも170$ほど高いです。
しかしその値段にあった十分なクオリティを提供してくれます。
公式サイトstrezov-sampling
どうしてブルガリアンボイスを作りたい?
ブルガリアンボイスを作りたいという気持ちがこの音源に興味を持った理由だと思います。では何故ブルガリアンボイスを作りたいのでしょうか?菅野よう子さんみたいな世界観を自分でも作ってみたい。そういう理由もあるかもしれません。好きな人がやっていることを模倣できるとそれだけでも幸せになります。
でも、大切なのはブルガリアンボイスを作ることより、ブルガリアンボイスを通して見える「もっと自分らしい音楽」ではないでしょうか?多くの作曲でもきっかけは模倣から入ります。そこから長い時間をかけて、自分らしさを磨き続けます。もしこの音源を通して「〇〇っぽい音楽を作れるからほしい」と思ったのなら、それはそれでこの音源の価値は十分に満たされたものになるでしょう。それで満足するのも結意義なDTMライフです。でももう一歩、もう半歩だけDTMライフを楽しくしたいのならば、
ブルガリアンボイスから見える先の音楽に思いを寄せてみてはいかがでしょうか?
まとめ
ブルガリアンボイスは音だけ聴くとすごい存在感故に、めちゃめちゃ難しいイメージをうけるかもしれませんが、ハーモニー自体はクラシカルなものよりシンプルとも言えます。それでいて理論的でないために雰囲気勝負!という使い方もできます。(もちろんもっとらしく聴かせるためにはそれなりの理論も必要にはなってきます)
とりあえずVOCALISA:SLAVIC WOMENS CHOIRを使って攻殻機動隊ごっこしてみるのはいかがでしょうか?
セール期間は残り8日なので、気になる人は要チェックですよ!