音楽制作において、良質なキックサウンドの選定はトラック全体の完成度を大きく左右します。
しかし、理想のキックサウンドを自作するのは容易ではありません。そんなクリエイターの悩みを解決するべく登場したのが、Kick Ninjaです。
AI解析を活用し、ユーザーの求めるキックサウンドを瞬時に生成・調整できるこのツールは、まさに「キックサウンド作成の隠れた忍者」です。
Kick Ninjaは初心者からプロフェッショナルまで幅広く支持されるべく開発されており、細部にわたるカスタマイズ機能と直感的な操作性を兼ね備えています。
この記事では、Kick Ninjaがいかにして死角なくユーザーのサウンド作りをサポートするのか、その実力をレビューしていきます。
Kick Ninja とは
Kick Ninjaは、The Him DSPが開発したAI搭載のキックドラム音源プラグインです。このツールは、キックドラムの音作りに特化した機能を多数備えており、プロデューサーやミュージシャンにとって強力な味方となります。
AIインポート機能
Kick Ninjaの最も革新的な機能の1つが、AIを活用したサンプルインポート機能です。既存のキックドラムサンプルをドラッグ&ドロップするだけで、AIアルゴリズムがピッチやアンプのカーブを自動的に分析し再現。これにより、お気に入りのキックサウンドを簡単に再現したり、新しいバリエーションを作り出すことができます。
高度なコントロール
ピッチ、アンプリチュード、ディストーション、その他様々なパラメーターをカスタマイズできる28のエンベロープを搭載しています。これにより、キックドラムのあらゆる側面を細かく調整し、理想的なサウンドを作り出すことが可能です。
サンプルレイヤー
3つの独立したサンプルレイヤーを使用して、アタック、ノイズ、テクスチャーなどを追加できます。これにより、より複雑で豊かなキックサウンドを作成することができます。
その他の機能
- ピッチスナップとトラッキング機能
- フェーズロックとタイムスキュー
- 9種類のディストーションエフェクト
- コンプレッサーとオートメーション可能なフィルター
- 16ボイスポリフォニー、レガート、グライド機能
Kick Ninjaレビュー
触って気になったポイント等をまとめています。
結論からして「過去一使えるキック音源」で間違いなく、他のメーカーの音質や操作性の良いところ取りをした印象があります。
素材をAIが解析してマッチングがすごい
Kick Ninjaの最大のセールスポイントがAI解析によるマッチングシステムです。
Kick Ninjaはオシレーターと3つのサンプルから成り立つキック専用音源です。オシレーターの質がよいのか立ち上げ時から極太のキックを聞くことができますが、任意のオーディオファイルキックをドラッグアンドドロップすることでそのピッチとアンプのカーブを再現を解析してKick Ninjaのオシレータでそれらの情報を再現するというものです。
この機能の意味するところは、サンプルキックに含まれている不要なノイズ的なものを取り除いてサイン波だけでそのサンプルのキックの質感を再現することで、サブキック的な要素を生み出します。
アタックはいい感じだけれどキックの量感が足りない場合などはこの機能で解決できます。
例えば次のようなキックをKick Ninjaで解析してみましょう。
解析方法はAIと書かれた部分にドラッグアンドドロップしてください。他のところにすると単にサンプルが読み込まれるだけになります。
解析するにいたり、いくつかの条件を加えることができます。
解析後、OSCのPITCHやAMPと書かれた部分をクリックするとピッチやアンプ情報が表示されます。
便利だと思ったのは、解析元のサンプルを1〜3の好きなSAMPERにアサインできることです。これによって解析前と解析後がすぐに比較できますし、当然、それらをミックスして一つのキックサウンドとして扱えます。
解析後、OSCのPITCHアイコンの部分をクリックするとPITCH情報が表示されます。
そしてこれらをミックスしたものがこちら
ピッチやアンプカーブにそったサイン波が出力されているので、EQ等で足りない量感を補うような音色にならずとてもクリーンなキックになります。
もう一つ試してみましょう。
さらに、これに任意のキックを音源をSAMPERに読み込ませることで、最大4レイヤーのキック作りが可能です。
バチッとしたアタックにクリーンなサイン波が加わることでより勝手が良いキックになりました。
これらは想像している以上に効果的で、サブオシレーターやコンプやイコライザーなどを使ってキック処理をする必要がなくなります。今までプロが時間をかけて作り上げた最高のキックが誰でもかんたんに作れるようになったわけです。
おそらく数年前ならばこのような処理がされたキックが普通の商品として世界中のキック音源愛好家の間で使用されていたレベルですが、今後はKick Ninjaで解決します。
エクスポートが簡単
Kick Ninjaはプラグイン内で生成した音色をすぐにオーディオファイル化し、ドラッグアンドドロップでDAWに貼り付けられます。この機能は、Sonic AcademyのKick2やD16のPunchBoxでも可能でした。
しかし、Kick 2ではRENDERと呼ばれる部分でキックを生成後に貼り付けることになります。またPunchBoxではエクスポートボタンで生成はできますがDAWに直接貼り付けることはできません。
しかしKick Ninjaは上部にあるExportをドラッグすることでオーディオファイルが瞬時に生成され後はDAWにドラッグアンドドロップするだけです。
そして、この生成されたオーディオファイルですが、これをまたSAMPERに読み込ますことも可能です。
このあたりの使い勝手は他のキック音源よりかなり洗練されているように思います。
波形が選びやすい
Kick NinjaのSAMPERはアタック的な波形から、シンセサイザーの波形まで幅広く用意されているのも面白いです。
これらの波形をOSCと上手くミックすることで他のキック音源のような音作りが可能です。
しかし、この波形ブラウザで便利なのは、例えば何かしらのオーディオファイルを任意のSAMPLERにドラッグアンドドロップで読み込ませた場合、表示内容は読み込ませた内容および、そのファイルの中身に変わります。
例えば、読み込ませた後に「これじゃないな!他のキックを試したい!」となった場合に同じフォルダ内に大量のキックがある場合、サウンドネームの右になる矢印をクリックすれば順次送りが可能になります。
とても地味なのですが、この機能による時短効果は想像以上に高いです。
拡大縮小をスクロールバーに入れてほしい
中央ウィンドウにプリセット及び読み込ませたキックの波形が表示されます。この波形はSAMPERによって色分けされているので、タイミングの修正等にも大いに役立ちます。
ほぼほぼ文句はない素晴らしい操作性および機能性ですが、個人的にこうすれば嬉しいという部分が中央画面の拡大縮小です。
右端にある+-を使うことで中央波形の大きさが変更できます。変更することでスクロールバーが表示されるようになりますが、スクロールバーの端っこをOptionクリックで拡大縮小ができるようになればもっと便利な気がしました。
あと、立ち上げ時に特に調整が最小限に設定されているInitializeパッチが存在しますが、この場所がNinjaと書かれたフォルダの中にあります。できれば一番トップにあるとすぐに初期状態に戻せるのでその方が便利ではないかと感じました。
システム
macOS
- Mojave 10.14以上
- Intel Core i5以上
- Apple Silicon M1以上
- フォーマット: AU、VST3、AAX
- インターネット接続
ウィンドウズ
- Windows 7 64 ビット以上
- フォーマット: VST3、AAX
- インターネット接続
まとめ
最強です。Kick Ninja
いままではPunchBoxたまにKick 2という感じの使用頻度でしたが、Kick Ninjaがあれば、それらはもう必要がないような気がしています。
音質もさることながら、操作性が素晴らしいです。
レビュー項目では紹介しきれませんでしたが、簡易のエフェクト機能もそれなりに使える印象でした。
おそらくキック音色を作るにあたってもう苦労することはないと思いました。
とにかく、これは買いです。楽曲はキックが9割です!