ドラムやベースの迫力が今ひとつ足りない。ボーカルがもっと前に出てきほしい。
こんなときに試してみたいのがテープエミュです。テープエミュはアナログテープの質感(サチュレーション)を再現できるVSTプラグインBaby Audio TAIPです。
Baby Audio TAIPはAI技術によってテープ特有のサチュレーションをよりナチュラルによりアグレッシブに再現しています。
Baby Audio TAIPとは
新しいテクノロジーで創造性と表現を刺激する直感的なツールに変換することを使命としているデベロッパーBaby Audio そのBaby Audioが新しく作り出したプラグインがTAIP(テープ)です。TAIPはテープサウンドの質感、及びサチュレーション、BUSトラックにおけるGLUE効果などをAIによって調整することができる画期的なテープサウンドエミュレーションプラグインです。
触った感想としては「シンプルなインターフェイス画面だけれど、出てくる音ではめちゃめちゃテンションが上がるサウンド」です。
DSPとAIの処理の違いについて
DSPとはデジタルシグナルプロセッサーの略で、。DSPを使うことでパソコン本体のCPUに負荷をかけずプラグインを使用できるものです。DTMERがイメージしやすいのはUAD等のハードウェアでしょう。
しかしBaby Audio TAIPはプラグイン。外部装置ではありません。ではどういう解釈で使われているのか?
Baby Audioの公式でAIについて次のような記述があります。
従来のDSPを使用する代わりに、アナログ回路の目に見えないニュアンスを解読するように設計されたAIアルゴリズムを中心にTAIPを開発しました。
引用:Warm Up Your Sound.より和訳
DSPはあくまでプロセッサーなわけですから、ソフトウェア上で語る文脈ではないのかもしれません。ここでのDSPとは従来のプログラム方式のことを言っているのだと思われます。
DSPは人の手によってプログラムされたもの、それに対してAIはディープラーニングによってその挙動を解析しています。そのため人の手によって100の可能性を考える部分をAIによって10000まで広げ(あくまで1例です)ることが可能なため、挙動の再現に適していると言えます。
ただ、現在のAIはドラえもんではないため、「ほなよろしくーボタンぽちー」というわけではなく、ベースとなるデータをしっかりとAIに与えないと精度の悪い解析結果が出ることがあります。
Baby AudioのTAIPがどれほどのディープラーニングで仕上がったのかは私達が試して判断するのが一番だと言えます。
TAIPの特徴
TAIPは、本格的なビンテージサウンドとモダンな機能セットを組み合わせて、DAW時代に理想的な「テープマシン」を作成するための私たちの試みです。そのパラメータを使用すると、必要に応じて適切なテープフレーバーをカスタマイズできます。
引用:BABY AUDIO 公式サイト TAIPの説明より和訳
このフレーバーというところがポイントであり最大の特徴でもあります。TAIPの特徴は「〇〇テープを完全に再現した!」というものではなく、AIによってテープサウンドから得られる「らしさ」を追求したものになります。
TAIPと同製品の価格差
通常69ドルが今だけ39ドルで購入できます。ちなみにここではいくつかのテープエミュレーションを紹介していますが、価格比較と機能を簡単に比較すると次のようにになります。
メーカー | プラグイン名 | 機能面 | 価格 |
Baby Audio | TAIP | AIによるテープフレーバーの再現 | 69ドル(39ドル) |
Tone Empire | Reelight PRO | 6つのテープデッキををDSPとIRによって再現 | 99ドル |
SLATE DIGITAL | VTM(VIRTUAL TAPE MACHINE | 2種類のテープデッキと2種類のテープをエミュレート | 182.91ドル |
Softube | TAPE | 3台のテープデッキをエミュレーション | 99ドル |
waves | J37 Tape | 1台のテープデッキと3つのテープをエミュレーション | 43.65ドル |
Ik multimedia | Tape Collection | 4台のテープデッキと4つのテープをエミュレーション | 231.51ドル |
Nomad factory | Magnetic2 | 10代のテープデッキをエミュレート | 132.80ドル |
他のテープエミュは特定のテープサウンドを再現することをコンセプトとしているのでTAIPは厳密な意味で比較の意味をなしませんが、サウンドにはBABY AUDIOのユニークな解釈が織り込まれています。
TAIPの使い方のコツ
ドライブの量がすべての肝!かけすぎ注意
テープサウンドエミュレーションで重要なのはDRIVE、つまり飽和です。この飽和は行き過ぎるとテープの質感の再現を超えた結果になるため「色付けをしない(歪ませすぎないこと)」ということが望まれてます。
しかし、TAIPのDRIVEはお構いなしにドライブで強烈に色を付けることが可能です。デフォルトでは0dBですが、思い切って10dBくらいあげてもハードなサチュレーション効果が楽しめます。
もちろんこれでクリエイティブテンションが上がるのであればよいのですが、かけすぎによるテンションは所詮一過性にものに過ぎません。あくまで味付け程度(3dB〜5dB)が望ましいです。
デモではドラムループにDRIVEをかけています。デフォルトでの0dB〜最大値の40dBそして最小値の-40dBまでをオートメーションカーブで変更させています。
最大値の40dBではかなりの歪みが得られますが、やはり40dBまで上げてもサチュレーションの質感を残したままの歪になっています。また面白いのはDRIVE等のパラメーターは多くのテープエミュの場合0dB以下になることはありませんが、TAIPでは-40dBになり、当然VOLUMEのような効果が生まれ音量自体が小さくなります。
音が変化するパラメーター 一覧
TAIPには以下のパラメーターがあります。この中で音色に強く影響するパラメーターは次の通りになります。
DRIVE AUTO GAINとMIXは省きます。
つまり音作りで触っていく順番はDRIVE、LO-SHAPE、MODEL (SINGLE DUAL)をメインに触ることでより音の変化がわかりやすく感じられます。
シングルとデュアルの違いを理解すればより好みのテープフレーバーが得られる!
MODELはSINGLEとDUALの2つが存在します。これは倍音の出方をコントロールするものであり、SINGLEとDUALで次のような倍音の出方になります。
これはC2(64Hz)のサイン波をSINGLEとDUALで計測したものです。(わかりやすい結果がでるようにDRIVEを4dBにしています)DUALでは第5倍音が出ているのがわかります(E4 332Hz)倍音がでれば、音程の低い音色は重心を感じやすくなります。
ただ、DRIVEの量によってはあまり差がわかりにくい場合があるので、上記で説明しているように4dB〜10dBくらいの間で効果を感じた方が良いと思います。
デモではドラムループで最初の4小節をSINGLE 後半の4小節をDUALにしています。
正直微妙な変化に感じる人も多いかもしれませんが、これは絶妙な変化加減と言えます。DRIVEやLO-SHAPE等の設定次第でさらに音を作り込める要素があります。個人的に地味ですがこのパラメーターが好きです。
GLUE〜コンプまで幅広いサウンド!使いすぎは注意!
非常にわかりやすい名前で「GLUE」というのがあります。
これはバスチャンネルでまとめたトラックを馴染ませる効果が得られるというものですが、TAIPのGLUEは設定によってはかなりのコンプ感が得られます。公式サイトでも「GLUE効果として使うほかコンプとして使って」と説明しているほどわかりやすいコンプ感が得られます。
デモでは以下の画像のようにGLUEを変化させていきました。最大値にするとかなりパコーンと気持ち良いコンプ単体のスネアに使いたくなる音質です。
GLUE効果としては40%〜50%程度、それ以上はかなりコンプが強くなってきます。
TAIPのメリット
少ないパラメーターでもしっかりとしたテープフレーバーを調整可能
触る前んは「これだけのパラメーターだからあまり音作りは見込めないだろう」と思っていましたが、そんなことはありませんでした。
それぞれのパラメーターはテープフレーバーの要素を的確に捉え、ウォームなサウンドからアグレッシブなサウンドまで幅広い音作りが可能です。
音作りにこだわりたい人からちょっと通すだけでいい感じになってほしいと思うようなタイプの人まで幅広く使えるプラグインだと思います。
マスターに使ってもしっかりと雰囲気がある!
使いすぎるのは問題ですが、エッセンス的に使うのであればマスターに使っても面白いと思いました。
デモでは最初の8小節はバイパス、後半の8小節はONにしています。
若干スネアのハイが強調され気味ですが、調整次第で落ち着けることが可能です。もちろんバスに使うあたりが本領発揮しそうなのは言うまでもありません。
「音が混ざらない」「特定のトラックだけが浮いてしまう」という悩みがある人には試してみるとよいでしょう。
CPU負荷が軽いのでガシガシ使える!
CPU計測環境は以下の通り
パソコン Macmini2018
CPU Corei7(i7-8700B)6コア HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS10.14.6 Mojave
Audio/IF APOGEE Symphony Ensemble
バッファー 256
DAW LogicPro10.6.2
48kHz/24bit
再生ストレージ HDD
AD2(ドラム音源)パラアウトにSSL CnannelStrip、MODOBASS、Logic付属のEPなどTAIPを7つほど挿した負荷がこちらの画像です。
それほど重くないのでガシガシと気になるトラックに使えますが、こういう系のプラウグインは使いすぎていると飽和気味になりマスタリング時の音圧調整が難しくなるケースがあるので、あくまでさじ加減程度に使うのが良いでしょう。
TAIPのデメリット
ソフト内のバイパスとDAW付属のバイパスボタンが連動しない
TAIPは画像の赤い部分をクリックするとバイパスになります。
しかし、DAWのミキサー画面やプラグインのバイパスボタンはONのままになるので使うときは注意が必要です。気がついたらTAIPを通っていなかったということになりかねません。なぜこの仕様にしたのか気になるところです。
インターフェイス画面で損しているかも…
シンプルで良いインターフェイスですが、もう少しリアリティをもたせられたらもっと話題になったのでは?と思っています。もちろんこのインターフェイスにすることでGPU的な負荷を抑える効果があるとは思いますが、音が良いだけにもう少しだけリアリティがある画面なら嬉しかったです。
A/B切り替えボタンがほしかった
微妙なさじ加減を調整するプラグインではやはりA/B切り替えボタンがあってほしいところです。次回のバージョンアップでついてくれると嬉しいのですが…
この他にもプリセットにお気に入りボタン等はぜひ欲しいところです。TAIPのCPU負荷
TAIP 口コミ
BabyAudio TAIP
— 品川 洋 (@old47shinagawa) October 11, 2021
これ非常に良いですね
簡単に魅力を表現しますと
「アナログワールドのテープ効果を
デジタルワールドで合理的に機能するように翻訳されたテープ効果」
測定したところエイリアシングノイズフィルターも付いています
新しい時代のサチュレーターだと思います
ゲームチェンジャーです https://t.co/Q5vSM7GOI2
Twitter上でもほとんどノーマークと言えるほど盛り上がっていませんww
しかし、音質に関してはテープエミュかどうかを覗いても非常に使いやすくウォームでまとまりのあるテープサウンドになります。
TAIPのシステム要求環境
macOS:
- macOS 10.7 and up (including Catalina & Big Sur).
- Plugin Formats: VST, VST3, AU, AAX
- DAW’s Supported: Ableton Live, Pro Tools, Logic Pro, FL Studio, Cubase, Nuendo, Reaper, Reason + more.
- Compatibility: 64-bit compatible only.
Windows:
- Windows 7 and up.
- Plugin formats: VST, VST3, AAX
- DAWs supported: Ableton Live, Pro Tools, Logic Pro, FL Studio, Cubase, Nuendo, Reaper, Reason + more.
- Compatibility: 64-bit and 32-bit compatible.
ちょっと驚いたのはMacOSが10.7と記載されています。Lionさんでも動くのでしょうか?そこからBigSurまで対応というのは幅が広すぎます。オーソライズ方式はシリアル入力タイプです。
TAIPのQ&A
- TAIPでは複数のテープサウンドをエミュレートしていますか?
-
特定のテープサウンドをエミュレートしているのではなくAIによってテープサウンドの雰囲気を忠実に再現しているプラグインになります。
- TAIPのプリセット数はいくつですか?
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マーク・ニーダム(フリートウッド・マック、キラーズ、ブロック・パーティー、エルトン・ジョン)
マックス・イェーガー(アリアナ・グランデ、カニエ・ウェスト、ドレイク、カルビン・ハリス)
イーストバウンド(トラビス・スコット、ヤング・サグ、ジャズ・カルティエ)
ロブ・クライナー(シア、ブリトニー)スピアーズ、デヴィッド・ゲッタ、シーロー)
シーザー・ソグベ(プリンス、デヴィッド・バーン、ジェニファー・ロペス)これらのエンジニアによって作られた135のプリセットがあります。
- プリセットは拡張可能ですか?
-
可能です。プリセットの右隣のボタンを押すとSAVE画面に変わります。
- TAIPよりもオススメのテープエミュは?
-
サウンドに何を求めているのかにもよります。テープ固有のサウンドを求めるのであれば、SoftubeのTAPEやNomad factory のMAGNETICⅡ Tone EmpireのReelight PRO の方が楽しめるように思います。
しかし、TAIPは自分でそれらの固有のTAPEサウンドをカスタマイズするような感覚なので作り込むことでかなりユニークな結果を作り出せる楽しみがあります。
まとめ
個別のテープエミュレートについて各デベロッパーが競い合っている中で「テープフレーバーをカスタマイズする」という面白い切口で作られたTAIP テープの中にAIを入れるだからT・A・I・Pというのも洒落てますね。
パッと聴いた印象としてはNomad factory のMAGNETICⅡに近い雰囲気があるプラグインですが、重心の捉え方や高域の雰囲気などTAIPの方が使いやすい印象です。
使いすぎるととにかく飽和しがちなのでそのあたりは十分注意する必要がありますが、出てくる音にはクリエイティブなモチベーションを揺さぶられるものがあるので、使ってみることをオススメします。
注意だよ