テープエミュの使い方の1つとしてよくあるのが「汚し系」テープサチュレーションを使うことで得られる独特の飽和感。これが音楽に暖かみを与えると言われています。
しかしReelight PROは「単なる汚し系テープエミュ」で終わらせるのはもったないテープエミュレーションプラグインです。
その理由はReelight PROには他のテープエミュにはないジェントルな響きがあるからです。サウンドに暖かさだけではなく落ち着きをも与えてくれる。もちろん使い方はシンプル!初心者から上級者まで幅広く使えます。
テープエミュなんてどれも一緒!と思っているけれど「ちょっといいのがあれば試してみたい!」という人にReelight PROはオススメです。
この記事では実際触りながら感じたメリット・デメリットについて解説しています。
Tone Empire Reelight PRO 概要
Tone Empireは新しい技術で往年のハードウェアサウンドを再現するメーカーとして注目されています。Reelight PROはテープサウンドから得られる音の暖かさを従来のテクノロジーと新しいIRテクノロジーのハイブリッド形式で再現しています。
Tone Empire Reelight PROを一言で表すならば「次世代式ハイブリッドテープエミュレーション」となりその効果は「ジェントルな立ち振舞をするテープエミュレーションプラグイン」です。
Tone Empire Reelight PROレビュー
音質 | 4.5 |
機能性 | 4 |
操作性 | 4.5 |
安定性(CPU負荷) | 3.5 |
価格 | 4 |
総合評価 | 4.1 |
音質
音質は多彩で微妙なさじ加減によってテープの質感が再現されている様子です。
バスやマスターに使うやり方もありですが、TYPEによっては高域を慣らす目的でトラックに使うのもありな印象です。
機能性
Reelight PROは6つのテープサウンドを従来のDSPモデリングとIRレスポンスを使って再現しています。
IRレスポンスとは?
機材、音響環境、再生システムそれぞれが持つ音の特性を記録したオーディオファイルであり、これらを使用することでアルゴリズムによる音質の再現とは根本的に違う生の音の再現を得ることが可能になります。
アンプのキャビネットエミュや、リバーブ、最近ではサンプラーのAD/DAを再現したプラグインにも使用され始めています。
Reelight PROは6つのテープエミュを再現しています。
- A – AMPEX ATR 700
- B – STUDER A 812
- C – STUDER A 80
- D – TEAC A2300 SD
- E – AEG TELEFUNKEN M20
- F – REVOX B77 mk2
音が好みかどうかが一番大事!
動画による実機の紹介
A – AMPEX ATR 700
B – STUDER A 812
C – STUDER A 80
D – TEAC A2300 SD
E – AEG TELEFUNKEN M20
REVOX B77 mk2
またヒステリシス処理や優れたサウンドのレゾルバによりリアルなテープの質感を再現しているとのこと、
ではヒステリシスとは何か?
変化を与えるものの変化状態がもとに戻っても、変化を与えられるものは同じ状態にもどらずに別の変化を示すような特性
引用:自動車部品と制御を学ぶ】制御とヒステリシスの考え方/ヒステリシス設定のポイン
このヒステリシス はテープサウンドが劣化する原因の1つであり、録音・再生時に音の歪や雑音の元となります。
Reelight PROではこのヒステリシスが極力起こらないように調整します。レゾルバは解決/分解という意味があり、ヒステリシスで起こる問題とそれを音楽的な意味で解決するための方法が模索されて作られています。
操作性
Reelight PROには6種類のテープが用意されていると先程説明ました。
- A – AMPEX ATR 700
- B – STUDER A 812
- C – STUDER A 80
- D – TEAC A2300 SD
- E – AEG TELEFUNKEN M20
- F – REVOX B77 mk2
テープを選択できるテープエミュプラグインを使うときはそれぞれがどんな音の特徴を持っているのかを知っておくことが大切です。
またReelight PROではテープ速度(FAST SLOW)によっても音質や音量が変化します。下記の画像ではピンクノイズをReelight PROに入れテープ速度を変化させたものとそうでないものをスペクトラム・アナライザーで表示してみました。
この画像を見ながらデモを試せば音の傾向をよりはっきりと理解することができ、トラック(音色)に適したテープTYPEを選択することが可能になります。
パラメーターは立ち上げ時の設定になります。
テープ速度をSLOWにすると低域〜中域の周波数のゲインが上がり、高域のゲインが下がります。この中で音質変化がさほどなくテープサウンドエミュレーションとして使いやすいのは次の2つです。
- C –STUDER A 80
- E – AEG TELEFUNKEN M20
もちろん使用する楽器の帯域によっても質感は異なるので、上記の画像を参考にしながら選んでみるとよいでしょう。
VUメーターをしっかりと見て突っ込む量を調整しよう!
目立った効果がないからと言ってどんどん突っ込むと歪み大切な音楽を台無しにします。Reelight PROはツッコミすぎた場合のオーバーサチュレーションはあまり音楽的とは言えないかもしれません。
中央のVUメーターがゼロないし+1〜2に瞬間的に振れるくらいの使い方をすると無理に飽和することなくほどよいサチュレーションを得られます。
インプットには-24dBと+24dBの切り替えスイッチがあるので、入力ゲインが今ひとつの場合は試してみるのもいいですが、音量差がかなり発生するので注意したほうがよいです。
最初触ったときに「ん?コンプ動いている?」と思うほどコンプ感がありませんでした。公式の説明でも以下のように効果は微妙と説明しています。
コンプ
これにより、コンプレッサーのようにサウンドのエンベロープが制御され、ユーザーはテープの「圧縮」特性をエミュレートできます。効果は微妙ですが、目立ちます。
引用:Tone Empire Reelight Pro の和訳より
しかし、あるからには使ってみたいというのがDTMerです。Reelight PROのコンプを使う場合は入力ゲインを高めにします。Reelight PROのINPUTを上げるのではなく、外部プラグインでゲインを稼ぐなどをしてコンプを作動させてやる感じです。ただやはり音の傾向はバキバキににはならず、ボリュームを抑えるような印象なので、コンプによる積極的な音作りは向かないように思います。
テープはアニメーションしません。特にカラーを変えられるわけではない割とシンプルなテープエミュですが、必要最低限のパラメーターでテープの質感を追い込めるので必要以上にこりたくない!作曲に集中したいけどサクッとそういう音質が欲しい!というときにはReelight PROは頼もしい相棒になってくれると思います。
安定性
CPU負荷はそれほどではありません。
ドラム音源(AD2)、ベース音源(MODO BASS) アコースティックギター音源(Hammingbird)エレキギター音源(IRON2) ストリングス音源(Kontakt)トランペット(WIVI)ビブラフォン(Pianoteq7)
ほど良いまとまり感が出ているのがお分かりいただけると思います。
諸々のソフト音源立ち上げながらReelight PROを11トラックに使用した結果が以下の画像になります。まだまだ余裕ですね。軽いのでガシガシと使えます!
CPU計測環境
パソコン Macmini2018
CPU Corei7(i7-8700B)6コア HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS10.15 Catarina
Audio/IF APOGEE Symphony Ensemble
バッファー 256
DAW LogicPro10.6.3
48kHz/24bit
再生ストレージ HDD
価格
価格は$99.00です。似たようなコンセプトで作られているテープエミュレーションプラグイン等の価格と比較してみました。
メーカー | プラグイン名 | 機能面 | 価格 |
Tone Empire | Reelight PRO | 6つのテープデッキををDSPとIRによって再現 | 99ドル |
SLATE DIGITAL | VTM(VIRTUAL TAPE MACHINE | 2種類のテープデッキと2種類のテープをエミュレート | 182.91ドル |
Softube | TAPE | 3台のテープデッキをエミュレーション | 99ドル |
waves | J37 Tape | 1台のテープデッキと3つのテープをエミュレーション | 43.65ドル |
Ik multimedia | Tape Collection | 4台のテープデッキと4つのテープをエミュレーション | 231.51ドル |
Nomad factory | Magnetic2 | 10代のテープデッキをエミュレート | 132.80ドル |
Baby Audio TAIP | TAIP | AIによるテープフレーバーの再現 | 69ドル |
価格的な対抗馬となるのはSoftubeのTAPEでしょうか。DSPモデリングとIRレスポンスを使って作られた6つのテープエミュレーションが99ドルなわけですから、TAPEよりもコスパはよさそうです。そうなるとあとはインターフェイスの画面や音質の好みとなりそうです。
それでも「購入するのはちょっと勇気がいるなー」と思う人は以下のサイトからデモを試すことが可能です。
でもトライアル版って機能制限あったりするよね??
最大15日間完全に機能するタイプのプラグインだから安心して使えるよ!
Reelight PROメリット・デメリット
IRによるテープサウンドの再現は他と一味違う!
今までのテープエミュはプログラムによるものでしたが、Reelight PROはIRとモデリングによって実機の挙動を再現しているため、よりらしい音質を再現することに力を入れているように思いました。
IR技術によるテープサウンドの再現は他のテープエミュよりナチュラルでありながらもコシのあるサウンドにしてくれます。
今後はテープエミュ等もIR技術がベースとなってくるような予感がします。
パラメーターを触ってからプリセットを変更すると最初に戻ってしまう
これはバグだと思われますが、Reelight PROでプリセットを選びパラメーターを動かしてプリセットを矢印ボタンで次に進めるとプリセットが1番に戻ってしまいます。
これは結構手間なので早急になおしてほしいところです。
HIGH PASSとLOW PASSの周波数が表示されない
Reelight PROにはHIGH PASSとLOW PASSの二種類のフィルターが搭載されています。しかし、搭載されているフィルターのどちらもパラメーターを動かしても周波数表示がされません。
「耳で確認してね!よろしく!」みたいな感じなのかもしれませんが、このあたりは周波数が表示してくれるようにしてもいいのでは?と思ってしまいます。
想定していない使い方では不安定な場合がある。
計測時にピンクノイズを過剰に入力させレッドゾーンを振りきららせてていると、突然バリバリとノイズを立てて落ちるときがありました。また落ちない場合でも、パラメーターを動かしても効果はありません。
ただTYPEタイプを変更すると正しく音がでるTYPEタイプとそうでないものがありました。TYPE Cは特に一度バリバリが出ると元に戻らなくなるので、一度プラグインを立ち上げ直した方がよいように思います。
おそらくこのような使われ方は想定しないために起こるバグだと思われます。
普通に使う分には特に落ちる等のトラブルは触っていてありませんでした。
Reelight PRO 口コミ
Tone Empireのテープエミュ、Reelight Proもめっちゃ良さそうだな〜。
— くうP (@kuupee_p) April 30, 2021
昔々、IK使ってると「T-Racks? なにそのギャグみたいな名前」って言われた事があったんだけど
今はまだ知る人ぞ知るって感じのTone Empireも、このまま上手くいけば
誰でも使ってるでしょ系の大手になる空気感あるね。
Tone Empire確かにそのとおりでまだまだ知られていないデベロッパーですが、作っているものはいいので、どこかで大きく花開いてほしいと思うばかりです。
しかし、やはりまだ無名に近いのか、使っているユーザーの声はあまりなく、盛り上がりにはかける印象があります。ただ音の効果は他のテープエミュと比較しても劣っているわけではないので、評判の声以上に使ってみないとその真意は測りかねる実力を持っています。
Reelight PROのシステム要求環境
Mac
- OSX:10.13ORLATER(CATALINA,BIGSUR,M1SUPPORTED)
- VST3 / AU / AAX (64-bit host required)
- AMD Ryzen or equivalent
- 2 GB RAM / 300 MB HD Required
- Screen resolution: 1024×76
Windows
- Windows 10 (64-bit only)
- VST3 / AAX (64-bit host required)
- AMD Ryzen or equivalent
- 2 GB RAM / 300 MB HD
- Screen resolution: 1024×768
こちらもMACの最新のOS及びM1チップに対応しているので安心して使えます。オーソライズ方法はシリアルナンバー方式なので、iLokは必要ありません。
そもそも論!テープエミュは絶対必要なのか?
テープエミュは作曲にとって必ずしも必要ではありません。テープエミュがなくても曲はかけます。ではなぜこれほどテープエミュというものが次から次に出てくるのか?
歪のないクリーンなデジタルの世界はどこか物足りないものです。その物足りなさを補うように、多くの人がテープエミュやサチュレーションという歪みに心を奪われているわけです。
なので、もしDAWを作曲のツールとして使いながらも「どこか物足りない」という漠然としたものがあるのであれば、テープエミュを使うことでその何かを埋められる可能性はあります。
しかし、大切なのは、プラグインに踊らされるのではなく、自分がプラグインを使いこなそうとする気持ちだと思います。やはり作曲の主人は自分で有りたいものですよね。
まとめ
テープエミュはデベロッパーによって機能も音質も違います。それゆえに「どれが一番いいのか?」という疑問が出てくるわけですが、正直なところ、「自分が好きなものを選ぶ」しかありません。
本物と比べればどれも異なる。ということであって大切なのはそのプラグインが持つ雰囲気とそこから出てくる音にどれだけモチベーションが維持できる要素があるか?ということです。
Reelight PROかかり方は非常にジェントルです。大人なテープエミュと言っても過言ではありません。落ち着いたテープサチュレーションから得られる音の暖かさはReelight PROでしか得られない美学があるサウンドです。
「とりあえず一度使わないとわからん!」という人はデモを試し見ることをオススメします。