音楽制作において「作曲」と「編曲」の違いをご存知ですか?この二つのプロセスは、どちらも音楽の創造に欠かせないものですが、それぞれの役割や求められるスキルには大きな違いがあります。
本記事では、作曲と編曲の基本的な定義から、そのプロセス、必要なスキル、そして実際の音楽制作における違いまでを詳しく解説します。
作曲家と編曲家の仕事の違いや、初心者がどちらから始めるべきか、さらには依頼方法や著作権の取り扱いについても触れています。これから音楽制作に挑戦したい方や、既に取り組んでいる方にとって、役立つ情報が満載です。
作曲と編曲の違いについて
作曲と編曲の違いはかんたんに言えば次のようになります。
作曲:メロディを作ること
編曲:メロディに方向性を決定する
ではこの2つを踏まえながらもう少し作曲と編曲について詳しく解説していきます。
作曲の定義と役割
重複しますが、多くの人は作曲とは、新しい音楽作品を創り出すプロセスであり、メロディー、ハーモニー、リズムなどを組み合わせて、全く新しい音楽を作り上げること、と認識しているかもしれません。
しかし、制作プロの世界からみた作曲とは「メロディを描くこと」です。これを業界用語でトップライナーといいます。
もちろん、ピアノの伴奏といっしょにメロディを作ることもあるので、コード進行も「作曲」とする考えもあります。しかし、その場合基本的な立ち位置で考えると主役はメロディになり、コード進行については編曲時に変更することは多いです。
またメロディがないようなアンビエンス系の場合、コード進行自体が作曲という位置づけになるケースもありますが、基本は「歌もの作曲=メロディを作る」で間違いはありません。
編曲の定義と役割
編曲とは、既存の楽曲に対して、楽器の選定や音の配置を変更し、新しいバージョンを作るプロセスです。編曲者の役割は、原曲の魅力を引き出し、異なるスタイルや雰囲気を加えることです。
わかり易い例で行くと、ボサノバアレンジ、ダンスアレンジ、ジャズアレンジ、という言葉は普遍とするメロディがあって初めてそのアレンジ(編曲)が成り立ちます。
ちょっと乱暴に言ってしまえば作曲のさの地も知らない人が「鼻歌」で作れば作曲であり、それを多くの人が聴いてより親しみやすいパッケージにするのが編曲ということになります。
よく楽曲分析の是非が問われますが、多くの場合楽曲分析はメロディとそれに肉付けされた楽器隊の構成等を学ぶものであり、その場合は作曲を学んでいるよりは編曲を学んでいるという解釈になります。
作曲と編曲に必要なスキルについて
作曲と編曲では求められるスキルが異なります。歌もの作曲(メロディメイク)で考えた場合は、キャッチーであることが前提になり、一方、編曲時においては物事を大局的に見る必要性があります。
ここでは、それぞれのスキルについて解説していきます。
作曲者に必要なスキル
作曲者に求められるスキルはずばり良いメロディを描くこと、これにつきます。
では、どのようにすればよいメロディがかけるのか?これには、色々なアプローチがありますが、歌ものである以上、歌えることが前提になるでしょう。ボカロでは人間の歌唱範囲をはるかに超えた音程やリズムが評価されるケースもありますが、人が歌う場合はまず、自分が歌えることが前提です。
作曲者には、音楽理論の知識が必要とSNS界隈で度々話題になります。
しかし、上記のようにメロディを描くということに限れば、音楽理論や知識はそこまで必要ではありません。むしろ下手に理論を知ってしまえば、それが足かせになりメロディの自由度を縛ってしまうことになります。
個人的な考え方として、作曲は抽象的なものだと思っています。
その抽象的なものを大多数の人が共感しやすいテーマ性を見出す能力がこれが作曲に必要なスキルです。
そもそも、理論は作曲のためにあるのではなく、「そのメロディや音楽構成を解明する」というアカデミックな領域の作業のために持ちられたものであって、作曲に必要不可欠なものではありません。
編曲者に必要なスキル
編曲者には、幅広い音楽知識と創造的なアプローチが必要です。さらに、楽器の特性を理解し、音響技術を駆使するスキルも重要です。
- 音楽理論の知識:コード進行、スケール、ハーモニーなどの基本的な音楽理論を理解すること。
- 楽器の理解と演奏技術:複数の楽器の特性と演奏法を理解し、必要に応じて演奏できること。
- 音楽ソフトウェアの操作スキル:DAW(デジタルオーディオワークステーション)や音楽制作ソフトの操作技術。
- クリエイティブな発想力:新しいアイディアやアレンジを創出する創造力。
- 音楽スタイルの知識:さまざまな音楽ジャンルやスタイルに精通し、それに応じたアレンジができること。
- コラボレーションスキル:作曲家、演奏者、プロデューサーなどと円滑にコミュニケーションを取り、共同作業を行う能力。
- ミキシングとマスタリングの基礎知識:最終的な音質を向上させるための基本的なミキシングとマスタリングの技術。
- 耳の良さ:音楽の細部にわたる違いやニュアンスを聴き分ける能力。
- 時間管理能力:プロジェクトのスケジュールを管理し、締め切りを守るための時間管理スキル。
- 問題解決能力:音楽制作の過程で生じる問題を迅速かつ効果的に解決する能力。
編曲はそれっぽいことをやって終わり、というわけにいかず、演奏者のための譜面作成や、資料作成、からミキシング、マスタリング的な知識まで、非常に幅広い知識が求められます。
またよほどのことがない限り、編曲者は作曲家が作ったテンポを変更することはできません。
「テンポを1や2変更してもそんなに変わらないやん?」って思うかもしれませんが、作曲者は音符の長さや休符の位置、などすべてにおいて意味を見出しています。
テンポを変更してしまうということはその作曲家の意図を無視することになるので、テンポを変更する場合は作曲家への確認は絶対です。
アニメソングの場合、曲尺が89秒といったような物理的な問題があるので、安易にテンポを変更はしてはいけないのです。
作曲と編曲のプロセスについて
作曲と編曲にはどのようなプロセスがあるのか?それについて解説していきます。
作曲のプロセスと流れ
作曲のプロセスは、インスピレーションを得ることから始まります。
このような言葉が「作曲は特別なもの」という印象を与えてしまうかもしれませんが、作曲は基本自分の中にある音楽の再解釈でしかありません。
よくいう「ゼロからイチを作る」というのはわかりやすい表現であっても音楽的な意味で「ゼロ」はこの世に存在していません。
自分の中にある「イチ」をどのように解釈して、それを生み出すのが作曲の流れになります。
たった1音のメロディでリスナーを説得させることになるわけですから、メロディの動き一つにしてもとてもシビアで繊細な世界だと言えます。
編曲のプロセスと流れ
多少人によって異なりますが、編曲のプロセスは、原曲の分析から始まります。
まず、メロディとコード、かんたんなドラムトラックなどで構成されたデモを受け取るのが一般的であり、プロセス的には次の流れになります。
- 作曲家やプロデューサーからメロディ、コード進行、簡単なドラムトラックなどを含むデモ音源を受け取ります。
- デモの分析を行い、曲の構造、キー、テンポ、メロディラインを理解します。
- 楽器の種類を選び、どの楽器をどの部分で使用するかを決定します。
- 曲の雰囲気やスタイルに合わせてリズムやハーモニーを再構築します。
- 必要に応じて、歌い手のキーに合わせて曲のキーを変更します。
- 選定した楽器を使って、曲全体のアレンジを構築します。
- リズムセクション(ドラム、ベース)の作成、和音の配置、メロディの装飾などを行います。
- ギター、ベース、ストリングスなどの生楽器の録音が必要な場合、スタジオの手配を行います。
- 楽譜を作成し、演奏者のスケジュールを管理します。
- スタジオでの録音セッションをコーディネートします。
- 録音したトラックをミキシングし、全体のバランスを整えます。
- 各楽器の音量やエフェクトを調整し、曲の完成度を高めます。
- 完成したアレンジを作曲家やプロデューサーに提出し、フィードバックを受けます。
- 必要に応じて修正を行い、最終的なバージョンを完成させます。
- 最終的なミックスを確認し、品質をチェックします。
- 完成したアレンジを依頼者に納品します。
その後、楽器の選定や配置を行い、リズムやハーモニーを再構築します。この過程で、曲の雰囲気やスタイルを大きく変えることができます。
編曲の場合、歌い手が決まっている場合、当然キーの変更が必要な場合もあり、それは編曲時に調整することがあります。
生楽器を使わないような、楽曲であればPC上で完結できますが、ギターやベース、ストリングスなど生楽器の録音が必要な場合、スタジオの手配や楽譜作成、演奏者のスケジュール管理も行う必要があります。
これのスケジュールはプロジェクトによって異なりますが、コンペなどの場合、経験上、メロディを受取2〜3日でアレンジを完成させる流れでした。
作編曲のクレジットについて
アニメのオープニングやドラマのテーマソングでクレジットに編曲(アレンジ)の担当者が記載されていない場合、通常は作曲者が編曲も担当していることが多いです。しかし、これは必ずしも全ての場合に当てはまるわけではありません。いくつかの可能性があります。
1. 作曲者が編曲も担当
作曲者自身が編曲も行っている場合、特にクレジットに編曲者としての別記載がないことがあります。この場合、作曲者がメロディだけでなく、曲の全体的な音の構成(楽器の選択、音の配置、リズムの細部など)も担当していることを意味します。
2. 編曲者がクレジットされないケース
特定のプロジェクトでは、編曲者がクレジットされないこともあります。この場合、作曲者が編曲の一部または全てを担当しているか、プロデューサーや他のチームメンバーが編曲に関わっていることがありますが、特に明示されていないこともあります。
3. 小規模プロジェクト
小規模なプロジェクトやインディーズ作品では、クレジットが簡略化されることがあります。作曲者が多くの役割を兼任している場合や、予算や制作スケジュールの関係で詳細なクレジットが省略されることがあります。
4. チームとしての作業
場合によっては、作曲者が曲の主要なアイデアを提供し、制作チーム全体が協力して編曲を行うこともあります。この場合、特定の編曲者をクレジットするのが難しいため、結果的にクレジットが省略されることがあります。
作曲や編曲の著作権について
この章では、作曲や編曲の依頼方法や著作権について説明します。
結論から言うと編曲に印税は入ってきません。編曲は会社や事務所からの買い取り方式になります。なので100万枚売れても、最初の編曲料以外の収入は発生しません。
ただ、ミリオンアーティストの編曲を担当したということで、次の仕事に繋がりやすくはなります。
著作権印税の分配について
CDの税抜き価格が1,000円で、著作権印税が6%の場合、1枚あたり60円がJASRACに渡されます。
JASRACはこの60円のうち6%(3.6円)を手数料として徴収し、残りの56.4円を著作権者に返還します (JASRAC) (JASRAC)。
具体的な計算の流れ
- CDの税抜き価格から著作権印税を計算:
- CDの税抜き価格:1,000円
- 著作権印税率:6%
- 計算:1,000円 × 0.06 = 60円
- JASRACへの手数料支払い:
- JASRACの手数料率:6%
- 計算:60円 × 0.06 = 3.6円
- JASRACに渡る金額:60円 – 3.6円 = 56.4円
- 著作権者への分配:
- 音楽出版社:50%
- 作詞家:25%
- 作曲家:25%
- 音楽出版社への分配:56.4円 × 0.50 = 28.2円
- 作詞家への分配:56.4円 × 0.25 = 14.1円
- 作曲家への分配:56.4円 × 0.25 = 14.1円
- レコード会社:
- 割り当て:531.0円
- CD小売り店:
- 割り当て:300.0円
- ジャケット代:
- 割り当て:100.0円
- JASRACへの手数料:3.6円
- 音楽出版社:28.2円
- 作詞家:14.1円
- 作曲家:14.1円
- レコード会社:531.0円
- CD小売り店:300.0円
- ジャケット代:100.0円
全体の流れ
- CD販売価格(税抜き):1,000円
- 著作権印税:1,000円 × 6% = 60円
- JASRACの手数料:60円 × 6% = 3.6円
- 著作権者への配分:60円 – 3.6円 = 56.4円
- 著作権者内訳:
- 音楽出版社:56.4円 × 50% = 28.2円
- 作詞家:56.4円 × 25% = 14.1円
- 作曲家:56.4円 × 25% = 14.1円
著作権者への分配
返還された56.4円は、通常、音楽出版社、作詞家、作曲家の間で分配されます。標準的な分配率は音楽出版社50%(28.2円)、作詞家25%(14.1円)、作曲家25%(14.1円)です (JASRAC) (JASRAC)。
レコード会社からの依頼
編曲者は通常、レコード会社から直接依頼を受けて曲を編曲します。これは出来高払いで、1曲ごとに料金が決まります。価格は編曲者の経験や知名度によって異なります (Wikipedia)。
その他の費用配分
レコード会社には531円、CD小売り店には300円、ジャケット代には100円が割り当てられます (JASRAC)。
このプロセスにより、最終的に作詞家と作曲家はCD1枚あたり14.1円、すなわち販売価格の1.41%を受け取ることになります。音楽出版社が著作権管理を行い、JASRACを通じて収益を分配する仕組みは、作詞家や作曲家が安定した収入を得るのに重要な役割を果たしています。
この計算方法は、JASRACの公式情報や音楽業界の一般的な慣行に基づいています (JASRAC) (JASRAC) (JASRAC)。
まとめ
作曲と編曲は音楽制作において重要な役割を担います。
作曲は新しい楽曲を生み出し、編曲はその楽曲を新しい形で再構築します。
それぞれに必要なスキルやプロセスは異なりますが、どちらも音楽制作の成功には欠かせません。初心者はまず作曲から始め、次に編曲のスキルを磨くと良いでしょう。
依頼時には具体的な要望を伝え、著作権の取り扱いについても確認することが重要です。