音楽制作の世界では、サチュレーションプラグインはトラックに温かみと豊かさを加える重要なツールです。
しかし、ほとんどのサチュレーションプラグインは入力レベルに依存し、信号のダイナミクスに大きく影響を受けるため、設定が難しく予測不可能な結果をもたらすことがあります。
そんな中、Techivation T-Saturatorは一線を画し、レベル非依存のサチュレーションを提供します。これにより、入力レベルに関係なく一貫したサチュレーション効果を得ることができ、トラックのキャラクターを精密にコントロールすることが可能です。
何より驚くのはこのプラグインが無料でリリースされているということです。「無料プラグインなんてどうせ大したことない」と思う人は少なくありません。しかし、このプラグインは無料レベルではありません。完全に有償レベルといえます。
この革新的なプラグインがどのように他のサチュレーションプラグインと異なり、どんなメリットをもたらすのか、詳しく見ていきましょう。
Techivation T-Saturator 概要
Techivation T-Saturatorは、音楽制作におけるサチュレーション効果を提供する無料のプラグインです。
一般的なサチュレーションプラグインの挙動はアナログ機器(例えば、真空管アンプやテープマシン)で見られる現象で、入力信号が一定のレベルを超えると、信号が「飽和」し、歪みが発生します。
これにより、信号のピーク部分が丸くなり、ハーモニックディストーションが加わることで、音がより温かく、豊かに感じられます。
CPU負荷はオーバーサンプリングによって異なります。
CPU負荷詳細
オーバーサンプリによって異なるCPU負荷
T-Saturatorはサチュレーターということもありそこまで負荷が高いわけではありません。しかしオーバーサンプリングのクオリティによってCPU負荷が異なるので注意が必要です。
ソフトシンセと併用時にはとくにオーバーサンプリングの設定に注意したいところです。
CPU負荷計測環境
パソコン Macmini2018
CPU Intel Corei7(i7-8700B)6コア
HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS12.6.1 Monterey
Audio/IF Focusrite RED 8PRE
バッファー 256
DAW LogicPro10.7.7
48kHz/24bit
再生ストレージ SSD
それに対して、Techivation T-Saturator入力レベルに関係なく、サチュレーションレベルを動的に調整でき、トラックのトーンとキャラクターを正確に制御します。プロフェッショナルな音質を簡単に操作できるインターフェースで実現しているのが大きな特徴になります。
Techivation T-Saturator サウンドレビュー
T-Saturatorには4つのサチュレーションモードが搭載されているので、それらを一つずつ切り替えながら確認していきます。
まずは何も使用していない状態、
T-Saturatorはドラムバスに使用します。まずはTUBEから
続いてTAPE
次にClip
最後に、Fold
個人的にはTAPEが一番気に入りました。これが本物のテープサチュレーションかどうかは別として、重心の低さだけではなく、画角のクリア感などが使いやすく、リッチなドラムトラックがかんたんに出来ました。
次にお気に入りなのは、TUBEはギターエフェクターのチューブスクリーマー的な雰囲気を感じる音質で、ギターのエフェクターとして使っても面白い効果があると思います。
Clipに関してはそこまで色づく感じはありませんが、ほどよいクリア感があり、癖がつよくないクリッパーとして使うことができそうな雰囲気があります。
FoldはTUBEと音質傾向は似ていますが、Foldの方がやや暗めな印象があり、これもシーンによっては使える音質です。とりあえずパッと聞いただけでも「これが無料…」と唸ってしまう音質です。
機能性および操作性
「Saturation」コントロールは、プラグインに入力された信号に適用される高調波歪みの量を調整します。
T-Saturatorは入力レベルに関係なく動作し、信号全体に均等にサチュレーションが適用されます。このため、設定した「Saturation」の値に基づいて、信号の音量に関係なく一定の倍音が生成されます。
この特徴により、T-Saturatorは、エフェクトの強度が入力レベルに依存する通常の静的サチュレーションプラグインとは異なります。
静的サチュレーターは、信号の大きなアタック部分に多くのサチュレーションを適用しますが、この効果は音楽的に望ましい場合もあります。T-Saturatorは、「Smash」コントロールを使用することで、トラックのキャラクターを正確にコントロールしながら、同様の効果を得ることができます。
しかし、中には入力量に依存するようなサウンドをほしいユーザーもいるかもしれません。その場合はスマッシュコントロールが有効です。
Techivation T-Saturatorのスマッシュコントロールを使用することで、入力量に依存するサチュレーション効果を擬似的に再現することは可能です。これにより、トラックのキャラクターを柔軟に調整し、ダイナミクスを強調することができます。ただし、完全に同じ動作を再現するわけではないため、使用する目的に応じてプラグインを選択することが重要
T-Saturatorの音作りの決定する4つのサチュレーションモードには次のような効果があります。
サチュレーションモード | 説明 |
---|---|
Tube | トライオード真空管の非対称応答をモデル化し、 非常にアグレッシブなディストーションを提供します。 |
Tape | 駆動された磁気テープの温かみと豊かさを再現します。 |
Clip | ソフトクリッピングとエキスパンダーのようなエフェクトを組み合わせ、 ダイナミックレンジを拡大します。 |
Fold | 穏やかなウェーブフォルダーであり、設定に応じて倍音が増加します。 |
個人的にTube+Tapeというモードがあれば嬉しかったのですが、十分過ぎる音質とわかりやすい音質カテゴリによって使い勝手が悪いと感じることはありません。
無料ということを考えると「高望みし過ぎ!」ですね。
T-SaturatorのTはトラック使用を前提としているので、できればM-Saturatorなるものを作ってマスタリングクオリティのサチュレーターを見てみたいと感じました。
サチュレーションモードを決定したらスマッシュコントールとクランチコントロールで微調整をする流れになります。
コントロール | 説明 |
---|---|
スマッシュコントロール | トランジェント(信号のアタック部分)へのサチュレーション量を調整します。正の値では強くサチュレートされ、負の値では控えめになります。 |
クランチコントロール | サチュレーションの強度とキャラクターを調整します。低い設定では温かく、高い設定では攻撃的なディストーションが得られます。 |
スマッシュコントロールは絶妙な効果ですが、あるのとないのとではトラックの中での存在感が変わってくるので、地味に重宝しました。
また、サチュレーターとして面白いと思ったのは、Frequency Rangeです。
これはTechivationの他のプラグインにも搭載されていますが指定したレンジの間で効果を発揮するというもの、例えば、キックやスネアの基音のみに使うといった方法もあります。
考え方として、wavesfactory spectreと近い使い方ができそうです。
これらを最終的には中央のノブでサチュレーション量を決定します。
T-Saturatorにはオーバーサンプリングが搭載されています。しかし、オーバーサンプリングという名前ではなく、Qualityという左端上のStandard〜Ultraがそれに該当します。
オーバーサンプリング名 | 倍率 |
---|---|
Standard | 1倍 |
High | 2倍 |
Supreme | 4倍 |
Ultra | 8倍 |
まとめ
メーカー | Techivation |
製品名 | T-Saturator |
システム | Windows 7 and up as 64-bit VST and VST3, and 64-bit AAX (PT11 and up). Mac OS 10.11 (OS X El Capitan) or higher as 64bit VST, VST3, and AU, and 64-bit AAX, Intel, and Native M1 & M2 |
認証方式 | シリアル認証 |
認証数 | 2 |
マニュアル | 英語 |
価格 | フリー(無償) |
無償のプラグインは、気に入っていてもメーカーが作るのをやめたり、倒産した場合そのまま使えなくなるリスクがありますが、今勢いのあるTechivationではそのような心配は当分のところないでしょう。
T-Saturatorの音質に関しては、本当に素晴らしく、文句のつけようがありません。ただ、サチュレーションプラグインという特性上あまり使いすぎるとミックスが飽和しやすくなるので注意が必要です。