VSTプラグインにはVST2とVST3というバージョンがあります。この記事ではそれらの違いから「どちらのVSTプラグインを使うまたはインストールすればよいのか?」安定性や動作の軽さはどうなのかについて解説しています。
この記事では両者の違いとVST2と3のプラグインで比較を行っているので使用時の参考にしてください。
VSTプラグインとは?
VSTとはDAWで使えるプラグインのための規格です。VST以外ではAUプラグインやAAXプラグインがあります。
VSTの中にもさらに3種類の規格がある
Steinberg’s Virtual Studio Technology のSteinberg’sのSを省略したもの、主にソフトシンセやエフェクトプラグインを統括した規格。
VSTは厳密には次の3つに分けられます。
- VSTインストゥルメント (VSTi)(ソフトシンセ)
- VSTエフェクト(エフェクトプラグイン、コンプやディストーションなど)
- VST MIDIエフェクト(MIDI進行を使ってエフェクト効果をコントロールするもの)
VST MIDIエフェクトで有名なのはGlitch2やStutter editです。これはMIDIキーボードを押すことで
エフェクトのかかり方をMIDIでリアルタイムでコントロールすることからMIDIエフェクトと呼ばれています。
VSTの歴史
初めてVSTプラグインを搭載したDAWは1996年に発売された「CubaseVST3.0」というバージョンです。ちなみにVSTバージョン1の時代はまだ簡易なエフェクトプラグインのみでソフトシンセが使えるようになるののは1999年に開発されたVSTバージョン2.0という規格からです。
そして2008年VST3が開発されました。現在は正式にはVST3.6.11というのが最新のバージョンです。
VST3プラグインの性能
VST3を使うメリットは次のようになります。
- パフォーマンスの改善
- マルチ ダイナミック I/O
- バスの有効 / 無効切り替え
- プラグインウインドウのリサイズ
- サンプルアキュレート オートメーション
- パラメーターのツリー管理
- オプション: SKI
- VSTXML によるリモートコントロールへの対応
- Unicode 対応
- MIDI 規格の制限を越えたパラメーター変更
- VST インストゥルメントへオーディオ入力バスを搭載可
- マルチ MIDI I/O 対応
- 64bit 処理
みなさんが恩恵を受けているところで言えば、パフォーマンスの改善やGUIのリサイズ、またバスの有効/無効の切り替えでしょう。
CubaseやStudioOneを使用している場合、ドラムのマルチアウトで必要のないトラックをさくっと消せるのはAUプラグイン環境から見ると羨ましい限りなんです。
VST2.4プラグインとVST3プラグイン CPU負荷の違いはある?
パフォーマンスの改善が挙げられているVST3ですが、正直なところどれほどの改善かははっきりしていません。
以下の画像はバーチャルアナログの最高峰と呼ばれているDivaを同時に発音させてみましたが、VST3とVST2で比較してみましたが、負荷はまったく変わりません。
もちろんこの程度の環境ではそのパフォーマンスに差はないのかもしれません。
VST3は2.4に比べるとパフォーマンスの改善がメリットであると公式サイトでも説明していますが、以下のサイトに興味深い内容の記事があります。
VST is an interface specification of how a plug-in communicates with a host, so the plug-in efficiency depends on the plug-in, not on the VST spec. Both VST 2.4 and VST3 plug-ins have a common code base, and virtually all of a plug-in’s internal code is identical — move along, there’s nothing to see here.
引用:VST 2.4 vs. VST 3.0 – Who Cares? You Should.
注目すべきは、「VST 2.4とVST3の両方のプラグインには共通のコードベースがあり、実質的にすべてのプラグインの内部コードは同じです」 これによるとVST3と書いてあっても中身は2.4とそれほど変わらないものになります。 私達はプラグインの中身がどのようなプログラムになっていて、それが2.4と3でどれほど変わるかまで詳細に調べることができません(専門家はできるかもしれませんが) そのため外側だけVST3になっていても気づくことはできません。 またVST3の効率化(パフォーマンスの改善)においてもVST2.4でもそれは内蔵できたことについて触れています。
「データが受信されなくなったときにプラグインをオフにできることが原因である可能性があります。これはVST3に固有のものではありません。開発者は、古いテクノロジーを使用してこれを実装することができました」
このようにVST2.4とVST3の進化によって私達の制作スタイルが変わるのかと言われたら、まだそれほど大きく変わらないのでは…と考えます。
VST2.4とVST3とAUでCPU負荷チェック
そこでAUプラグインも一緒に立ち上げて負荷チェックをしたところAUが少しだけ軽い結果になりました。こ
れは発音時のテストで音が持続し始めると負荷は多少ばらつきがあるもののほぼ同じになっていきます。
VST3のパフォーマンスについては以下の説明を見る限りマルチアウト時によってその違いが現れるのかもしれません。
バスの有効 / 無効切り替え
例えばマルチアウトを持つバーチャルサンプラーを立ち上げた際、VSTi 側の仕様により、必要以上のアウトプットチャンネルをミキサー上で占める事があります。VST3 インターフェースでは、VSTi を立ち上げた後でも、使わないバスを無効にする事が出来ます。更に、必要になれば再びバスを有効にする事も可能。ミキサーチャンネルが整理でき、CPU の負荷も減らせます。
ちなみに96bit-musicの負荷テストでおなじみにwaves VA音源 ElementsのCPU Kilerで計測してみたところAUの方がわずかに負荷が少ない結果になりました。
といっても1のレベルですから目くじらを立てて「重い!軽い」と騒ぐほどのものではないとは思います。
VST2プラグインはもう作られていない?
多くのサードパーティはVST2.4でプラグインを開発しています。その理由はVST3とVST2は開発コードがほぼ別物らしくVST3を作るには時間と労力を必要とします。
つまりVST2.4のバージョンアップでVST3を作るというよりは完全にあたらしいプラグインを作るレベルの開発が必要になります。
VST3が誕生してからすでに12年ですが、多くのメーカーが「VST3の新機能は魅力だけど、開発期間も費用がかかるなら現状のVST2.4ベースで作ろう」となっています。
私が大好きなドラム音源であるBFD4がなかなか出てこないのもこういうところに問題があるのか…と思ってしまいます。
しかし、SteinbergもいつまでもVST2.4で作られるのも困るので、VST2.4の開発は終了し、VST3.6へ移行するように説明しています。
VST 2 段階的終了のお知らせ | SteinbergVST 2 段階的終了のお知らせ. 2018.05.18. 平素はスタインバーグ製品に格別のご愛顧を賜り、誠にありがとうございます。 2013年に発表いたしましたように、VST 2 の Software Development Kit (SDK) は開発を完了
https://japan.steinberg.net/jp/news_events/news_list/detail/article/vst-2-4747.html
VST対応DAWについて
VSTに対応しているDAW次のようになります。
VST | AU | AAX | |
Cubase | ○ | ✕ | ✕ |
StudioOne | ○ | ○ | ✕ |
digital Performer | ○ | ○ | ✕ |
Bitwig Studio | ○(CLAP) | ✕ | ✕ |
FL Studio | ○ | ✕ | ✕ |
Live | ○ | ○ | ✕ |
LogicProX | ✕ | ○ | ✕ |
Protools | ✕ | ✕ | ○ |
Protoolsは独自の規格であるAAXしか対応していません。StudioOne、digital Performer、Live、などはAUとVSTどちらも選ぶことが可能です。
しかし、以前Studio One3を使っていた時代にAUでマルチアウトを設定しようとするとすべてステレオ出力になり、またその片方しか出力されない等のバグ的な動きがありました。
なので、そのような挙動が起きるのであればVSTを使う方が安定性を向上させられるのでそちらがオススメです。
またVST AU AAXに続くプラグインフォーマットとしてBitwigはCLAP(CLeverAudio Plug-inAPI)という新しい規格を発表しBitwig Studio内で使用できます。
最大のメリットとしてVSTやAUより遥かに高速で軽量なプラグイン環境を提供するものとして、Avid、Arturia、FabFilter、Epic Games(Unreal Engine)、Image-Line、Presonus、Xfer Records等のメーカーがその技術を高く評価しています。
DAWの多くはAUまたVST(ProtoolsはAAX)によって使えるプラグインフォーマットは固定になっていますが、
ブリッジプラグインと呼ばれるVEP(ビエナアンサンブルプロ)やBlueCatWorksなどを使用すると例えばProtoolsであってもVSTやAUプラグインを使用できます。(Protools以外ではブリッジプラグイン等を使ってもAAXは使用できません)
ただ、VIENNA ENSEMBLE PRO 7がサポートしているのはVST 2までです。海外のフォーラムでも「7ではVST3は動かない。8になってVST3をサポートするかを見極める」という声が多いです。
一方でBlueCat AudioのPatchworkはVST3にも対応しています。なのでVST3を使いたいのであればPatchworkがオススメですが、個人的に見るとこれらの初心者から中級者のDTMerがこれらのソフトウェアを使わなければいけなくなることはほぼなく、そこまで気にする必要はないと考えています。
VST2をVST3に変換することは可能なのか?
VST2をVST3に変換はできません。そもそもプログラムの中身が違うので仮にVST2を何かしら上辺だけ変更してVST3の環境で動かせることができたとしてもあまり意味はないでしょう。
そもそもプログラムVST3が動作する環境では下位互換でVST、VST2は動作します。
VSTとAUの変換は可能か?
ではVSTをAUに、またはAUをVSTに変換することは可能か?という話が出てくると思いますが、これらも基本的なプログラムが違うので変換はできません。
これはLogic ProやProtoolsでVST3を使う方法を考えている人に多い悩みです。
VST使えないDAWであっても VIENNA Ensemble Pro 7を使うとVST3を使えるようになります。しかし、 VIENNA Ensemble Pro 7を使うとモノラルパラウとができる音源であってもすべてステレオアウトになります。
BFD3などのドラム音源でキックやスネアなどをパラアウトで出力したいときに不便さを感じます。
AAXをVSTに変換できるのか?
というのもあります。AAXはProtools専用の企画なのでVSTに変換することはできません。私もProtools専用のプラグインをVSTやAUに変換できたらいいのになーと思ったことはあります。Protoolsプラグインは標準のものでも出来がいいので有名ですから、それをほしいというユーザーの声にかなえてくれたのがCreative FX Collection Plusです。これはProtools8から搭載されているエフェクトプラグインのAU VSTバージョンです。
au vst プラグインの違いについて
AUとはAudio Unitsの略で、MacOSのオーディオ機能Core Audioの一部として機能するプログラムです。
VSTと同じ用に ソフトシンセなどのAU InstrumentとエフェクトからなるAU Efectがあります。
AUプラグインは主にApple製品(Logic Pro XやFinal Cut Pro)にて使用できますが、
DAWの場合ではGarageBand、StudioOne digital performer、Liveなどが使用可能です。
AU3の機能について
AUは現在最新の規格でバージョン3が存在しますが、MacOSで動くものはなくIpadやi phoneのiOSのみに使われています。
Logic Pro XはAU3をAUサポートしていますが、対応するソフトシンセがないため、せっかく増えた出力先等に関しては
ソフトシンセ側とLogicPro X側の出力先が一致しないバグがあります。
(StudioOneにてBFD等のマルチアウト対応ソフト音源をAUで立ち上げてもモノラルアウトのハズがステレオアウトになってしまうのでVSTが使える環境であるならばVSTの方がよいでしょう。
多くの人が今一番待たれるのはプラグインがAU3対応になればDAWとプラグインを切り離して考えるられるので、プラグインが原因でDAWが落ちることがなくなるということです。
VSTとAUどっちがいい?
少し前にizotopeのプラグインをVST3のみにすると軽くなったという話があります。
Ozone9がVST2.4も入れてしまっていたので昨日VST3だけにしてみたところ、VST3 Ozone9使用の同じプロジェクトで10%近く負荷が減りました。
あと、Ozone9の立ち上がりが格段に速くなりましたねぇ。
Win10 Cubase10.5.02環境です。— F LACHESIS(ラケシス) (@flachesis360) November 4, 2020
しかしプラグインによってはVST3の場合重くなるという結果もあるので、まだまだどちらが良い結論には至らない状態です
Tube Saturatorが重いのはVST3のみな模様。
AAX/AU/VST2だと其処まで負荷かからないので、使ってるDAWによって重いor軽いって意見が分かれてる気がしまする…(´Д`)>RT— Lime (@Lime_V2) June 21, 2017
@junnoske_suite AUに関しては同じCPU演算が基本になっているので差ほどVSTとは変わらないと思います。ただVST3.0から信号が無いときは、CPUの負荷を0にする機能などが搭載されたので、セッションによっては差が出てくると思います。
— 青木繁男 (@groundescape) March 21, 2011
まとめ
vst2 or vst3どちらがよいのか?とい結論ですが、対応していてなおかつ安定しているのであればVST3の方がよいでしょう。しかし、VST2とVST3の負荷による違いはそこまで大きくないと見て大丈夫です。
安定度についてはメーカーによって多少は異なるかもしれません。それよりもAUプラグインがわずかばかりに軽いかもしれない…という動作をしていたことに少し驚きます。
マルチアウトの件などから見るとVSTの方が圧倒的に使いやすいです。
CPU負荷メーターの1程度の違いで使い分ける必要もないと思うので、問題ないのであればVST3を使うことをおすすめします。