cherry audio polymodeのデモを試した多くの人がそのまま購入しているほど音が良いソフトシンセですが、イマイチ操作性がわからないという人もいます。この記事ではPolymodeの使い方や使用上の注意点などを細かく説明しなおかつモデリング元であるpolymoogの使用アーティストなどの情報もまとめています。
cherry audio polymodeとは
Polymodeは優れたサウンドエンジニア集団cherry audioによって作られたmoog初のポリフォニックシンセサイザーpolymoogを完全プラスαでモデリングして作られたソフトシンセサイザーです。
cherry audio polymodeの特徴
- 元の楽器の珍しいパラフォニックアーキテクチャを正確に再現
- 150以上のプリセット
- 32ボイスポリフォニー
- ほぼすべての合成パラメーターの広範なモジュレーションルーティング
- 速度、圧力、白とピンクのノイズなどを含む多数のモジュレーションソース
- 両方のオシレーターランクで同時に利用可能な鋸波と脈波
- 超正確に再現された「モード」フィルター
- 追加のLFO、12db / 24dbスロープ、およびノッチモードを備えた拡張共振器セクション
- クラシックな24dbラダースタイルフィルター
- 統合されたアンサンブル、フェイザー、テンポ同期エコー、およびリバーブエフェクト
- クラシックなソリーナスタイルのトライコーラスモード
- 5つの波形とテンポ同期を備えた2つのボーナスLFO
- フルMIDIコントロール
- すべてのコントロールの完全なDAWオートメーション
polymoogは完全ポリフォニックということでしたが、polymodeは32ボイスになっています。しかしこれは特に使用上問題にはならないでしょう。polymoogは71鍵盤すべての発音可能なポリフォニック使用でした。しかし、それが実用的かと言われればそうでもなく、ソフトウェアで動かす場合、ポリフォニーの多さはCPUの負荷に繋がります。そこを考慮しての32ボイスボリフォニーになったのだと思われます。
- macOS 10.9以降、64ビット。
- 8GBのRAMを搭載したクアッドコアコンピューター。
- Windows 7以降、64ビット。
- 8GBのRAMを搭載したクアッドコアコンピューター
- AU、VST、VST3、AAX、およびスタンドアロン。
Polymoogとは?
1975年〜1980年に発売されたアナログ・ポリフォニック・シンセサイザー それが1Polymoog(ポリモーグ)です。
Polymoogはモノフォニック全盛期のアナログシンセ時代に完全ポリフォニックという一つの革命を起こしますが、
- 総重量1トン弱そこからくる運搬製の悪さ
- MIDI改造ができない、
- 調整箇所が多すぎて壊れるとめんどくさい
- 電子部品の一貫性のない品質
などの理由がありmini moogと比べるとそこまでの人気にはなりませんでした。音質面に関しては評価が高く「アナログシンセストリングスの一つの完成形」と呼ばれるほど世界観を持ったサウンドでです。
当時の価格は1,650,000円とminimoogが495,000だったことから考えると3台分以上の価格になります。しかしPolymoogの特徴は完全ポリフォニックアナログ・シンセサイザーなわけですから、モノフォニックシンセであるmini moogX3台と比較するのはナンセンスとも言えます。
1970〜1981年まで発売売上台数1万2000台、改めてminimoogの凄さがわかる…
Polymoog使用アーティスト
- YMO、
- 坂本龍一、
- クラフトワーク、
- キース・エマーソン,
- パトリック・モラーツ
- ラリー・ファースト
シンセ・ポップの創始者として名高いゲイリー・ニューマンなど著名なアーティストの名が連なります。
ゲイリー・ニューマンはライブでPolymoogを弾いています。
これらのアーティストの音をcherry audio polymodeを使えば限りなく再現できる。こう考えただけでワクワクしますね。
cherry audio polymodeの使い方
cherry audio polymodeの使い方は以下の3つのポイントを理解することです。
信号の流れ
MASTER GAIN
ModSource
polymodeの場合はこの3つを理解できれば音作りの方法について8割理解したも同然です。
信号の流れについて
普通のアナログ・シンセサイザーの多くは以下のような信号の流れになります。(画像はMinimoogになっています)
オシレーター(VCO)→ミキサーセクション→フィルター(VCF)→エンベロープ(VCA)→ボリューム
多少の違いはあるかもしれませんが概ねこの流れです。
ですが、polymoogをエミュレーションしているpolymodeは以下のような流れになります。
RANKと書かれているのがオシレーターになります。RANK MIXというところまでは同じですが、そこからが異なりVCAを通った後に各セクションに振り分けられる流れになります。シンセサイザーの音作りはデジタル・アナログ問わず、シグナルフローを理解すると自分が触っているパラメーターが「何にどのような効果を与えるのか?」を理解できるので、なれない間は難しく感じかもしれませんが、「ふーんそういうものかー」という程度でOKなので覚えることをオススメします。
MAST GAIN MIXについて
これを制御するのがMAST GAIN MIXになります。
このフローチャートを見ているとMAST GAINは最後の方にありますが、Polymodeでは一番左に位置しているため多少混同してしまう可能性があります。
マスターゲイン全てPolymode信号が混合される部分です。マスターゲインセクションの少なくとも1つのフェーダーが上がっている必要があります。そうしないと、音が聞こえなくなります。
Dir出力について
信号が通るのはRANK(VCA)とANP ENV、そして任意に設定するエフェクトセクションのみとなり、フィルターセクションはスルーします。
MODE出力について
MODE FILTERを選択することが可能になります。MODE FILTERとは9つの楽器の特性をシミュレートしたフィルタープリセットです。
ただ一つ注意があるのは通常のシンセフィルターとは異なり、外部コントロールがなく、電圧制御できないため、時間の経過とともに音色を変更ないということです。あくまで音色のそれらしさをフィルターで再現しているだけです。
なので、FILTER MODEを有効活用するならばAMP ENVとの併用することで時間変化を与え音色にさらなる「らしさ」を与えるとよいでしょう。
RES出力について
このスライダーは信号をレゾネーターセクションへ信号を送ります。
レゾネーターとはフィルターをLow Mid Highに分割したセクションです。シンセに搭載されているフィルターの多くは周波数帯域が20Hz〜20kHzになっていますが、polymode(polymoog)ではフィルターをLow Mid Highno3つに分割することでさらに音作りに多様性をもたらしました。
- Low 低:60〜300 Hz
- Mid 中:300〜1500 Hz
- High 高:1500〜7500 Hz
といえばなんだかすごいような感じもしますね。厳密には違いますがイコライザーみたいなものと捉えて音作りすることで理解しやすくなるかもしれません。
PASS MODEはフィルターの種類です。ここは一般的なフィルターの種類と同じになります。
- ローパス: カットオフ周波数設定より低い周波数を通過させます。
- バンドパス: ローパスモードとハイパスモードの両方を組み合わせて、オーディオスペクトルの中央にのみサウンドを残します。カットオフ周波数は、両側の勾配減衰のほぼ中間にあります。
- ハイパス: カットオフ周波数設定を超える周波数を通過させます
- ノッチ:バンドパスフィルターの反対。ノッチフィルターは、オーディオスペクトルの中央にある狭帯域周波数を除去しますが、上下の周波数は影響を受けません。これはそれほど有用に聞こえないかもしれませんが、ノッチフィルターのカットオフ周波数を変調すると、フェイザーと同様の(ただし完全に同じではない)効果が作成されます。3つのResonatorステージすべてをスタックすると、効果が強調されます。
VCF出力について
信号をフィルターセクションに送ることでVCFが使用可能になります。なおかつ後述するModeSourceを使うことでエンベロープフィルターを使うこともできます。
MAST GAINはすべてあげることより複雑な音作りもできますが、まずはFILTERだけを上げて音作りを始めれば一般的なアナログシンセのような感覚で音作りができるのでオススメです。
まとめると
Dir(Direct) –ダイレクト信号の出力量を設定します。この信号は、ランクミックススライダーの後、フィルターの前にある両方のオシレーターランクの組み合わせです。
モード–モードフィルターの出力レベルを設定します。
Res(レゾネーター) –レゾネーターの出力レベルを設定します。
VCF – VCF出力レベルを設定します。
ModeSourceについて
ModeSourceはPolymoogにはない機能です。ModeSourceのおかげで自由なルーティングが可能になり実機を超えた音作りができるようになりました。
modソースが選択されると、ボタンが赤に変わり、そのラベルが変化して現在のmodソースを示します。別のモジュレーションソースを選択するには、ボタンをクリックして別のモジュレーターを選択するか、[なし]を選択してモジュレーションを無効にします。
先程説明した。VCFのFREQをVCFにルーティングすればフィルターに時間的変化を作ることができます。
またRANKのFINEにエンベロープ系をルーティングすることで発音する瞬間にピッチが変更するアクの強いシンセブラスのようなサウンドを作ることも可能です。
不思議なポリフォニック仕様について
鍵盤を弾きながらVCFスライダーを上げて音を作りをしていると慣れない現象に遭遇します。どういう現象なのかというと、右手でコードを抑えているときに左手でベースのリズムを刻もうとすると右手のコードがなってしまうというものです。
これはPolymodeのフィルターの仕様になります。もしピアノやギターのような伴奏をする場合はVCFを下げて残りのMAST GAINで音作りをするのが無難です。
cherry audio polymodeのメリット
出音の良さはArturiaより良い?
一見複雑に見えるPolymodeですが、音の良さはアナログエミュレーション技術でトップクラスのArturiaよりかなり実機に近い雰囲気があります。もちろんArturiaにはArturiaにしか出せない音があります。しかし、良い意味でも荒々しいアナログサウンド的な質感を求めるのであればcherry audio polymodeがオススメです。
CPU負荷が少ない
今のところPolymoogをエミュレーションしているのがcherry audioだけなので何と比較して負荷が少ないかという厳密な意味合いでCPUの負荷の少なさを定義することはできませんが、リアルタイムで演奏する場合には25%近くになりますが、使用しているトラックとは別のトラックを選択することでCPU負荷を分散できる「負荷逃し」をすればきれいに分散してくれます。
CPU負荷テスト環境は以下の通りです。
パソコン Macmini2018
CPU Corei7(i7-8700B)6コア HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS10.14.6 Mojave
Audio/IF APOGEE Symphony Ensemble
バッファー 256
DAW LogicPro10.6.1
48kHz/24bit
再生ストレージ HDD
音が良いシンセでCPUの負荷が少ない(負荷の分散が効いている)のはありがたい限りですね。
エフェクトの質感が良い!
このセクションだけ独立しても良いのでは?と思うほどクオリティが高くとくにフェイザーに関してはアナログ特有のシュワシュワ感を楽しむことができます。リバーブもROOM,PLATE、HALLと用意されているので空間の音作りも思いのままだえす。
絶対重要デフォルト設定ボタン!
私がソフトシンセを購入するときの一つのポイントにしているのが「デフォルト設定ボタン」です。これはボタンひとつで何も加工していない音の状態にしてくれるものです。これがないと音をゼロから作ることができなくなります。
cherry audio polymodeの場合は左上のNEWというボタンを押せば「素の音」にしてくれます。嬉しいのは階層の一番上に設置されていることですね。わざわざメニューの階層をめくってデフォルトの音にするっていうだけでも手間を感じますから。
cherry audio polymodeのデメリット
デメリットというか「これがあればもっと嬉しかった!」という機能です。
エンベロープセクションMODEが欲しかった
プラスαでエミュレーションをしたのであればFILTERMODEと同じようにエンベロープMODEがあれば便利だなと思いましたエンベロープはアナログシンセ系の音作りにとても重要です。もちろんそれは作り手である私達がプログラムするべきところですが、FILTER MODEを活かしたエンベロープ設定がほしいと感じました。
しかし、それがないから「使えない」ということはまったくなく「何贅沢なこといってんだよ!」ってレベルの話です
VCFフィルターポリフォニックの設定のON/OFFが欲しかった
VCFを使用したときにパラフォニックフィルターゆえの使用なのですが、ここはONとOFFを切り替える選択肢があってもよかったのではないかと個人的に思いました。やっぱり普通のシンセのようにピアノ的に弾いてみたくなるんですよね。
リボンコントローラーが欲しかった
Polymoogには中央にリボンコトンローラーが装備されていました。
リボンコントローラーをもっていないとソフト上でのリボンコントローラーは意味がないのかもしれませんが、最近はROLIのようなインターフェイスもあるのでリボンコントローラーを装備していても使える用途があったのでは?とも思います。
まとめ
cherry audio polymodeは素晴らしいアナログモデリングシンセだと言えます。出音の良さはもちろんですが、パラメーターを触ったときの音の変化の反応が良いのは好印象です。
VCFのパラフォニック仕様など慣れないところもあるかもしれませんが、cherry audio polymodeで得られるサウンドは間違いなく70年〜80年初期に聞かれたアナログシンセサウンドです。坂本龍一やクラフトワークなど往年のテクノサウンドに酔いしれたい人には強烈にオススメができますし、知らない世代には「温故知新」のサウンドの一つとしてシンセサウンドの理解を深めてほしいと願います。
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