AKAI S950のような、独特の太さやザラつきを持つサンプリングサウンドをDAWで再現したい。そんなときに候補となるのが、Inphonik RX950 Classic AD/DA Converterです。
RX950は、12bitサンプラーとして知られるAKAI S950のAD/DA変換を含む信号経路を再現したプラグインです。
一般的なビットクラッシャーとは異なり、Input GainによるサチュレーションやAudio Bandwidthによる帯域特性の変化を組み合わせて音作りができます。
実際に使用して印象的だったのは、ドラムのアタックを比較的保ちながら、歪みや密度感を加えられる点でした。
この記事では、既存の音声デモと他のプラグインとの比較経験を基に、RX950の音質・使い方・各パラメーターの効果をレビューします。さらに、メーカー公式の設定例やデメリットも紹介するので、購入を検討している方も参考にしてください。
- 少ない操作でサンプラー風の質感を加えられる
- 特定のサンプラーの信号経路をモデル化している
- モノラル化や細かな数値入力に対応している
- ビット深度を自由に変更できない
- テープノイズやディレイなどは搭載していない
- 設定によっては音の明瞭さが失われる
RX950とは?AKAI S950のAD/DA変換を再現したプラグイン
Inphonik RX950 Classic AD/DA Converterは、1980年代後半に登場したAKAI S950の音の質感をDAW上で再現するエフェクトプラグインです。
AKAI S950は12bit方式を採用したハードウェアサンプラーで、ヒップホップをはじめとするサンプリング主体の音楽制作で知られています。

RX950が再現するのは、単に音声を12bitへ変換したときの量子化特性だけではありません。
メーカーは、入力段のゲイン、フィルタリング、AD変換、DA変換、出力段までを含むS950の信号経路をモデル化したと説明しています。
| 項目 | RX950の特徴 |
|---|---|
| モデル | AKAI S950のAD/DA変換を含む信号経路 |
| ビット深度 | 12bitの質感を再現 |
| Input Gain | 入力レベルとサチュレーションを調整 |
| Audio Bandwidth | 帯域幅と内部サンプリング周波数に関係 |
| Filter | 6次のローパス・バターワースフィルター |
| その他 | 出力レベル、モノラル切り替え、Brilliance設定 |
一般的なビットクラッシャーとの違い
ビットクラッシャーは、ビット深度やサンプリング周波数を下げることで、量子化による歪みやエイリアシングなどを利用した音作りを行うエフェクトです。
一方、RX950はAKAI S950という特定の機材の音響特性を再現することを目的としています。
そのため、同じ12bit相当の設定であっても、一般的なビットクラッシャーと必ずしも同じ音にはなりません。
RX950はビット深度を自由に変更するプラグインではなく、S950らしい音の色付けを少ない操作で加えたい人向けの製品です。
RX950の音質レビュー|ドラムはどのように変化する?
RX950を使って印象的だったのは、音にザラつきや密度感を加えながら、ドラムのアタックを比較的残せることです。
もちろん、Input Gainを上げすぎたり、Audio BandwidthやFilterで高域を大きく削ったりすると、音の明瞭さは変化します。
ここでは、実際に制作した既存の音声デモを使って、各パラメーターによる変化を確認します。
RX950の音声デモ
| 再生時間 | 操作内容 |
|---|---|
| 0:00〜0:07 | Input Gainを上げて元に戻す |
| 0:08〜0:15 | Audio Bandwidthを上げて元に戻す |
| 0:16〜0:23 | Filterを上げて元に戻す |
| 0:24〜0:31 | RX950を適用したドラムトラックの音 |
最初の3つの区間では、それぞれのパラメーターを操作したときの音色変化を聴けます。
最後の0:24〜0:31は、RX950を適用したドラムサウンドの試聴例です。RX950をOFFにした原音との比較ではありません。
また、この音声デモは処理前後の音量を厳密に一致させた比較ではありません。音が大きくなったことによる印象の変化と、音色そのものの変化を分けて判断する必要があります。
RX950の音は太い?アタックへの影響
RX950のInput Gainを上げると、入力段の非線形な歪みによって音の質感が変わります。
ドラムでは、キックやスネアの存在感を強めたいときに使いやすいと感じました。
ただし、「太い」という印象は、倍音の増加だけでなく、音量や帯域バランスの変化にも影響されます。すべての素材で低域が増えるわけではありません。
また、Audio BandwidthやFilterを調整すると高域の成分が変化するため、ハイハットやスネアの輪郭を残したい場合は、極端に下げすぎないことが重要です。
他のサンプラー系プラグインとの違い
これまでに使用したKORG DSM-1やKrushと比べると、RX950はドラムのアタックを比較的残しながら質感を加えられる印象がありました。
また、TAL-DACやDecimort 2と比較した際には、RX950の音に独特の厚みを感じました。
ただし、これらは同一条件で音量を合わせたブラインドテストではありません。プラグインごとに機能や設定も異なるため、音質の優劣を断定するものではなく、実使用での主観的な印象です。
サンプラーそのものの音作りについては、KORG DSM-1のレビューも参考になります。
RX950の使い方|各パラメーターの役割
RX950の操作画面はシンプルで、主な音作りはInput Gain・Audio Bandwidth・Filterの3つで行えます。

Input Gain|入力レベルと歪みを調整する
Input Gainは、RX950に入力される音声レベルを調整するパラメーターです。
単純な音量調整ではなく、AKAI S950の入力段で生じるような非線形のソフトディストーションも再現します。
Input Gainを上げると、音量とともに歪みの質感も変化します。
ただし、音量が大きいほど良い音に感じやすいため、変化を判断するときはOutput Levelで音量を調整しながら聴き比べることをおすすめします。
使い方のポイント
まずはInput Gainを少しずつ上げ、音が太く感じられる位置を探します。
歪みが強すぎる場合はInput Gainを戻し、音量が上がりすぎた場合はOutput Levelを下げてください。
Audio Bandwidth|帯域幅と内部サンプリング周波数を変える
Audio Bandwidthは、RX950の音作りで特に重要なパラメーターです。
これは単に高域を削るEQではなく、AD変換前の帯域制限と内部サンプリング周波数に関係する設定です。
RX950では、Audio Bandwidthの値と内部サンプリング周波数の間に、次の関係があります。
内部サンプリング周波数 = Audio Bandwidth × 2.5
| Audio Bandwidth | 内部サンプリング周波数 |
|---|---|
| 3,000Hz | 7,500Hz |
| 10,000Hz | 25,000Hz |
| 19,200Hz | 48,000Hz |
たとえば、Audio Bandwidthを19,200Hzにすると、内部サンプリング周波数は48kHzに相当します。

一方、9,600Hzでは内部サンプリング周波数が24kHzに相当し、19,200Hzの場合よりも高域の再現範囲が狭くなります。

Audio Bandwidthを下げると、音の高域が抑えられ、丸くこもったような質感に変化します。
この変化は、単に再生ピッチを下げることとは異なります。RX950のAudio Bandwidthはピッチ変更用のパラメーターではなく、帯域幅と変換処理の特性を変えるものです。
使い方のポイント
ドラムのアタックを残したい場合は、高めの値から少しずつ下げると調整しやすくなります。
ローファイな質感を強めたい場合は、さらに帯域幅を狭め、音がどこまで変化するか確認してみてください。
Filter|高域を削って音を落ち着かせる
Filterは、AKAI S950の6次ローパス・バターワースフィルターをモデル化したものです。
高域を抑えることで、音の鋭さを和らげたり、暗めの音色を作ったりできます。
Audio Bandwidthも高域の聴こえ方に影響しますが、両者は同じ処理ではありません。
- Audio Bandwidth:帯域幅とAD変換に関係する特性を調整
- Filter:ローパスフィルターによって高域を調整
まずAudio Bandwidthで全体の質感を決め、その後Filterで高域を整えると、役割を分けて操作しやすくなります。
Output Level|処理後の音量を整える
Output Levelは、RX950から出力される音量を調整します。
Input Gainを上げて音量が増えた場合は、Output Levelを下げることでミックス内のバランスを保ちやすくなります。
RX950の音色を比較するときにも重要なパラメーターです。
Mono|左右の音をモノラルにする
MonoをONにすると、ステレオ入力の左右チャンネルをまとめてモノラルにできます。
ステレオの広がりよりも、中央にまとまったサウンドを優先したい場合に利用できます。
ただし、モノラル化によって左右の成分が重なるため、位相関係によって音色や音量が変化することがあります。
Brilliance|高域の応答を調整する
Brillianceは、RX950のSettings画面(背面パネル)にある設定です。
Audio Bandwidthを高い値にしたときの高域の応答を調整できます。
通常の高域シェルビングEQとして考えるよりも、RX950の変換モデルにおける高域の聴こえ方を調整する機能と理解した方が適切です。
数値入力と画面サイズの変更
RX950はノブの数値をダブルクリックすることで、キーボードから直接値を入力できます。
微妙な設定を再現したいときや、メーカー公式の設定例を入力するときに便利です。
また、画面サイズは100〜250%の範囲で変更できます。
RX950の音作り|初心者が試したい3つの設定
RX950には、メーカー公式マニュアルで紹介されている設定例があります。
ここでは、ドラム、ローファイ、往年のサンプラー風サウンドを目的とした3つの設定を紹介します。
これらはメーカーが提示する設定例であり、今回新たに試聴・測定した結果ではありません。
Drums Fattener|ドラムに歪みと存在感を加える
| パラメーター | 設定値 |
|---|---|
| Input Gain | +10.40dB |
| Audio Bandwidth | 12,769Hz |
| Filter | 99 |
| Output Level | -6.85dB |
| Mono | OFF |
Drums Fattenerは、Input Gainを大きく上げた設定です。
ドラムにサチュレーションを加えたいときの出発点として使えます。
Input Gainを上げた分、Output Levelを下げている点も重要です。
ただし、入力する音源のレベルによって歪み方は変わります。設定値をそのまま入力すれば、どのドラムでも同じ結果になるわけではありません。
Lo-Fi Goodness|帯域を狭めたローファイサウンド
| パラメーター | 設定値 |
|---|---|
| Input Gain | +1.39dB |
| Audio Bandwidth | 7,015Hz |
| Filter | 99 |
| Output Level | -2.34dB |
| Mono | OFF |
Lo-Fi Goodnessは、Audio Bandwidthを狭めた設定です。
Input Gainによる歪みを強くするよりも、帯域特性の変化を使って音の質感を整える方向の設定と考えられます。
ドラムループやサンプリング素材の高域を落ち着かせたいときに試しやすいでしょう。
Golden Era|モノラルのサンプラー風サウンド
| パラメーター | 設定値 |
|---|---|
| Input Gain | +1.78dB |
| Audio Bandwidth | 5,866Hz |
| Filter | 97 |
| Output Level | -0.30dB |
| Mono | ON |
Golden Eraは、Audio Bandwidthをさらに狭め、MonoをONにした設定です。
帯域の狭さとモノラル化を組み合わせることで、現代的なステレオ音源とは異なる方向の音作りを狙えます。
サンプリング主体のヒップホップや、あえて音の古さを演出したいトラックで試す価値があります。
RX950を使ったローファイ・ヒップホップの音作り
RX950を使った既存のローファイ・ヒップホップの動画も紹介します。
往年のサンプラーを使った音作りでは、サンプリング前に素材を早回しし、サンプラー側で再生速度を落として元の音程に近づける方法が使われてきました。
これは、限られたサンプリング時間を有効に使うための工夫でもあります。
ただし、この方法で起こる音色変化と、RX950のAudio Bandwidthを下げる操作は同じものではありません。
RX950は入力音声の再生速度を変更するプラグインではないため、ピッチ変更を伴う音作りを行いたい場合は、DAWやサンプラー側で処理する必要があります。
そのうえでRX950を組み合わせると、サンプリング素材にさらに帯域の変化や歪みを加えることができます。
RX950とエキサイターを組み合わせた音作り
RX950でAudio BandwidthやFilterを調整すると、高域が抑えられた音を作れます。
しかし、楽曲によっては高域を削りすぎると、音がこもって存在感を失う場合があります。
そこで試したいのが、RX950とエキサイターを組み合わせる方法です。
エキサイターは、倍音成分を加えることで高域の印象を変化させるエフェクトです。EQで既存の高域を持ち上げる方法とは、処理の仕組みが異なります。
たとえば、次のような順番で音作りを行います。
- RX950のAudio Bandwidthを下げて、音の高域を抑える
- Input Gainで歪みの質感を調整する
- 必要に応じてエキサイターで高域の倍音を加える
- 処理前後の音量を合わせて、楽曲内で聴き比べる
この方法では、RX950で作った暗めの質感を土台にしながら、高域の聴こえ方を調整できます。
ただし、エキサイターを加えればAKAI S950の実機に近づくと保証できるわけではありません。あくまで、往年のサンプラー風サウンドを作るための応用的なアプローチです。


RX950のメリット・デメリット
RX950は少ないパラメーターで音の質感を変えられる一方、汎用的なビットクラッシャーとは異なる制約もあります。
メリット① 少ない操作でサンプラー風の質感を加えられる
RX950は、Input Gain・Audio Bandwidth・Filterを中心に操作するため、複雑な設定を覚える必要がありません。
ドラムやサンプリング素材に対して、歪みと帯域特性を組み合わせた音作りを比較的短時間で行えます。
メリット② 特定のサンプラーの信号経路をモデル化している
RX950の特徴は、AKAI S950のAD/DA変換を含む信号経路を再現することです。
一般的なビットクラッシャーのようにビット深度を下げるだけではなく、入力段の歪みやフィルターの特性を組み合わせた音作りができます。
メリット③ モノラル化や細かな数値入力に対応している
Monoボタンでモノラルサウンドを作れるほか、パラメーターの数値を直接入力できます。
特に数値入力は、設定を正確に再現したい場合に便利です。
デメリット① ビット深度を自由に変更できない
RX950は12bitサンプラーの質感を再現するプラグインであり、ビット深度を1bitから24bitまで自由に変更するような機能はありません。
ビット深度の変化そのものを積極的に利用したい場合は、一般的なビットクラッシャーの方が目的に合います。
デメリット② テープノイズやディレイなどは搭載していない
RX950は、テープの揺れ、ヒスノイズ、ディレイなどをまとめて再現する総合的なローファイエフェクトではありません。
これらの効果が必要な場合は、別のプラグインと組み合わせる必要があります。
デメリット③ 設定によっては音の明瞭さが失われる
Audio BandwidthやFilterを大きく下げると、高域が抑えられます。
その結果、ドラムのアタックやシンセサイザーの明るさが失われることもあります。
ローファイな質感を強くすることと、楽曲の中で使いやすい音になることは必ずしも同じではありません。
ほかのサンプラー系エフェクトも検討したい場合は、Decimort 2のレビューも参考になります。
RX950の価格・対応環境・購入方法
RX950は、比較的低価格で購入できるサンプラー系エフェクトです。
メーカー公式サイトでは、デスクトップ版の通常価格が19米ドルと案内されています。
ただし、実際の販売価格は購入先、為替レート、セールの有無によって変わるため、購入時に確認してください。
対応OSとプラグイン形式
| OS・環境 | 対応形式 |
|---|---|
| macOS | VST2 / VST3 / AU / AAX |
| Windows | VST2 / VST3 / AAX |
| Linux | VST |
| Reason | Rack Extension |
| iPhone・iPad | AUv3 / IAA(別製品) |
デスクトップ版は64bit対応で、Apple Siliconにもネイティブ対応しています。
Logic ProではAU版を使用できます。
なお、OSの最低要件はメーカーの製品ページとサポートページで記載に差があるため、古いmacOSで使用する場合は購入前にメーカーへ確認することをおすすめします。
RX950の購入先
RX950は、メーカー公式サイトやPlugin Boutiqueから購入できます。
メーカー公式のデスクトップ版はDRM-freeと案内されています。
購入前には、使用しているDAWに対応したプラグイン形式が含まれているか確認してください。
RX950はどんな人におすすめ?
RX950は、AKAI S950の音の質感をDAWで手軽に取り入れたい人に向いています。
特に、ドラムループやサンプリング素材へ歪みや帯域の変化を加えたい場合に試す価値があります。
一方、ビット深度を細かく変更したい人や、ノイズ・テープ効果などを1つのプラグインでまとめて使いたい人には、別の製品の方が適している場合があります。
RX950の魅力は、機能の多さではありません。
Input Gain・Audio Bandwidth・Filterという少ない操作で、S950を意識した独特の音色へ近づけられることです。
実際に使ってみても、ドラムに歪みや密度感を加えながら、アタックの印象を比較的残せる点が魅力でした。
サンプラー風の音作りを目的としているなら、候補に入れてよいプラグインです。
RX950の総合評価:4.2/5.0
| 評価項目 | 点数 |
|---|---|
| 音質 | ★★★★☆ 4.5 |
| 機能性 | ★★★☆☆ 3.5 |
| 操作性 | ★★★★★ 5.0 |
| 安定性 | ★★★★☆ 4.0 |
| 価格 | ★★★★☆ 4.0 |
| 総合評価 | 4.2/5.0 |
RX950の最大の魅力は、少ない操作でAKAI S950を意識した独特の質感を加えられることです。
特に操作性は優秀で、Input Gain・Audio Bandwidth・Filterの調整だけで音作りを進められます。
一方、ビット深度を変更できないことや、ローファイ効果の種類が限られることから、機能性は3.5点としました。
安定性については旧環境での使用経験を評価していますが、現行環境でのCPU負荷や長時間動作は再検証していません。
まとめ|RX950は少ない操作でサンプラー特有の質感を作れるプラグイン
Inphonik RX950は、AKAI S950のAD/DA変換を含む信号経路を再現したプラグインです。
実際に使用して魅力に感じたのは、ドラムのアタックを比較的残しながら、歪みや密度感を加えられる点でした。
RX950の特徴をまとめると、次のとおりです。
- Input Gainでサチュレーションを加えられる
- Audio Bandwidthで帯域幅と内部サンプリング周波数に関係する特性を調整できる
- Filterで高域を抑え、音色を整えられる
- 12bitの質感を再現する一方、ビット深度そのものは変更できない
RX950は、さまざまなローファイ効果を搭載した万能プラグインではありません。
しかし、AKAI S950を意識したサウンドを少ない操作で作れることには、十分な魅力があります。
ドラムループやサンプリング素材に独特の太さやザラつきを加えたい人にとって、検討する価値のあるプラグインです。

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