- 簡単に太い音って作れるの?
- 昔のハードシンセ(サンプラー)は音が太いって本当?そのサウンドをプラグインで再現できる?
太い音と言われるとイコライザーでローエンドを持ち上げたり、コンプで圧縮しまくった音を想像するかもしれません。それはそれで一つの方法ですが、ビットクラッシャープラグインであるRX950を使うともっとシンプルに暖かみがあり太く存在感のある音が簡単につくれます。
近年流行りのLo-fi-ヒップホップ的なサウンドを作りたい人にはとくにおすすめのプラグインです。
今日はRX950のレビューから使い方、そしてRX950で太い音の作り方についてお話します。
Inphonik RX950とは
往年の名機と呼ばれたAKAI S950というサンプラーのAD/DAコンバーターをエミュレートしたプラグインです。
実機同様素晴らしい音質をもたらしてくれるすごいプラグインです。
RX950の価格
もともとが15ユーロ(1,885円)です。これだけでもかなり安いですが、RX950はセールを頻繁にやっていて2020年8月19日現在もセールで50%オフ!7.57ユーロ(951円)になっています。

AKAI S950とは?

1988年に発売されたAKAIのサンプラーです。950より前に出た900のアップグレードバージョンという立ち位置です。
スペックは
内蔵メモリー1MB
サンプリング方式12bit
サンプリング周波数7.5KHz-48KHz
サンプリングタイム63.35秒-9.89秒
最大同時発音数8
12bitで48khzというスペックでサンプリングできる時間は10秒以下今の人達からするとこれで何ができるの?という話ですが、ヒップホップの人達から「独特の太さがある」という評価がありこぞって使われました。
RX950使い方

操作できるパラメーターは次の5つ
- INPUT GAIN
- AUDIO BANDWIDTH
- FILTER
- OUTPUT LEVEL
- MONO
ん?と思った人鋭いですね!実はビットクラッシャーといいながらこのプラグインにはビット(解像度)を変更できません。あくまでS950の12bitの質感を再現するためのものです。なので正式には「AD/DA CONVERTER」ビットではなくレートクラッシャーというべきかもしれません。
- INPUT GAIN 音の入力です。上げれば上げるほど音が飽和していきます。ここが音の太さのキモになります。
- AUDIO BANDWIDTH 3000Hz〜19200Hzまでのプリフィルターです。
- Perfect modelling of the whole audio signal path from the original Akai S950 (Line Input > Analog gain > Pre-filtering > A/D conversion > D/A conversion > Post-filtering > Line Output)公式サイトではパーフェクトモデリング!というくらいですからS950に内蔵されているフィルターのことだと思われます。
- FILTER AUDIO BANDWITHに対してポストフィルターになります。幅としては600HzくらいまでのLPFと言った感じです。
- OUTPUT LEVEL ボリューム調整です。ここでの音質の変化はありません
- MONO S950はモノラル録音しかできないのでそのエミュレートです。
RX950はビット深度の変更ができません。RX950による音の作り方はそのフィルターにあると言った方がよいでしょう。
イメージとしてはパソコンの中でミックス完結させているというより一度外部のエフェクターを通してそれをパソコンに戻すみたいな感じです。では効果の程を確認したいと思います。設定は以下の図の通りです。

最初の4小節はバイパス
- 5小節〜インプットゲインを上げて戻す(0:00〜0:07)
- 9小節〜BANDWIDTHを上げて戻す(0:08〜0:15)
- 13小節〜FILTERを上げて戻す(0:16〜0:23)
- ドラムトラックだけにかけています。(0:24〜0:31)
やはりインプットゲインをあげたときの質感はいいですね!ちなみにSIN波でチェックするとインプットゲインを0.42dBまで上げると強烈な倍音が出始めます。
RX950の裏技(lo-fi HIP-HOP的な音作り)
S950に限らず昔のサンプラーはメモリの搭載量が多くても数メガバイトしかのせられませんでした。そのため、長時間のサンプリングは不可能です。しかし少しでもサンプリングタイムを稼ぎたいと考えたときに編み出されたのが、再生ピッチを上げて録音しS950でもとのピッチに戻すという方法です。例えば1小節のドラムパターンの場合、1オクターブ上で再生すると2拍の長さになり、さらにオクターブ上で再生すると1拍分の長さになります。
これをサンプラーでもとのピッチで再生することでサンプリングタイムの節約としていました。しかし、質感は大きく劣化しとてもリアルな楽器では使える音ではないのですが、リズム等に使うと良い意味で荒々しくワイルドな音になり、それがHIP-HOPサウンドとして定着していきました。
近年ではlo-fi-ヒップホップが一つのトレンドであるので、この方法を使うことでより古き良きヒップホップなサウンドになります。
方法は次のとおりになります。
- DAWでソフトサンプラーを起動(付属のものでもOK)
- ソフトサンプラーに読み込みたいファイルをインポート
- 読み込んだオーディオファイルを任意の高さ(鍵盤)で再生(C3にアサインされた場合はC4という具合、効果がわかりにくい場合は2oct上がよい)
- それを書き出し、再度ソフトサンプラーに読み込ませ一オクターブ下で再生(C3ならばC2)と言った具合
- ローファイ的なこもったサウンドになる。
- RX950を通すことで当時のオールドサンプラー的な質感を手に入れられる
もう少し詳しく見ていきましょう。
今回はLogicProXを使って説明しますが、方法論としてはどれも同じなので参考になると思います。
ピッチをオクターブ上にした場合再生する長さは半分になります。2オクターブ上にするとさらに半分になります。あとは再生時にもとのピッチに戻すとざらついた独特の質感になります。これにRX950を加えることでよりそれらしい音色になります。
最近ではあまり使われない方法ですが、王道的な音作りでもあるので覚えておいて損はないと思います。
ビットクラッシャーとは?
ビットクラッシャーとは音の解像度を下げるプラグインとして認識されていますが、実際のところ解像度が下がっているわけではないというのがこちらのTwitterおよびYoutubeの動画でわかります。
エンジニア的な見解では解像度という言葉で使うのは適切ではないにしても、作編曲レベルでその音質的な意味合いを求める人からすればビットクラッシャーでビット深度を下げることで得られる音質は「解像度が下がった」という見識をもつ人が多いのはある意味当然かもしれません。
ではここではクリエイター的な見地でビットクラッシャーを使うとどういう効果があるのかをもう少し具体的に見ていきたいと思います。
ビットクラッシャーの特徴はビット深度を変更することで得られる特有のディストーションサウンドです。これはギターのオーバードライブ用なものとは違い、分解能が低いデジタル・ディストーション・エフェクトと言われます。この分解能をコントロールする部分がbit深度になます。bit深度の変更幅はプラグインによっても変わりますが、主に1bit〜24bitです。
ではそのビット深度を変更することでどのような影響があるのかを動画を確認してみます。これはLogicProXのオシレータープラグインでサイン波を出力し、そこに同じくLogicProXのビットクラッシャープラグインをかけてビット深度を下げていく模様です。
オシレーターの出力は0dBなのでビットクラッシャーが24bitの場合音が変化しないのはDAWのミキサーでメーターが0dBになっても音が変化しないと近い要素です。(厳密に違いますがイメージとして似たような感じです)
ビット深度をさげることであきらかにデジタル的な歪みが高域から増えているのがわかると思います。この音の変化がビットクラッシャーの特徴になります。
ビットクラッシャーにはビット深度とともにサンプルレートを変更できる機能がついています。3プレートを変更することで音が暗くなる。単純に言うとローカット的なサウンドになります。
RX950を使うメリット
シンプルな操作性とハードウェアの質感の再現
S950という往年の名機サンプラーの質感を簡単に手に入れられることにあります。その音は太くコシがありとクラックの中で存在感が出てきます。もちろん実機100%というわけには行きませんが、フリーのビットクラッシャーやDAW付属のビットクラッシャーでは表現できない微妙なS950のニュアンスが再現できます。
RX950を使うデメリット
RX950はビットクラッシャーと呼ばれていてもビット深度の変更はできません。そのためビット深度変更によるディストーションサウンドはできません。そういう場合はDAW付属のビットクラッシャーを使う方がよいでしょう。
RX950はあくまで「実機のAD/DAコンバーター」の質感に拘ったプラグインです。
誰におすすめのプラグイン?
音を太く嫌味がない程度に汚すことができるので最近流行りのLofi−ヒップホップ系にはどストライクではまると思います。また、RX950を1つだけ使うことで良い意味で解像度が下がるので音が目立つ効果もあります。
さいごに
RX950は
- S950AD/DAコンバーターを再現したプラグイン
- 質感は良い意味で荒々しく太い音が簡単につくれる。
- ビット深度を変更できないのでビットディストーションは不可能
もともと安いプラグインですから騙されたと思って買ってみても後悔はすくないかもしれません。ですが、裏技と合わせてつかうことでS950の質感を十分に再現できるプラグインです。

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