エキサイターとは、音に倍音を加えることで明るさや存在感、抜けのよさを調整するエフェクトです。
「音がこもっているからEQで高域を上げてみたけれど、耳につくだけで思ったように前に出てこない」というときにも、エキサイターならEQとは違ったアプローチで音の存在感を調整できます。
ただ、エキサイターについて調べると「エンハンサー」という似たエフェクトも出てくるため、「何が違うの?」「どちらを使えばいいの?」と迷う人も多いでしょう。
実際には、エキサイターとエンハンサーを名前だけで明確に分けることは難しく、製品によって処理方法も異なります。
この記事では、エキサイターの仕組みやEQ・エンハンサーとの違いを解説しながら、Aphex Aural Exciter、BBE Sonic Maximizer、Waves Vitaminを実際に使用した音源も比較します。
さらに、エキサイターを効果的に使う方法や、私自身が経験した「かけすぎによる失敗」についても紹介します。
エキサイターとは?
エキサイターとは、音に倍音成分を加えたり強調したりすることで、明るさや存在感、抜けのよさを調整するエフェクトです。
EQで特定の周波数帯域をそのまま持ち上げるのとは異なり、エキサイターは非線形処理によって元の音には少なかった倍音成分を生成・強調できるのが特徴です。そのため、高域を単純にブーストするだけでは得にくい「音が前に出る」「輪郭が見えやすくなる」といった変化を作れます。
たとえば、ボーカルがミックスの中で少し埋もれている場合、EQで高域を大きく持ち上げると、サ行が耳についたりノイズまで強調されたりすることがあります。エキサイターなら倍音を利用して存在感を補えるため、EQとは違ったアプローチで音を目立たせることができます。
ただし、エキサイターを強くかければ音が良くなるわけではありません。倍音を加えすぎると音が硬くなったり、耳につきやすくなったりするため、元の音とのバランスを確認しながら使うことが重要です。
エキサイターとエンハンサーの違い
エキサイターとエンハンサーは、どちらも音の存在感や明瞭さを高める目的で使われますが、厳密に同じエフェクトを指す言葉ではありません。
代表的なエキサイターであるAphex Aural Exciterの公式マニュアルでは、HARMONICSコントロールについて次のように説明されています。
“This control adjusts the amount of harmonics being generated by the exciter.”
日本語にすると「エキサイターによって生成される倍音の量を調整する」という意味です。
引用元:Aphex「Exciter Owner’s Manual」
https://cdn.aphex.com/assets/pdf/Aphex_Exciter_OM.pdf
この説明からも分かるように、エキサイターの大きな特徴は「倍音を生成する」ことです。
EQは基本的に元の音に含まれている周波数成分を増減しますが、エキサイターでは入力された音をもとに倍音を生成・付加できます。そのため、単純に高域をブーストするのとは違った方法で、音の明るさや存在感を調整できます。
一方、「エンハンサー」という名称は、必ずしもエキサイターとは異なる処理方式を意味するわけではありません。
たとえばWavesはVitamin Sonic Enhancerを公式マニュアルで、
“Waves Vitamin is a multiband harmonic enhancer and tone-shaping plugin”
と説明しています。
つまりVitaminは「マルチバンド・ハーモニック・エンハンサー」であり、さらにWavesはVitaminの処理について「non-linear and additive(非線形かつ加算的)」と説明しています。
引用元:Waves「Vitamin Sonic Enhancer User Guide」
https://www.waves.com/1lib/pdf/plugins/vitamin.pdf
Waves公式サイトでもVitaminは「multiband harmonic enhancement plugin」と紹介されています。
引用元:Waves「Introducing Vitamin Sonic Enhancer」
https://www.waves.com/vitamin-sonic-enhancer-overview
このように「Enhancer」という名前の製品でも倍音を利用しているため、
「エキサイター=倍音を加える」
「エンハンサー=倍音を加えない」
と明確に分けることはできません。
DTMでは、エキサイターは主に倍音を生成・付加するエフェクト、エンハンサーは音の明瞭さや存在感などを高める処理に使われる、より幅広い名称と考えておくと分かりやすいでしょう。
実際にどのような違いが出るのか、次の項目ではエキサイターとエンハンサーを同じ音源に使用して比較します。
エキサイターとエンハンサーを音源で比較
エキサイターとエンハンサーは、名称だけでは処理方法を明確に分けられません。
そこで今回は、エキサイターを代表するAphex Aural Exciter、独自の音質改善処理で知られるBBE Sonic Maximizer、そして現代的なマルチバンド・ハーモニック・エンハンサーであるWaves Vitaminの3つを使って、同じ音源がどのように変化するのか比較します。
Aphex Aural ExciterとBBE Sonic Maximizerは、どちらもハードウェアとして広く知られ、その処理を再現したプラグインが登場しています。一方、Waves Vitaminはマルチバンドで倍音処理を行うHarmonic Enhancerです。
同じ「音の明瞭さや存在感を高める」という目的でも、実際のアプローチや音の変化には違いがあります。
今回は同じスネアにそれぞれのエフェクトを使用して、その違いを聴き比べます。
- Waves Aphex Vintage Aural Exciter
- BBE Sonic Maximizer
- Waves Vitamin Sonic Enhancer
まずは何もかけていない状態です。
【Dry音源】
続いて、それぞれのエフェクトをかけた状態です。
【Aphex Aural Exciter音源】
【BBE Sonic Maximizer音源】
【Vitamin音源】
比較しやすいように、3機種とも音の変化が分かりやすくなるように設定しています。
実際に聴き比べてみると、Aphex Aural Exciterは歪みによる倍音が加わったことが分かりやすく、高域の情報量が増えたように感じます。
BBE Sonic MaximizerはAphexとは音の変化の仕方が異なり、Vitaminは広い帯域を処理できることもあって、今回の設定ではAphexよりも大人しい印象です。
このように、エキサイター/エンハンサーという名称だけで音の変化を判断するのではなく、それぞれがどのような処理を行い、実際にどのような音になるのかを聴き比べると違いが分かりやすくなります。それぞれの製品がどのような処理を行い、実際にどのような音になるのかを確認して使い分けることが重要です。
エキサイターの効果的な使い方
エキサイターはボーカルやギター、ピアノ、シンセなど幅広い音に使用できます。
ポイントは「音を明るくするために何にでもかける」のではなく、ミックスの中で存在感や輪郭を少し補いたい音に絞って使うことです。
ボーカルの存在感を補う
ボーカルにエキサイターを使うと、倍音が加わることで明るさや存在感を補うことができます。
EQで高域を持ち上げる方法もありますが、エキサイターは元の音をもとに倍音を加えるため、EQとは異なる方法で音の輪郭を作れます。
ただし、かけすぎるとサ行などの高域が耳につきやすくなることがあるため、バイパスしながら効果を確認するのがおすすめです。
ギターの輪郭を出す
ディストーションギターなど、ミックスの中で輪郭が埋もれてしまう音にもエキサイターは使えます。
倍音を加えることで存在感を補えるため、単純に音量を上げる以外の方法でギターを目立たせることができます。
ただし、歪んだギターにはすでに多くの倍音が含まれているため、エキサイターを加えすぎると高域が強くなりすぎることがあります。
ピアノやシンセのアタック感を強調する
ピアノやシンセなどに使って、明るさやアタックの存在感を強調することもできます。
私自身、以前YAMAHA SY99に搭載されていたAural Exciterをピアノに強くかけて、ハウスピアノのような音を作ろうとしていました。
ただ、当時はエキサイターをかければかけるほど良いと思っていたため、結果としてハウスピアノというより「シャリシャリしたピアノ」になってしまうことも多かったです。
この経験からも、エキサイターは効果が分かりやすいからこそ、少し物足りないと感じる程度から調整するのがポイントだと感じています。
エキサイターを使うときの注意点
エキサイターは音の変化が分かりやすいため、つい強くかけたくなるエフェクトです。しかし、倍音を加えすぎると高域が耳についたり、音が硬く感じられたりすることがあります。
特に注意したいのが、トラック単体で判断しすぎないことです。
かけすぎると音が耳につきやすくなる
エキサイターを使うと倍音が加わり、音の輪郭や存在感が強調されます。
ディストーションギターのようにミックスの中で輪郭をもう少し出したい音にも使えますが、強くかけすぎると高域が目立ちすぎたり、音が硬くなったりすることがあります。
私の場合、「おっ!めっちゃ音抜けがよくなった!」と単体で感じるくらいまでかけてしまったときは、ミックス全体で聴くと強すぎることがあります。
そのため、「少し良くなった気がするけれど、もう少しかけたい」と感じるくらいから、ミックス全体の中で確認するようにしています。
ミックス全体のバランスで判断する
エキサイターを使ったトラックの存在感が強くなると、それまで作っていたミックスのバランスが変わることがあります。
たとえばギターにエキサイターをかけて前に出した結果、今度はボーカルが埋もれて聞こえるようになることがあります。
そこでボーカルにもエキサイターを追加し、さらに別の楽器にも追加していくと、最終的には多くのトラックで倍音が強調され、ミックス全体が硬く耳につくサウンドになりかねません。
もはや音の改善云々とは別にその世界は「エキサイター地獄」と表現してもおかしくないです。
エキサイターを使うときは、処理したトラックだけではなく、必ずミックス全体とのバランスを確認することが大切です。
エキサイターを使う前にミックスやアレンジを確認する
「音が埋もれているから、とりあえずエキサイターをかける」という使い方には注意が必要です。
音が埋もれる原因は、音量バランスや周波数の重なり、パンニング、アレンジなど別の部分にある可能性もあります。
まずはミックスやアレンジに問題がないか確認し、そのうえで「この音にもう少し存在感やキャラクターを加えたい」という場合にエキサイターを使う方が、効果を判断しやすくなります。
もちろん、エキサイターを強くかけた音そのものを表現として狙うのであれば問題ありません。
大切なのは「エキサイターを使えば悪いミックスを直せる」と考えるのではなく、目的を決めて必要なトラックに使うことです。
エキサイターについてよくある質問
よくある質問についてまとめました。
- エキサイターとEQの違いは?
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EQは基本的に、元の音に含まれている周波数成分を増減するエフェクトです。一方、エキサイターは入力された音をもとに倍音成分を生成・付加できます。
そのため、どちらも「音を明るくする」という目的で使える場合がありますが、EQで高域をブーストすることと、エキサイターで倍音を加えることは同じ処理ではありません。
引用元:iZotope「How to Use an Audio Exciter in Mastering」
https://www.izotope.com/community/blog/how-to-use-an-audio-exciter - エキサイターとサチュレーターの違いは?
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エキサイターとサチュレーターは、どちらも倍音を加える処理を利用するため、明確に区別できない場合があります。
iZotopeもExcitationとSaturationについて、どちらも倍音成分を加えるという点で技術的に似ていると説明しています。
一般的なエキサイターでは特定の帯域に倍音を加えて明るさや存在感を調整する使い方が多いのに対し、サチュレーターはテープや真空管などの非線形特性を再現し、倍音だけでなく質感やダイナミクスなども含めた変化を狙う製品があります。
ただし、現在のエキサイタープラグインにもTapeやTubeなどのサチュレーション方式を採用したものがあるため、両者を完全に別のエフェクトとして分けることはできません。
引用元:iZotope「What is audio saturation? How to use it in your mix」
https://www.izotope.com/community/blog/what-is-audio-saturation - エキサイターはマスタートラックにも使える?
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使えます。
マスタリング用プラグインにもエキサイターが搭載されており、ミックス全体に倍音を加えて存在感や質感を調整する用途があります。
ただし、マスタートラックではすべての楽器に処理が影響するため、かけすぎには注意が必要です。少量から調整し、バイパスして処理前後を比較しながら判断するのがおすすめです。
引用元:iZotope「How to Use an Audio Exciter in Mastering」
https://www.izotope.com/community/blog/how-to-use-an-audio-exciter
まとめ
エキサイターは、主に倍音を生成・付加することで、音の明るさや存在感、輪郭を調整するエフェクトです。
EQが元の音に含まれている周波数成分を増減するのに対して、エキサイターは新たな倍音成分を加えられる点に大きな違いがあります。
一方、エンハンサーは製品によって処理方法が異なり、Waves Vitaminのように倍音処理を利用するものもあります。そのため、「エキサイターとエンハンサーはまったく別のエフェクト」と単純に分けるのではなく、それぞれの製品がどのような処理を行っているのかを見ることが大切です。
エキサイターは少し加えるだけでも音の印象を変えられますが、効果が分かりやすいぶん、かけすぎると高域が耳についたり、ミックス全体のバランスを崩したりすることがあります。
音が埋もれている場合は、まず音量やEQ、アレンジなどを確認し、それでも「もう少し存在感やキャラクターがほしい」というときにエキサイターを使ってみてください。
隠し味として上手に使えば、EQとは違ったアプローチで音の存在感を調整できる便利なエフェクトです。

