ドラムミックスの秘訣を解き明かす!この記事では、キック、スネア、ハイハット、タム、シンバルのバランスの取り方から、マスキングや音量調整のテクニックまで、プロの音に近づくための具体的な方法を紹介します。
コンプレッサーやEQの効果的な使い方、リバーブやゲートの活用法も解説し、各パートの音量基準や、トラック全体のバランスを整えるコツを提供。DTM初心者からエンジニアまで、誰もが楽曲のクオリティを向上させるための重要な要素を学べます。ドラムトラックを際立たせ、楽曲に迫力を加えるミキシング技術をマスターしましょう。
ドラムが埋もれる原因
ドラムが埋もれるという見方は
- 曲の中で埋もれてしまう
- ドラムトラックの中で埋もれてしまう
単体で聴いたときは良い音であっても曲の中で埋もれてしまうというのはよくある話です。なのでドラムミックスで重要なのは常に全体像の把握です。
埋もれる主な原因は次の3つです。
- マスキング
- アタックの有無
- 余韻&音の被り
これらを順番に解説していきます。
マスキング
ミックスはマスキングとの戦いです。マスキングとは以下のことをしめす言葉です。
二つの音が重なったとき、片方がかき消されて鳴っているのに聞こえないという現象が起こります。これをマスキング効果といいます。マスキング効果は、周波数が近ければ大きくなり、周波数が低い方が、他方の音をマスクする効果が大きくなります。
引用元:日本騒音調査より
ギターやベース、スネアなど帯域的にかぶっている部分がマスキングしている部分といえます。抜けないという場合は、出来る限りお互いの楽器の居場所を譲り合うアレンジが大切です。
マスキングという概念はクオリティの高いミックスを志すうえで重要なのでぜひ時間をかけて理解することをおすすめします。
それぞれのドラムの音色とかぶりを知るにはスペクトラムアナライザーというプラグインを使うと視覚的に理解できるのでオススメです。
マスキング対策として、ドラムであまり必要ではない帯域をイコライザーを使ってカットするという方法があります。
各パーツのモコモコの原因となりやすい中域400〜700くらいは各楽器の周波数が集中しやすい帯域でもあります。この周波数帯域で効果的なのはキックです。スネアやタムでも使用できる方法ではありますが、意図しない音色にならないようにカットの量を自分でしっかりと聴くのが大切です。
スネアのBottomにゲートをかけて響き線をタイトに強調
間違ったマスキング対策の例として高域を上げることことがありますが、これは根本的な解決ではありません。高域を上げるといことはそれだヘッドルーム(ミキサーにおけるピークまでの量)が減ってしまいます。
なので高域を上げるのではなく、音のかぶりの原因となる帯域を調整することが大切です。上記の中域をイコライジングするのもその方法ですが、スネアやタムのリリースの長さもまた不要な音のかぶりとなる可能性があります。
その場合はイコライジングで処理するのもいいですが、ゲートで余韻をカットすることで不要な帯域がかぶらないようにできます。
アタックの有無
マスキングされていてもアタック成分があればその存在を確認することができます。
キックやベースを感じられるのはアタック成分があるからです。これがないと「何かがなっているけど何かはわからない」という存在の音になります。
このアタックの周波数はある程度抜ける音なのでわりかし聴こえることが多いのですが、当然他の楽器でマスキングされる場合もあるので音色選びとそれを活かすことができるアレンジが重要になります。
余韻&被り
キックとスネアは人によって余韻が少ないと感じる人がいるかもしれませんが、音色によっては余韻(リリース)が残ります。特にアコースティック系ではその余韻自体がも音色要素の1つとしてとらえることができるので、むやみにカットすればよいといわけではありません。
しかし、この余韻をそのままにしておくと音の濁りや抜けの原因にもなります。なぜなら小さい余韻であってもそれがトラックコンプや、バスコンプなどで大きくなってくることで他のサウンドに影響が出てくるからです。
余韻と同じくらい重要なのが生ドラムの場合は他のパーツの被りが入ってくることでサウンドメイクの邪魔になる可能性があります。可能性という言葉を使っているのは決してかぶりは悪いだけではなくその音も含めてドラムサウンドになるのですべてを取りきらなければいけないという話ではありません。
タイトにするかデッドにするか?
余韻を消すということは音が短くなるような印象になります。その場合タイトになればビートは明確になりますが、その分ドラムサウンド特有の荒々しさがなくなるので、自分の楽曲をどのような雰囲気にしたいのか?という意図は明確にしましょう。
被りの取り除き方
キックの場合
まずキックにゲートかエキスパンダーをインサートします。
ゲートとは不必要な音を取り除くエフェクターです。使い方としては次のような場面で効果的です
- キックやスネアに入り込んだ他の各パーツの音を取り除く
- ギターで弾いていないときにノイズを取り除きたい
ちょっと応用的な記事ですが、こちらに記事でゲートについて説明しているので参考にしてみてください
エキスパンダーはかかり方が甘いゲートだと思ってください。
ゲートはスレッショルドを超えていない音を完全に消しますがエキスパンダーはスレッショルドを超えていない音は小さくするだけです。
ゲートでは音色によって意図どおりにゲートが閉じなかったりするために音が途切れてしまう可能性があります。そういうときはゲートよりエキスパンダーの方が使いやすいです。サンプルで確認してみます。BFD3のキックに被ったスネアやハイハットの音をエキスパンダーとゲートで取り除いてみます。
0:00〜0:03バイパス
0:04〜0:06エキスパンダー
0:07〜0:09ゲート
0:10〜0:13バイパス
ドラム音源の場合は設定で被りを削除することもできますし、ドラムソフト音源ではリリースの調整ができるものもあるので無理してゲートやエキスパンダーを使う必要はありませんが、マルチ音源に入っているドラムの場合は調整できないので、覚えておいて損はありませんが、基本的には生ドラムに適した抜けの調整です。
今回は私の求める音の傾向がエキスパンダーだったのでそちらを使うことにしました。
ゲートを使う時の注意点
ゲートではスレッショルドを下回った音を強制的にカットします。そのためキックのふくよかさを感じる余韻をなくしてしまう可能性があります。そうなった場合は、リリースを使って調整することで必要な余韻を消さずにすみます。
いかにキックのふくよかさ「胴鳴り」をコントロールしつつ、不必要な余韻をカットというのが腕の見せどころとも言えますが、音の輪郭がわからなくなりそうであれば、イコライザーでアタックである5kHz付近をブーストしコンプをガッツリ(10:1〜20:1)の間で設定すると、バスドラムの抜けがよくなります。
スネアの場合
スネアも基本被りを減らすのと余韻のコントロールをゲート及びエキスパンダーで調整します。この場合コンプで-5dB〜-7dBくらいのリダクションを目安にして、100Hz〜150Hzをブーストすることでスネアのビートを感を強調できる音色になります。
こえらを踏またサンプルが以下のものになります。
ポイントは0:00〜0:12はスネアに余韻があって少し奥に配置されいているように感じところそれが0:12〜0:19ではかなり前に押し出されているところに注目してください。
0:00〜0:12(エキスパンダー、コンプ、イコライザー、バイパス)
0:12〜0:19(エキスパンダー、コンプ、イコライザー)
0:20〜0:26(スネアにリバーブ)
使用したプラグインと設定
設定数値は今回使用した数値ですが、あくまで目安です。音色やアレンジなどによって変わるので参考程度にお考えください。
エキスパンダー
キック | スネア | |
スレッショルド | -24.5dB | -26.0dB |
レシオ | 0.5:1 | 0.57:1 |
ゲイン | +7.5dB | +8.5dB |
ニー | 1.0 | 1.0 |
アタック | 0.0ms | 0.0ms |
リリース | 2.0ms | 98.0ms |
コンプ
キック | スネア | |
スレッショルド | –22.0dB | -32.0dB |
レシオ | 19:1 | 4.6:1 |
ゲイン | 0dB | 0dB |
ニー | 0.7 | 0.7dB |
アタック | 23.0ms | 16.5ms |
リリース | 5.0ms | 32.0ms |
イコライザー
キック | ゲイン | Q |
158Hz | -2.5dB | 0.79 |
6600Hz | 9.5dB | 1.00 |
スネア | 0dB | 0dB |
86Hz | 24dB/Oct | 0.71 |
205Hz | 4.0dB | 0.83 |
スネアにかけたリバーブ
Arturia Rev Plate-140
Drive | -13.0dB |
Model3 | DECAY TIME2 |
BLEND WET | WIDTH 100 |
PRE-DELAY | 50ms |
抜けるキックや埋もれないスネアに重要なのは次の3点でした
- マスキング
- アタックの有無
- 余韻&音の被り
とくに、今回は余韻にテーマを当てましたが、余韻を上手くコントロールすることで音を簡単に前に出してくることができます。余韻をコントロールしないままコンプを使うと、奥行き感のある音のまま前に出てくる感じになります。
それを意図としているのであれば問題はありませんが、分厚いオケの中でスネアやキックを上手く抜けさせるためには余韻&音の被りに注目することで問題を解決できる可能性があります。
是非試してみてください。
では次に音量についてお話していきます。
ドラムミックス音量の合わせ方
まず大切なのはキックをベースに音量バランスを考えることです!
キックに合わせるメリット
先日にも少しお話しましたが、基本的にキックから合わせるのが定石です。その理由は以下の3つです
- 音圧があり音量変化が少ない
- 音色の変化が少ない
- 楽曲のボトムを支えるのに向いている
上記の3つの要素を一言でまとめるとキックをミックスの基本とできるのは存在の安定性がもっとも高いからといえます。
聴くと感じる違いについて
高音域ほど耳に速く届き、低音域は耳にとどくまでに時間がかかります。また低音域は音の判別が難しくなります。なので、低音域はアバウトな認識として感じる要素が強くなります。そして高音域は「聴く」という要素が強くなります。
音量の目安
さて、音量の合わせ方として、キック→スネア→ハイハット→タム→シンバルの順番で合わせます。
てっとり早く「ミキサーのメーターの位置で教えて欲しい!フェーダーはどこにすればいいの?」という気持ちにもなりますよね。
私もわからなかったときに「ミキサーのフェーダー位置だけ教えてよ」って何度も思いました。
ですが、実際のところジャンルや音色そして作編曲の意図にによってそれらの「フェーダーの位置の目安」はあまり意味がないのです。というのもミキサーフェーダーをピークで見ると音色によってそのピークは違います。例えばスネアであれば、叩く場所によって音が変わります。リムショットの音色と普通にHitの音色ではピークがでる周波数が違います。
つまりピークで完全に合わせてしまうと、音色毎にフェーダーを用意する必要が出てきますが、そんなことをしていたらフェーダー操作は莫大な数になってしまいます。なので完全にフェーダーの位置を表示する意味はあまりありません。
しかしそれだと「やっぱり感覚なのか?」という疑問に戻ってしまいます。なので1つの例としてここにドラムの目安を作ってみます。
ドラムの各パーツの音量の揃え方について
これはBFD3で作ったドラムパターンです。音量のバランスとしてはこれくらいであれば割とオーソドックスなバランスだと言えます。(好みもありますが)
Kickの場合
定番の-10dBでキックの音量を考えます。このキックの場合ピーク(一番大きい)は122Hzになっています。なのでミキサーのフェーダーの出力に表示される-10dBとはこの位置のことになります。もちろんこれが以外の音も当然聴こえています。
このキックの音をより固くしようと思えば、4kHzと5kHz付近に2つの山があります。それがビーターが当たる音、アタックとして一番認識しやすい音です。その付近を2dB〜3dBもあげてやるか、またはピークの122Hzを2〜3dBほど下げてやれば相対的に4kHz付近が強調されることになるので、アタックを感じやすくなります。
キックの音色やアタックの出方はすべて変わってきます。EQの教科書などで「5kHz付近をあげましょう」という説明があるかと思いますが、まずは自分の耳で聞いてスペクトラム・アナライザーを使って確認することでより正しい聴かせたい音を作れます。
Snareの場合
ハーフエッジのピークは-27.7dBリムショットのピークは-18.7付近としました。パット聞いた感じかなり小さいように感じるかもしれませんが、後にコンプ等による音作りをするのでこれくらいの大きさでも問題はありません。このように初期段階で音が小さいと思っても後のエフェクトなどで変わってくるので、最初からパツパツにしないようにするのが音量バランスを取るコツといえます。
ハーフエッジに関してこちらに詳しく書いてあるので参考にしてください。
スネアの場合はハーフエッジとリムショットで音量もピークもかなり異なります。それらをどれだけ聴かせたいかによってバランスが変わります。またスネアの音色によってはキックよってスネアがマスキングされてしまう場所があります。
ただマスキングされているからと言って音が全く聴こえなくなるわけではありません。スネアの倍音や高域成分がそのマスキングした部分を補えます。
キック(赤)を表示しました200Hz付近にもキックの音色があるためハーフエッジ(緑)が重なっているのがわかります。この場合はキックの200Hz付近を少し下げることでスネアの音は聴きやすくなります。
ハイハットの場合
ハイハットは高域を多く含みます。しかし、音色によってはかなりローを含んだものもあります。先程もお伝えしたように、マスキングされることで音量の優先順位が変わってしまう場合もあればそれが原因で音の濁りにもなります。ハイハットはこのアナライザー表示からわかるように、6kHz〜10kHz付近です。周波数では18kHz付近まで伸びていますが、実際聞いているのは10kHz付近になります。
ハイハットのピークは−30dB付近にしています。高域は低域より耳に届きやすいのでそれほどあげなくても問題ありません。当然これもトータルのバスコンプによって持ち上がることを考慮しています。
キック(緑)とスネア(白)とハイハット(黄色)を並べ見ると、キックの高域がハイハットの邪魔をしているのがわかります。このような場合にキックにハイカットをすることでハイハットの居場所を作って上げればよりハイハットも聞こえやすくなる場合があります。こうやって3点を並べてみるとわりと、各パーツがそれぞれの帯域の足りないところを補っているのがわかります。
タムの場合
タムの場合はハイタム(緑)、ミッドタム(赤)、フロアタム(青)によって周波数が異なります。しかし常に出てくるわけではありませんので、フィルインなどのタム回しのときにどれだけ聴こえさせたいのかによっても変わりますが、あまり大きくする必要はありません。実音も重要ですが輪郭を感じられるアタック感があれば十分にフィルとしての効果を果たすことができます。
キック(オレンジ)を重ねるとかなりタムがキックの領域にいるのがわかります。しかしフィルをするときにタムとキックが一緒にする必要はありません。なのでこういう場合はアレンジ面でかぶりを回避するように考えます。
シンバルの場合
キック(紫)シンバル(青)ハイハット(黄色)シンバルと一緒になるタイミングがあるのはキックです。ハイハットはシンバルとの周波数の比較のために表示していますが、音色や叩き方にによってはハイハットより低い場合もあります。またシンバルも金物なので基本は大きくしなくても耳によく届きます。シンバルはアクセント的な役割も兼ねているのでハイハットより少しだけ大きくしています。
ピークは5kHzの27dB付近ですが音色として5kHz〜10kHz付近でピークの値を考えるとよいでしょう。また、ソフトドラム音源によってはOHがシンバルになっていてその中には太鼓類が含まれている場合もあります。
そういう場合は、ローカットでカットしてしまってもよいでしょう。ただ「OHをベースに音量を組む場合はむやみにカットする必要はありません
これらにバスコンプをかけるとこのような感じになります。
キレイにまとめることができます。(個人的にはもう少しシンバルを出してもよいかなと思っています)
バランス的に言えば70点くらいなのでここから微調整をしていくわけですが、おそらくそう大きくは変わらないと思います。ここから大きく変更しなければいけないと感じているのであれば、それはバランスの微調整ではなくなります。
ドラムソフト音源と生ドラムの音量の違いについて
ドラムのレコーディングにおいてマイキングがしっかりしていれば、ミキサーのフェーダーを動かさなくてもよかったりします。(もちろんそんなことは稀ですが)最近でこそ大容量化に伴いリアルなドラム音源が出てきましたが、昔はベロシティの差によってサンプルが切り替わるのではなく、音量が変わるものがありました。そこで弱い奏法をシミュレートする目的で打ち込みの場合はベロシティによって音量変化がコントロールしようとする人がいますが、これは基本的には間違いです。
なぜなら、奏法による強弱は音量ではなく音色のコントロールになります。つまり小さく叩いたものとを大きく叩いたものを同じ音量にしても同じ音色にはなりません。なぜなら強弱によって倍音の出方が異なるからです。
ベロシティでコントロールするのは音量ではなく音質(音色)です。
ドラムミックスに関する参考動画
以下の動画飛澤正人さんによるwavesプラグインを使ったドラムミキシングの動画ですが、なぜそうなのか?という視点をわかりやすく解説しているのでおすすめです。飛澤さんのミックス哲学は本質的なので他のプラグインを使った場合でも十分に納得の行く結果が得られます。
まとめ
ドラムの各パーツの音量を考える時は
- フェーダーは◯◯dBという数値はない(音色によって異なる)
- 音色が持っている質感のチェック(どんな周波数でどんなピークがあるのか)
- マスキングされている領域
- アレンジによる被りの回避
これらを意識することで、つかみにくいドラムの各パーツの音量を無理なくまとられるようになります。わからない時はとにかくアナライザーでも何でも使ってなれるまでは「比較と確認」をできるツールを使うことで客観的にも理解できるのでオススメです。
あとはジャンルによってスネアが少し大きい場合があったりするので、自分が作りたいジャンルをしっかり聴き込むことでわかるようになります。
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