歌もののピアノの打ち込みをしてみたけどなんだかパッとしない。垢抜けいない、かっこよくならない。このような悩みを持っている人は次の4つだけ意識してください。
- 音色
- ベロシティ
- タイミング
これらを適切にコントロールすることで生々しく楽曲の雰囲気にあったピアノを打ち込むことが可能になります。
この方法は私が20年以上DTMを続けて「ピアノを打ち込む」となった場合に気をつけているポイントでもあります。簡単なポイントですが、これだけでかなりリアルなピアノ打ち込み表現が可能になるので、気になったところだけをパクってあなたの技術にしてもらえれば嬉しい限りです。
ピアノの打ち込み①音色について
ピアノと言っても生のグランドピアノ、アップライトピアノ、生ピアノをサンプリングしたPCMピアノ、エレクトリック・ピアノがあり、エレクトリック・ピアノにはYAMAHA CPシリーズ、FMピアノ、WurlitzerやRhodes pianoなど様々なピアノがありますが、ここではサンプリングされたアコースティックピアノ音源を例に説明します。
ポイント①リアルだけがすべてじゃない
大は小を兼ねるという言葉があり、そうなると「リアルであればすべてOK」という感じにもなりそうなのがピアノ音源ですがそうではありません。例えばクラシックであればピアノ全体のボディが鳴っているようなリアルなピアノ音源が求められます。
しかしポップスやロックのピアノは抜けがよく、他の楽器に負けない強いアタック感になります。そこでコンプレッサー等でしっかりと潰して音圧を稼ぎバンド等で埋もれないピアノを作ります。
何万もするピアノ音源もジャンルシチュエーションに合ってなければまったくの無駄になります。ではどういう時にどういうピアノの音を使えばよいのか?個人的には次のようなピアノの音色選択します。
ジャンル | 音源 | 音色名 |
アップテンポなアイドルorアニソン曲 | Xpand!!2 | Very Hard Piano |
バラードからポップスまでピアノもちゃんと聴かせたい曲 | Pianoteq | Steinway Steinway D POP |
定番のハウス曲 | KORG M1 | House Piano |
歪んだギターにが全面に押し出されるロックな曲 | Logic Sampler | Yamaha Grand Piano |
プロジェクトや、楽曲、テンポ、などによっても変わってきますが、この傾向に近いものを選ぶようしています。
音色名を出しているのでイメージしにくいかもしれませんが傾向としては次のようになります。
Very Hard Piano | あまりリアルではない感じのピアノ | 中域付近がよく分かる音 |
Steinway Steinway D POP | リアルで高品位なピアノ | ハイからローマでしっかりと鳴る音 |
House Piano | 固くて抜けがいい音 | ハイよりの音 |
Yamaha Grand Piano | 音圧が高い音 | コンプで潰された感じのある音 |
「そんなんじゃ個性でないでしょ?」という意見もあるかもしれません。確かに同じ音ばかりでは個性は生まれにくいです。なので「できるだけ近い音色」という幅を自分に持たせています。
しかし「なぜそこまで上記の音色にこだわるのか」という疑問があるかもしれません。
自分で好きなように作る分にはどんな音色を使ってもいいと思います。しかし。誰かに聴いてもらう、誰かに頼まれたものを作るときなったときには必要なのは「自分らしい個性」ではなく「人が聴いて楽しめる個性」になります。
上記の音色は何十年とかけて手垢がついたオーソドックスな音色チョイスですが、それだけ多くの人に親しまれてきた音色でもあります。それゆえ依頼された場合などはクライアントとイメージのズレが少なくなります。
音色選びは基本中の基本です。音楽を聞くときも音色を意識することで「やっぱりハウスはM1なのだな!」ということがわかるようになってきます。
ピアノの打ち込み②ベロシティについて
ピアノは楽器の中で一番の音域を誇る楽器ですが、ギターやバイオリンで可能な音を揺らすことができません。だからこそ、表現方法としては音の強さや長さタイミングを調整することが大切になります。
ここで語るのは音の強さであるベロシティになります(厳密な意味ではベロシティは音の強さではなく速さという意味になります)
ベロシティの打ち込みの基本は互い違いです。厳密な意味で言えばもっと柔軟なベロシティの設定方法がありますが。基礎ということでここを抑えておけば何もしていない状態の打ち込みと比べてリアルに感じられるサウンドになります。
それではベロシティを変化させていない状態と聴き比べてみてどのような変化があるかを確認してみましょう。
ベロシティ100だけのものを2回、ベロシティを変化させたものを2回弾いています。
あまり差がわからないという人もいるかもしれません。ここでの聴き比べのポイントは次の音につながるときの音量差です。たとえば、ベロシティ80の次が100に戻るときはそれなりの音量差があります。(ここではわかりやすく音量差という言葉を使います)
この音量差があると前後の音の違いがわかりやすくなります。ではなぜ違いがわかる方がよいのかというとそれはベロシティは拍子と密接に関係しているからです。
きまった時間に規則的にめぐる、強い音と弱い音との組合せ。
つまり一定のアクセントがどこにくるかでその拍子を理解できることになります。
例えば4拍子の場合は以下のようなアクセントの位置になります。
1拍目 | 2拍目 | 3拍目 | 4拍目 |
強 | 弱 | 中強 | 弱 |
2拍子の場合
1拍目 | 2拍目 |
強 | 弱 |
3拍子の場合
1拍目 | 2拍目 | 3拍目 |
強 | 弱 | 弱 |
この強弱がなくなってしまう=ベロシティが一定になると拍子を感じ取ることができなくなります。
上記のベロシティの数値は4拍子の(強)(弱)(中強)(弱)になっているのがわかると思います。
ベロシティは(強)(弱)(中強)(弱)をベースにしながら音符の長さに微妙に変化させることでより拍子が感じやすくなります。
画像では2分音符、4分音符、8分音符、16分音符でそれぞれベロシティを変化させています。
どうでしょう、ベロシティがない状態で音の変化が乏しく音に硬い印象があると思います。意図してこれらを狙う場合もありますが、まずはなめらかな音の変化を目指して数値を調整することが望ましいです
「8分音符や16分音符の数値覚えるのがめんどくさい!」という人はざっくりとした方法があります。それは
1拍目を3拍目にコピーして3拍目のデータすべてのベロシティをお好みで(5〜8くらい)さげます。これと同じように
2拍目を4拍目にして同様にベロシティを調整します。
音符が細かくなっても拍子の強弱に合致していることが大切です。
さて、ここまでは割とDTM 本などにも書かれていることですが、ここではさらにもう少し突っ込んだお話をします。
このベロシティの数値ですが、あくまで目安なのは言うまでもありません。音源によっては同じベロシティであっても響き方が異なります。
特にサンプリング音源ではサンプリングしているベロシティの幅によって変わります。例えば4段階しか音の強弱がないピアノ音源の場合、100も90もそれほど変わらない場合があります。
ここで呪文のように100、80、90、80と覚えて打ち込んでも効果的な結果にならない可能性があります。
なので目安にしたうえで自分の持っているピアノがどのベロシティ数値で変化するか知っておきましょう。そうすれば、ただ覚えるベロシティ数値からその音源のポテンシャルを引き出せるベロシティコントロールが可能になります、
さて、プロはこのベロシティをどのように考えているのか?というところ気になりますよね。
実は結構人それぞれです。プロの方でもかなりざっくりと決めてしまう人も多いです。ざっくりなベロシティ設定で有名なのが攻殻機動隊や科捜研の女のサントラで有名な川井憲次さんです。
川井憲次さんは、「めんどくさい」という理由でベロシティ設定はかなりざっくりな決め方をしています。
ベロシティまでも全部フラットだったりしますよ。曲によってですけど、本当にバッキングに徹している場合。ベロシティは全部66だとか77だとかが凄く多いです。なんで66がいいかっていうと、「6」を2回押すだけでいいからです(笑)なので、もう66か77か88しかないです。
川井憲次インタビューより
曲(メロディ)が良いのが前提ですがかなりざっくりです。夢も希望もありませんwしかし、大切なのは細かいところに目が奪われすぎずに曲の要であるメロディが生きればそれでよい。というある意味でプロフェッショナルな考えです。
和音のベロシティの目安について
ベロシティの値を設定するときに1番重要なのがこれです。意味もなく数値を入力するのではなく。
「この曲はすこし重たい感じのサウンドにしたいからピアノもそのような感じにしよう」「この曲はポップでピアノも軽めにしたい」などです。
たとえば重たいピアノにしたい場合は高音と低音のどちらの音が大きければ重く聞こえるか考えてみます。当然低音ですよね?
このように出したい音色を重たいのか軽いかという判断のもとでベロシティを入力します。
すべてのベロシティが100のピアノ音色
つぎにC2とC3のドの音がベロシティ80のピアノ音色
G3の音トップの音がベロシティ110であとは90のピアノ音色
音色によってはベロシティの数値で変更してもそれほど音の変化がすくないものもあるので注意が必要です。
これだけはやっておきたいテクニック
無難なところで中の音「ドミソでいうところのミ)を低くすることでドンシャリ傾向の音になるのでぬけがよくなります。
バッキングのハイとローを強調することでPOPのコードバッキングの存在感がわかりやすくなります。
ピアノの打ち込み③タイミングについて
タイミングによってリズムにグルーヴが出るみたいな文脈の話を聴いたことがあるかもしれませんが。ピアノが入ったポップスにおいてそこまでグルーヴに影響するタイミングの調整は必要ないと個人的には感じています。
そこでオススメなのが拍の頭だけはジャスとにして細かい音符をずらすという方法です。これはどういう意味があるのかというと、人は拍の頭だけは合わせやすい(演奏しやすい)のはメトロノームに合わせて練習するのをイメージすればわかりやすいと思います。
早くてテンポ感が良い曲は少し前のめりになってしまう感じなので、4分音符の中にある8分音符や16分音符は10〜20ティック程度前にずらところから初めてみるとよいでしょう。逆に、テンポが遅く少し重めに雰囲気にしたいのであれば、逆に10〜20ティック程度遅らせるとそれなりの雰囲気がでます。
これを先程のベロシティと合わせて打ち込むと、ベタ打ちに比べはるかにらしさがでてきます。
まとめ
今回紹介したのは基礎の基礎なので、これだけで完璧なピアノトラックが打ち込めるわけではありません。しかし、意味もなくベロシティやタイミングにこだわったものよりは素早く、確実なピアノトラックが出来上がります。
上記の方法はすべてのピアノ音色で使えるものではありますが、ピアノによって音の傾向は違うので、上記を参考にしながら調整しこのスキルを身に着けられればどんな音色にも対応できるようになります。
すべてをいきなり理解するのは難しいかもしれないので、まずは自分が「これだけ覚えよう!」という一つを見つけてください。必ずできるようになります。