イヤガズムエクスプロージョン(Eargasm Explosion)は、音が派手になり「迫力が増した」「音が良くなった」と感じやすいイコライザー設定です。
しかし、実際の設定を見ると125Hzを+9dB、8kHzを+11dBにするなど、複数の帯域をかなり大きくブーストしています。
では、この設定をそのまま使い続けても問題ないのでしょうか?
私は作曲やミックスを仕事として音を聴いてきた立場から、イヤガズムエクスプロージョンを積極的にはおすすめしていません。
この記事では、イヤガズムエクスプロージョンの設定値やPerfectとの違いを確認したうえで、なぜ音が良く聞こえるのか、そして私がおすすめしない2つの理由を解説します。
イヤガズムエクスプロージョンとは?
イヤガズムエクスプロージョンは、インターネット上で広まった代表的なEQ設定のひとつです。
「Eargasm(イヤガズム)」は、音楽などを聴いたときに耳で感じる強い快感を表す俗語です。「Explosion(爆発)」と組み合わせた「Eargasm Explosion」という名前からも、音の刺激や派手さをイメージさせる設定といえます。
イヤガズムエクスプロージョンのEQ設定値
イヤガズムエクスプロージョン(Eargasm Explosion)は、低域から高域まで複数の周波数帯域をブーストするEQ設定です。
実際の設定値は以下のとおりです。

| 周波数 | 設定値 |
|---|---|
| 32Hz | +3dB |
| 64Hz | +6dB |
| 125Hz | +9dB |
| 250Hz | +7dB |
| 500Hz | +6dB |
| 1kHz | +5dB |
| 2kHz | +7dB |
| 4kHz | +4dB |
| 8kHz | +11dB |
| 16kHz | +8dB |
設定を見ると、特定の帯域だけを補正するのではなく、32Hz〜16kHzまで広い範囲をブーストしているのが特徴です。
とくに125Hzの+9dB、8kHzの+11dBが大きく、低域の迫力と高域の明るさを強調するようなEQカーブになっています。
このように複数の帯域を持ち上げることで、適用前よりも音が派手で迫力のある印象になりやすくなります。
では、なぜこの設定が「音が良くなった」と感じやすいのでしょうか。その理由をもう少し詳しく見ていきます。
PerfectとイヤガズムエクスプロージョンのEQ設定の違い

| 周波数 | Eargasm Explosion | Perfect | 差 |
|---|---|---|---|
| 32Hz | +3dB | +3dB | 0dB |
| 64Hz | +6dB | +6dB | 0dB |
| 125Hz | +9dB | +9dB | 0dB |
| 250Hz | +7dB | +7dB | 0dB |
| 500Hz | +6dB | +6dB | 0dB |
| 1kHz | +5dB | +5dB | 0dB |
| 2kHz | +7dB | +7dB | 0dB |
| 4kHz | +4dB | +9dB | -5dB |
| 8kHz | +11dB | +11dB | 0dB |
| 16kHz | +8dB | +8dB | 0dB |
PerfectとEargasm Explosionの大きな違いは4kHzです。Perfectでは+9dBなのに対し、Eargasm Explosionでは+4dBと5dB低く設定されています。
4kHz付近は音の輪郭やアタック、存在感に影響しやすい帯域です。この帯域をPerfectより抑えることで、Eargasm Explosionでは4kHz付近の強い押し出し感が相対的に弱まり、+11dBまでブーストされた8kHzの明るさやきらびやかさが目立ちやすいバランスになります。
ただし、4kHzを下げた理由について明確な一次情報が確認できない場合は、「耳につきやすさを抑えるため」などと作者の意図まで断定することはできません。
イヤガズムエクスプロージョンが良く聞こえる理由

「良い音」と感じる基準は人それぞれです。また、私はイヤガズムエクスプロージョンを積極的におすすめする立場ではありません。
ただ、実際に使ってみると、なぜこのEQ設定が「音が良くなった」「迫力が増した」と感じやすいのかは理解できます。
ここでは、実際にイヤガズムエクスプロージョンを使って感じたメリットを紹介します。
音が派手で迫力のある印象になる
イヤガズムエクスプロージョンは、複数の周波数帯域を大きくブーストするため、適用すると音がかなり派手になり、迫力や高揚感を感じやすくなります。
とくに125Hzが+9dB、8kHzが+11dBと大きく持ち上げられているため、低域の力強さと高域のきらびやかさが強調されます。
そのため、EQをオフにした状態と比較すると、音が前に出てきたように感じやすい設定です。
ただし、「派手に聞こえる=音質そのものが向上している」とは限りません。 この点については、後ほど「おすすめしない2つの理由」で詳しく説明します。
さまざまなジャンルで変化を感じやすい
Perfectやイヤガズムエクスプロージョンは、特定のジャンルだけを想定したEQプリセットではなく、低域から高域まで広い範囲を調整しています。
そのため、ロックやポップス、EDMなど、さまざまなジャンルでEQを適用したときの変化を感じやすいのが特徴です。
iTunesにはRockやPopなどジャンル別のEQプリセットも用意されていますが、イヤガズムエクスプロージョンのような大きなブーストを多用した設定と比較すると、変化がおとなしく感じられることがあります。
イヤガズムエクスプロージョンEQ設定の2つの弱点

イヤガズムエクスプロージョンは、音を派手で迫力のある印象に変えられる一方で、複数の帯域を大幅にブーストするという特徴があります。
私がこの設定をそのまま使うことをおすすめしない理由は、主に次の2つです。
弱点① 大幅なブーストで音割れしやすくなる
最近の楽曲は、マスタリングによって音圧が高く仕上げられているものも多くあります。
そこにイヤガズムエクスプロージョンのような大幅なEQブーストを加えると、特定の周波数成分がさらに持ち上がり、出力レベルが上昇してヘッドルームが不足する可能性があります。
とくにイヤガズムエクスプロージョンでは、125Hzが+9dB、8kHzが+11dBなど、複数の帯域が大きくブーストされています。
元の楽曲や再生環境によっては、このレベル上昇によってクリッピングや歪みが発生する可能性があります。
対策として、EQのプリアンプをあらかじめ下げてヘッドルームを確保する方法があります。対策として、EQのプリアンプを下げてヘッドルームを確保する方法があります。必要な減衰量は楽曲やEQカーブによって変わるため、ピークレベルを確認しながら調整します。
ただし、-6dB下げれば必ずクリッピングしないという意味ではありません。 必要な減衰量は楽曲やEQカーブによって変わります。
そして、ここが私がイヤガズムエクスプロージョンを積極的におすすめしない理由の一つです。
大きくブーストした結果、今度はプリアンプを大きく下げてレベルを調整するのであれば、最初からこれほど大幅なブーストを使う必要があるのか、という疑問が残ります。
弱点② 派手な音に耳が慣れてしまう
大きく派手な音は、最初に聴いたときほど強いインパクトを感じやすいものです。しかし、同じ音を聴き続けていると、その音色や音量感に耳が慣れてきます。
イヤガズムエクスプロージョンも、低域と高域を大きく持ち上げることで、最初は「迫力が増した」「音が良くなった」と感じやすい設定です。
しかし、その状態を基準にしてしまうと、EQをオフにした本来の音が地味に感じられることがあります。
ここで注意したいのが、さらに刺激を求めて再生音量まで上げてしまうことです。
イヤガズムエクスプロージョンを使うこと自体が耳を傷めるわけではありません。しかし、EQによる派手さに加えて再生音量まで上げ、大きな音を長時間聴き続ければ、聴覚への負担は大きくなります。
この点については、次の「イヤガズムエクスプロージョンは耳に悪い?」で詳しく解説します。
イヤガズムエクスプロージョンは耳に悪い?
イヤガズムエクスプロージョンを使ったからといって、それだけで耳を傷めるわけではありません。
注意したいのは、イヤホンやヘッドホンから実際に耳へ届く音量と、その音を聴き続ける時間です。
厚生労働省によると、ヘッドホンやイヤホンで大きな音量の音楽を長時間聴き続けると、音の振動を脳へ伝える役割を持つ内耳の有毛細胞が徐々に傷つき、ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)につながる可能性があります。また、少しずつ進行するため、初期には自覚しにくいことも特徴です。
では、どのくらいの音量から注意すればよいのでしょうか。
WHOが示す安全なリスニングの目安では、80dBで週40時間まで、90dBでは週4時間までとされており、音量が大きくなるほど安全に聴ける時間は短くなります。
出典:厚生労働省「ヘッドホン難聴(イヤホン難聴)について」
出典:WHO「Deafness and hearing loss: Safe listening」
ヘッドホン難聴は少しずつ進行するため、初期には自覚しにくい場合があります。
大きな音を聴いたあとに耳鳴りや聞こえにくさなどの異変が続く場合は、耳鼻咽喉科などの医療機関に相談してください。
つまり重要なのは、
「どんなEQを使っているか」ではなく、「どのくらいの音量を、どのくらいの時間聴いているか」
ということです。
では、なぜイヤガズムエクスプロージョンの記事でこの話をするのでしょうか。
イヤガズムエクスプロージョンでは、125Hzを+9dB、8kHzを+11dBにするなど、複数の周波数帯域を大きくブーストします。
そのため、元の楽曲や再生環境によってはEQ適用後の出力レベルが上昇する可能性があります。
もちろん、プリアンプや再生ボリュームを適切に下げれば、耳に届く音量を抑えることはできます。そのため、「イヤガズムエクスプロージョンを使うと難聴になる」という意味ではありません。
私が注意したいと考えているのは、イヤガズムエクスプロージョンによる派手で迫力のある音に慣れ、さらに刺激を求めて再生音量まで上げてしまうことです。
大きな音を長時間聴き続ければ、イヤガズムエクスプロージョンを使っているかどうかにかかわらず、聴覚への負担は大きくなります。
そのため、私は「気持ちよく聞こえるから」という理由だけで、大幅なEQブーストを常用することはおすすめしていません。
イヤガズムエクスプロージョンを使うときの注意点
ここまでの内容を踏まえると、イヤガズムエクスプロージョンを使う場合は、EQの設定値だけでなく再生レベルにも注意する必要があります。
特に意識したいのは次の3点です。
- EQをON/OFFして音量差を確認する EQをONにしただけで大幅に音が大きくなっている場合、その音量差によって「音質が良くなった」と感じている可能性があります。EQの効果を比較するときは、できるだけON/OFF時の音量を揃えて聴いてみてください。音量差を小さくすることで、単純に「大きくなったから良く聞こえる」のか、それともEQによる音色の変化を気に入っているのか判断しやすくなります。
- 必要に応じてプリアンプを下げる 大幅なEQブーストによってヘッドルームが不足する場合は、プリアンプを下げてクリッピングを防ぎます。なお「-6dBにすれば必ず大丈夫」というものではなく、必要な減衰量は音源や設定によって変わります。
- 迫力を求めて再生音量まで上げすぎない EQによる音色の変化と、単純な音量の大きさは分けて考えます。特にイヤホンやヘッドホンでは、大音量で長時間聴き続けないことが重要です。
イヤガズムエクスプロージョンを完全に否定する必要はありません。特徴を理解したうえで、自分の再生環境に合わせて適切な音量で楽しむことが大切です。
イヤガズムエクスプロージョン以外のおすすめEQ設定
イヤガズムエクスプロージョンのように複数の帯域を大きくブーストしなくても、音楽を聴きやすくするEQ設定は作れます。
大切なのは「万能のEQ設定」を探すことではなく、使用しているイヤホンやヘッドホン、聴いている音楽、そして自分の好みに合わせて調整することです。
私がおすすめするEQ設定と、その考え方については「おすすめイコライザー設定|LINE MUSICなどで使えるEQ設定を解説」で詳しく紹介しています。
まとめ
イヤガズムエクスプロージョンを一言で表すなら、「音のエナジードリンク」のようなEQ設定です。
125Hzや8kHzを大きくブーストすることで、音に迫力や明るさが加わり、最初に聴いたときには「音が良くなった」と感じやすい魅力があります。
しかし、大幅なブーストにはピークレベルが上がってクリッピングしやすくなることと、派手な音を基準にしてしまいやすいことという2つの弱点があります。
だからといって、イヤガズムエクスプロージョンそのものが悪いEQ設定というわけではありません。
特徴を理解したうえで、プリアンプや再生音量に注意し、ときどき楽しむのであれば一つの音の楽しみ方だと思います。
ただ、私は普段から音楽を聴くためのEQとして、ここまで大幅なブーストを常用することはおすすめしていません。
音楽にはジャンルによる違いがあり、イヤホンやヘッドホンにもそれぞれ異なる周波数特性があります。そして何より、どんな音を心地よいと感じるかは人によって違います。
イヤガズムエクスプロージョンを「万能のEQ設定」と考えるのではなく、自分の耳と再生環境に合った音を探す。
その方が、長く音楽を楽しむためのEQとの付き合い方として自然ではないかと思います。
