プロフェッショナルな音質を追求する音楽制作において、明瞭さとクリアなサウンドは不可欠です。
しかし、不要な共振やノイズにより、理想のトラック作成が困難になり、頭を抱えている人も多いと思います。その悩みを解消するためのツールがTechivation M-Clarityです。
Techivation M-Clarityはスペクトラル処理によって、それらの問題を自然かつかんたんに取り除くプラグインです。
イコライザーやコンプ等、多くのプラグインでそれらの問題を解決しようしてきたプロセスは今後M-Clarityに任せれば大丈夫です!想像以上の結果とそこで得られた時間はさらに多くのクリエイティブな時間に変換できます。
この記事では、バンドサウンド系のデモに使用して、その効果と機能性および操作性について解説します。
Techivation M-Clarity 概要
メーカー | Techivation |
製品名 | M-Clarity |
特徴 | トラック全体のトーンバランスと明瞭さを向上。 歌唱ボーカル等から濁りや不要な共鳴、ポップ音を除去。 ドラムの濁り感を除去 マスタリング時にトラックの周波数バランスを調整 ピアノ、シンセ、ストリングスなどの楽器録音をクリーンアップ。 ベースラインの低域クリーンさを保ちながらボックス感を排除。 トランジェントサウンドを軽k源 |
システム | Windows 7 and up as 64-bit VST and VST3, and 64-bit AAX (PT11 and up). Mac OS 10.9 (OS X Mavericks) and higher as VST, VST3, AU, and AAX. Intel processors, and Native Apple Silicon Chips. |
認証方式 | シリアル認証 |
認証数 | 2 |
マニュアル | 日本語/英語 |
価格 | $129.00 |
備考 | アンインストール場所 MAC OS AU: /Library/Audio/Plug-ins/Components/ VST: /Library/Audio/Plug-ins/VST/ VST3: /Library/Audio/Plug-ins/VST3/ AAX: /Library/Application Support/Avid/Audio/Plug-Ins/ その他のデータ: ~/Library/Application Support/Techivation WINDOWS VST: Custom path from installer VST3: \Program Files\Common Files\VST3\ or \Program files(x86)\Common Files\VST3 AAX: \Program Files\Common Files\Avid\Audio\Plug-Ins\ |
M-Clarityは音楽制作用プラグインで、特にボーカルや楽器の中低域の不要な共鳴や箱鳴りを除去し、音の明瞭さを高めます。
このスペクトル整形技術を使用することで、音質のクリアさが向上し、ミックスの各要素がはっきりと区別できるようになります。結果として、プロフェッショナルなオーディオ品質を実現し、ユーザーはより洗練された音楽制作が可能になります。
M-Clarity と T-Clarity の違いについて
M-Clarity には前進となるT-Clarity というプラグインがあります。これらの主な違いは、使用される技術にあります。T-Clarity はオーディオ圧縮を使用してサウンドをクリーンにするのに対し、M-Clarity はスペクトル整形技術を用いて精度と音質を向上させます。
Techivation M-Clarity レビュー
不要な共振を抑えて濁りのないクリアな音質を提供
M-Clarityは不要な音の共振を抑制するプラグインであり、使用することで音声の明瞭さを向上させることができます。M-Clarityは、低・中低域の不要な音を削減し、音声をよりバランス良くクリアにします。
不要な音の共振とは
音楽や音声録音において、特定の周波数が予期せず強調されてしまう現象。例えば、楽器や声が特定の音を発すると、その音が部屋の形やサイズによって特定の周波数が増幅されることがあります。
これが「共振」です。不要な共振は、音がこもったり、不快な響きが生じたりすることで、クリアでバランスの取れたサウンドを妨げる要因になります。音楽制作では、このような共振を抑えることで、より自然で聞きやすい音質を実現します。
不要な共振音はミックスのクオリティを下げる可能性が大きいので、これらをできる限り自然な形で取り除くことができるのがM-Clarityの大きな特徴です。
では、実際にどのような効果になるのかを聞いてみます。
下記音源サンプルでは、ベース、ディストーションギターX2、ドラム(キック、スネアX2、タム、オーバーヘッド)シンセリード、ボーカル(synthsizer V )X2(ユニゾン)で作ったシンプルなロックテイストな楽曲です。
では、まずドラムだけにM-Clarityを使用してみたのが次のサンプルになります。
ドラムのローエンド付近がすっきりしているのがわかると思いますが、単体で聞くと次のようになっています。
では、次に、マスターアウトに使用してみました。
詳しい機能説明は後述しますが、強度を調整する中央ノブ(Suppression)の位置は50%にしていますが、これでも相当スッキリ感が得られます。素材にもよりますが100%にすると逆にスッキリとしすぎる傾向があるので、微調整をしながら使用するのがおすすめです。
今回はソフトシンセを使用しているためレコーディング時の箱鳴りによる不要な共振はありませんが、これが生録であればよりその効果はわかりやすく、オーディオインターフェイスやマイクのクオリティを2ランクアップさせたような音質向上感が得られます。
効果が実感できるDiff機能の素晴らしさ
M-Clarityは初心者から上級者まで扱えるシンプルな機能性が魅力のプラグインです。各パラメーターの名前と効果の関係性は次のようになります。
機能 | 説明 |
---|---|
Suppression | 「対象となる周波数成分がどの程度減少されるかを調整し、 オーディオ信号の全体的な音色のバランスと明瞭度を向上 |
Intensity | ターゲットとする共振のスケールを制御 低強度では、全体の輪郭に影響を与えることなく、細かなスペクトルのピークを抑制 高強度では、より大きく広帯域の共振を探索 |
Focus | どれだけ作用するかを制御 高い設定であれば、最も強い共振のみが影響 |
Hard & Soft modes | 音声の具体的なニーズや目指すサウンドの結果に応じて、プラグインの処理モードを選択。 攻撃的で精密なモードか、または穏やかで滑らかなモードかを設定 |
Attack & Release | 信号の周波数内容の変化の反応速度 変化が収まった後に処理を停止するまでの時間 |
Frequency Slider | 対象とする周波数範囲を調整 |
Diff & Filter | 処理後の差分とフィルタリング設定 |
Input-output level meters | 入力および出力のレベルを視覚的に表示 |
Make Up Gain | 処理によるレベル変化を補正 |
Auto Gain | 処理後の全体的なゲインを自動調整 |
Scalable user interface | インターフェースのサイズ調整が可能 |
Internal On/Off Switch | プラグインのオン/オフを内部で切り替え |
Undo/redo options | 設定変更の取り消しややり直し |
A/B Switch | 設定を比較するためのA/B切り替え |
Tooltips | 各コントロールの説明をポップアップ表示 |
Mid-Side and Left & Right | ステレオ信号の中央(Mid)とサイド(Side)、左(Left)と右(Right)を別々に処理 |
これらの意味をすべて記憶、理解する必要はなく、基本はSuppression、Intensity、Focus、を操作することで効果を実感できますが、それらと同時に操作してほしいのがDiff & Filterです。
これは、Suppression、Intensity、Focus、Frequency Sliderがどのような音なのかを確認できるものです。例えば、コンプ等の理解が難しいのはコンプというエフェクト自体の音を確認できないためです。(ディストーションギターやコーラスであれば音の変化がわかりやすいですよね)
その音の変化のみを確認できるのがDiff機能であるため、効果を正しく目的に応じて確認できます。
私もこの機能がのおかげで、音の変化を冷静に確認し、自分のイメージした音声処理にアプローチができるようになりました。気持ち的にはこの機能はすべてのプラグインにつけるべき機能!くらいに感じています。
Frequency Sliderの周波数20Hz〜6kHzについて
処理範囲を決定するFrequency Sliderの周波数は20Hz〜6kHzですが、この6kHzというのはユーザーにとって多少狭いと感じる人もいるかもしれません。実際海外のフォーラムでは、6kHzの上限についてハイハットの処理が困難になるという報告もあります。
この問題については公式では、「M-Clarityのアルゴリズムと処理は、可聴スペクトルアーチファクトを引き起こすことなく 20Hz から 6kHz まで効果的に動作するように設計されているため」と解説しています。
実際のところ私はこの上限についてそこまで苦労するようなシーンには今のところ発生していませんが、この数値の意味を深く理解できる人にとってはマイナスなイメージにうつるかもしれません。
迷わない操作性は求める結果への最速アプローチ
プラグインを扱う場合に重要なのはシンプルでかつわかりやすいということです。わかりやすくするということは機能を最低限にしぼりながら、その機能が最大限の効果をあげることが求められます。
M-Clarityは使い方は基本Suppressionによる効果の度合いが音質の7割を決定付けます。なので、とにかくスピーディに自分が求める音質を探ることができます。
そして上記でも解説しましたが、そのためのシンプルかつ効果的な機能がDiffになります。
他にも2つの設定を比較できるA/B比較機能及びA/Bコピー機能、にアンドゥ・リドゥにプリセット機能なども搭載
このあたりの操作性のバランスにおいては1ノブ的プラグインとしては最高レベルといっても過言ではありません。
ただ、Techivationすべてのプラグインに言えることですが、副画面(アンドゥ・リドゥが表示されるウィンドウ)を開くと登録時のメールアドレスが表示されてしまうのは個人情報保護の観点からみると少しマイナスです。
CPU負荷は低く、安定している
M-ClarityのCPU負荷はとても低いです。18のオーディオファイルのマスターに1つだけM-Clarityを使用したCPU負荷は次の画面になります。
実際のところCPU負荷は低く、他のプラグイン(Ozoneや他のsoftubeのリバーブ等)と併用しても一度もDAWが落ちるようなこともないため安心して使用できます。
CPU負荷計測環境
パソコン Macmini2018
CPU Corei7(i7-8700B)6コア
HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS12.6.1 Monterey
Audio/IF Focusrite RED 8PRE
バッファー 256
DAW LogicPro10.7.7
48kHz/24bit
再生ストレージ SSD
通常 | セール時 | |
価格 | $129 | $45 |
無料トライアル完全に機能する 14 日間の無料トライアルが用意
価格的考察「購入のメリット・デメリット」
M-Clarityの価格は$129、先進的なスペクトル整形技術で楽曲のミックスクオリティがシンプルな操作でアップできます。私ならば、月に30〜40ドル程度でセールプラグインを買うならば、このプラグインを一つ買うだけにします。それだけの価値があるプラグインです。
デメリットとしては、機能に制限があるため、特定の高度なニーズを持つユーザーには不十分かもしれません。たとえば、ステレオリンクや外部サイドチェーン入力の欠如は、特定のミキシングシナリオでの利用を制限する可能性があります。
ただ、このデメリットはいわば重箱の角をつつくような解釈でもあり、それ以上に得られるメリットの方がはるかに大きいため、$129であっても十分にお買い得な印象がありますが、セール価格が魅力的な分、できれば安くなっているときに購入したいと思う人も多いかもしれません。
Techivation M-Clarityは誰におすすめ?
ここではM-Clarityをおすすめするユーザーとそうでないユーザーについて解説しています。
おすすめする人
TechivationのM-Clarityは、クリアでプロフェッショナルなサウンドを求めている音楽プロデューサーやエンジニアに最適です。特にボーカルや楽器の録音をクリーンに仕上げたい方や、音の明瞭さを重視するミュージシャンにおすすめです。
おすすめしない人
外部サイドチェーン入力やステレオリンク機能が必須の高度なユーザー、または非常に細かい音響調整を望むプロフェッショナルには不向きです。これらの機能がないことが作業の障害になる可能性があります。
また、いくら高機能であってもやはり$129にその価値を見い出せいない人はあまりおすすめできません。
まとめ
M-Clarity使ってみましたが、おそらくスペクトラル処理によるレゾナンス抑制プラグインとしては最もシンプルで最も効果がわかりやすいと思います。
そして一度使用すると闇雲に使ってみたくなってしまうわかりやすい効果は一種の中毒性もあるので、そのあたりは使いすぎないように注意が必要ですが、音質が大きく破綻することもなく、音のクリア感を手軽に出せてしまうのは大きな魅力です。
しかし、やはりこのようなプラグインは改めて楽曲アレンジとミックスの基本的なバランスができていてより大きな効果を生むプラグインなので、楽曲自身のクオリティアップも心がけるのが大切だと思います。