リバーブを使うと奥行き感と広がりを演出でき、その結果、楽曲をゴージャスに見せたり、リッチな雰囲気を演出することができます。ロックな曲であればギターがガッツリと聞こえ、音の壁に気持ちよく酔える。そんなイメージです。
しかし、「リバーブを使ったら音が暗くなったてこもった」ということを経験したことがある人は多いです。ではどのようなリバーブを使えばそれらの問題を解決できるのか?
DAWに付属しているものから、市販されているものまで金額の幅も広く多種多様なリバーブが存在しますが、今回紹介するリバーブVSTプラグインのNUGEN Audio Paragon STを使えば難しいことは一切考えずにリッチな空間を演出でき音が暗くならないリバーブサウンドを体験することが可能です。
ギターやドラムにリバーブをかけてももっと明瞭度を良くしたい!という人、もちろんボーカルやストリングスピアノなどなんにもで使えますが、とりあえずこれを使ったらめっちゃよくなった感を得られます。
音質 | |
操作性 | |
価格 | |
購入のしやすさ | |
安定度(CPU負荷) |
NUGEN Audio Paragon STとは
Paragon STとは高品質なラウドネスメータリング/補正、サラウンドオーディオ、ミキシング/マスタリング、などのプラグインを手掛けるNUGEN Audioによって作られたリバーブプラグインです。Paragon には無印のものとSTの二種類があります。
ちなみにSTとはステレオの略です。
両者の違いは次のようになります。
映画関係者やドルビーサウンドを扱うのであればParagonですが、作編曲がメインであればParagon STで問題はありません。
最初に触った印象としては「IRの質もよく、何よりも音が埋もれず、音が暗くならない音像がはっきりとわかるリバーブ」という印象でした。
「Paragonが私が探していたサウンドをどれだけ早く私に与えてくれたかは驚くべきことでした。」
引用:NUGEN Audio Paragon STの説明和訳より
Jerel Corpusの楽曲
その他にもプロデューサーでエンジニアでもあるBob CooperもParagonSTのクオリティに太鼓判を押しています。
Bob Cooper下記の動画ではBob Cooperのミックスの手法についてその哲学を垣間見ることができます。
Paragon STの特徴
- 音楽に優しいパッケージのParagonリバーブ。
- 本物のIRを再合成するための独自のテクノロジー。
- ステレオ幅制御。
- テンポロックされたプリディレイとモジュレーション。
- マイク距離制御。
- スペクトル分析。
音楽に優しいパッケージというのは上位プラグインのParagonからの機能を絞ったことを示しています。
リバーブ特有のアーリーリフレクションや、リバーブテイルなどのパラメーターはなく、シンプルで使いやすいのも「音楽制作にやさしい」リバーブと言えます。
またこのプラグインの特徴である、IRに関しては他のIRリバーブプラグインと比べて非常に少ないです。しかし、ポイントを押さえたIRが搭載されています。
そして本来でIRリバーブはサンプリングした長さが重要になりますが、Paragonではリバーブタイムをある程度柔軟に変化させることができるので、より自分好みのリバーブを設定できます。
プリセットはタグで分けられているので探すのが便利です!
Paragon STの使い方のコツ
IRを決めDecayとSIZEでリバーブ感を大まかに決める!
まずはプリセットで好みのサウンドを決めるのが良いと思います。そのうえで音作りをする場合は次の3つが重要になります。
IR
Decay
Size
IRはリバーブの質感の元になるものです。ホール系がよいのか、チェンバー系が良いのか。それぞれを選択します。Summer ForestやSnow Forestというのは夏の森、雪が積もった森の中でIRを録音したものかはわかりませんが、ユニークなIRもあります。
Decayは減衰という意味で、シンセのADSのDと同じ役目です。ここを小さくすると音がタイトになります。Sizeは文字通り部屋の大きさになります。
ただこのSizeは良くも悪くある数値を堺に大きく音色が変わります。これをプラスと見るか、マイナスと見るかは使う人の感性次第ですが、IRとアルゴリズムの組み合わせ的に起こる問題なのかな?と思いました。
本来IRリバーブは録音したIRの長さによって決まりますが、ParagonではIRの長さをプログラム上で大きさと長さを変更できるというのが他のリバーブと異なる点になります。
Mic Distanceを使って奥行きを簡単に作り出そう!
Mic Distanceはリバーブの距離感を表しています。グラフィックを奥にすれば、距離は遠のき音が暗くなり、近くにすると音が明るくなります。リバーブを使うと音がこもる、暗くなりがちな人が多いですがMic Distanceを使うとそれらの問題を解決できます。
ただし、ゼロにすると人工的な響きになりすぎるので、ゼロよりちょっと手前あたりで止めておくのが良いでしょう。もちろんそれだけでもカラッとした響きがあります。
応用 ParagonのModifierでさらに空間を作り込める!
Paragon STの真骨頂とも呼べる機能はIRのModifierにあると言っても過言ではありません。ここではIRの各周波数帯域を調整できます。一言でいえば1バンドイコライザーを搭載しているものと考えてください。
たった1バンド?と思うかもしれませんが、これは積極的な音作りというよりはIRの響きを調整するものなので1バンドでも問題はありません。どうしても多くの周波数帯域を調整したいのであれば別途イコライザーを使った方がいいかもしれません。
そして、もう1つユニークなのがDecayという項目、これは周波数帯域のリバーブ成分のDecay(減衰)の速度を調整するものです。特定の周波数だけが残るような場合、低域にあたりにイコライザーをかけたいけど音の余韻はそこまで残ってほしくないという場合に威力を発揮します。
この2つの機能を意識しながら使うことで「意味のあるリバーブ」になり、サウンドのクオリティが向上します。
Paragon STのメリット
音の変化を確認しやすい!
IRモードでは音をすぐに確認するために予め用意したギターやドラム(キックだけ)ハーモニカ、男性、女性ボーカルなどいくつかのフレーズが用意されています。これホントに便利です。(昔アレシスのWedgeという卓上リバーブがあって、それにもボタンを押すと短いパルスが発音され、リバーブの質感をすぐに確認できる機能がありました。
リバーブを立ち上げてDAWを再生しなくても雰囲気がすぐにわかるってのがユーザービリティが高いリバーブプラグインだと思います。
また、IRリバーブが周波数的にはどのような響きなのかをスペクトラム表示されているので、「このIRだと低音がこれくらいでるからイコライザーでこれくらいカットした方がいいな」という目安をつけることができるのも大変便利です。
Modifierで設定したイコライザーの結果はスペクトラム表示にも反映されます。個人的にはリアルタイムで表示/設定ができればもっと便利だとは思いますが、それだとCPU負荷があがることが予想されるので、この仕様でよかったと思います。
ダイナミックに変化するリバーブを簡単にエディット
上記の「Paragon STの使い方のコツ」でもお話しましたが、専門的な言葉のパラメータが他のリバーブプラグインに比べてかなり少ないですが、基本的なリバーブの音作りは簡単にできてしまうのがParagonの魅力と言えます。
リバーブ自体はIRでありながらも少し機械的な雰囲気もあるサウンドですが、味があり他のリバーブでは得られない質感のIRが多いのでリバーブのタイプのバリエーションを増やしたい人におすすめのリバーブプラグインです。
これらをMain機能のパラメータとIRの中にあるModify機能を使って簡単にピンポイントのリバーブ成分をコントロールすることが可能です。
フィルターとPreDelayの組み合わせで新しいドラムループを作れる!
リバーブにとってPreDelayは重要です。PreDelayは元の音から残響が発生するまでの時間のこと、もしPreDelayがゼロの場合は、音が発生した瞬間にリバーブかかり、それが原因で音が濁る場合があります。つまりPreDelayを遅らせることでわずかながらにリバーブが発生していない音なるため、リバーブで音の輪郭が埋もれないようになります。
リバーブを使うと「音が濁る」という場合はPreDelayを10ms〜30msくらいに設定すると音の濁りが少ないリバーブサウンドになります。
さて、ParagonSTのPreDelayは0〜100msの間で設定することが可能ですが、拾はそれとは別にDAWのテンポにシンクさせることができます。シンクさせた場合は数値でなく音符の長さでPreDelayを選択することができます。
ここまで来るとリバーブというよりは専用のDelayのような感じです。このPreDelayをドラムループに使うと、別のループを重ねたような効果をつくることが可能です。
設定方法は、Tempoをクリックする(緑点灯状態)になるとDAWとシンクします。そこであとは譜割りの長さを指定するだけです。
すると次のようなサウンドになります。
今回はDelay的に使っていますが、DecayやSizeを変更することでもっとユニークな効果が楽しめます。
また、モジュレーションの機能もあり、リバーブを揺らすことで、疑似コーラスのような効果もあります、ただ正直なところここにはそこまで魅力を感じるところでもなかったので、私はあまり使っていません。
Paragon STのデメリット
触って気がついたデメリットについて解説します。ただ、あくまで私の主観であり「この程度なら問題ない!」という人も多いと思うので参考程度に読みすすめてもらえればと思います。
ユーザーがIRを追加することはできない
他のIRリバーブは自分で用意した(ネットで収集した)IRを追加することが可能ですが、Paragon ST独自のIRを追加することはできません。
しかし、これは私が問題ないと思っています。そもそもParagon STで用意されているIRだけでも音作りには困りません。何より意味もなくプリセットを増やしたところで結局のところ使うIRというのは大体決まってきます。
みなさんもシンセのプリセット等があってお気に入りのものがあったらそこをエディットして使うと思います。なのでIRを追加できないというのはさほどParagon STでは問題にならないと思いました。
IRを切り替えるといきなりボリュームが大きくなることがある
IRを切り替えているといきなりものすごく音が大きくなるケースがあります。これは特定のプリセットを選んだ状態でIRを変更するとプリセットの設定(特にイコライザー)が反映されてしまうことが原因です。IRだけの結果を知りたい場合は、IRのModifierをリセットボタンを押すことでイコライザーやDecayの設定をフラットにすることが可能です。
慣れが必要なプリセットの変更の方法
プリセットの名前をクリックするとプリセットを選択するのではなく名前の変更になってしまいます。プリセットを選択する場合はプリセットの名前の右隣にある矢印か、ノートみたいなアイコンみたいなものをクリックし選択します。ちょっと慣れが必要です。
改善要望点
パラメーターのダブルクリックでデフォルトの設定値に戻してくれる機能は欲しかったです。
これらのデメリットは使うのに致命的な問題というわけではなくあくまですべて慣れの問題と言えるものばかりで、音質、エディットのしやすさと得られる結果には十分すぎるほど満足の行くものです。
Paragon STのCPU負荷
CPU負荷計測環境以下の環境です。
パソコン Macmini2018
CPU Corei7(i7-8700B)6コア HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS10.15.7 Catalina
Audio/IF APOGEE Symphony Ensemble
バッファー 256
DAW LogicPro10.6.3
48kHz/24bit
再生ストレージ HDD
Paragon STをギターとドラムミックスに合計2つ挿してみましたが、IRとアルゴリズムのハイブリッドリバーブであっても負荷はかなり軽いです。これだと負荷は気にする必要がないです。
まとめ
最初はあまり期待せずに触ったリバーブプラグインのParagon STですが、思った以上に「使える」という印象でした。
ただ初心者に「とにかく買っておけ!」と言えるかというとそういうものではなく、リバーブについてある程度の知識を持っている人の方がより使いこなせると思います。
リバーブについてもう少しかんたんに理解を深めたいという人はこちらの記事が参考になります。
何より音が暗くならないというのが私にとっての大きなメリットです。(もちろん他のリバーブでも設定次第では暗くならずにすむのですが、Paragon STは特に簡単にできる印象です。)
定価299ドルというのはリバーブプラグインとしては割高です。ただ、その価格に見合ったサウンドを提供してくれるのは間違いありません。100ドル以下のリバーブプラグインとは根本的な質が異なります。
それが今なら149ドルで購入できるというのは、「高級な質感を持ちながら、使いやすく、音が暗くならずに埋もれないリバーブ」がほしい人にとっては購入に値するものだと思います。