ソフトシンセは単体で素晴らしい音色を持つ一方、ミックスに浮いてしまうことがあります。
これを解決するために効果的なのが「サチュレーション」です。Tone Empireの「ValveKult」は3つの真空管サウンドをエミュレートし、ソフトシンセだけでなくドラム、ベース、ボーカル、ギターにも効果的です。ValveKultはミックス全体の調和と存在感を高め、聞きやすさを向上させるツールとして注目されています。
Tone Empire ValveKult 概要
Tone Empire ValveKultは3つの真空管(バルブ)サウンドをTone empireが得意とするニューラルネットワークで精巧に作り上げた真空管エミュレーションプラグインです。
CPU負荷は低いです。
CPU負荷計測環境
パソコン Macmini2018
CPU Intel Corei7(i7-8700B)6コア
HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS12.6.1 Monterey
Audio/IF Focusrite RED 8PRE
バッファー 256
DAW LogicPro10.7.7
48kHz/24bit
再生ストレージ SSD
Tone Empire ValveKult サウンドレビュー
ValveKultは真空管エミュレーションのプラグインです。真空管エミュレーションのプラグインには、一部の人にはローファイで「音を汚す」というイメージがあるかもしれません。
しかし、ValveKultはローファイな歪みだけでなく、非常にクリアでハイファイな出音を実現します。真空管の特性により、音の隅々までフォーカスが当てられ、高い解像度を持っています。さらに、広い空間での使用に適しており、空間が広ければ広いほどValveKultを使いたくなるでしょう。
デモはドラムのループに使用しました。設定は次の通りです。
各タイプにはそれぞれ独自の特徴がありますが、統一された音質感があり、使いやすいです。
続いて、DriveモードをONにした状態での比較です。設定は先ほどのデモと同じで、オーバードライブをONにした状態です。
ValveKultの特徴の一つは、ドライブ(インプット)の設定によって音色が大きく変化する点です。個人の好みによりますが、自然なサウンドを作りたい場合は「タイプT」を選ぶと良いでしょう。一方、真空管的な歪みを強調したい場合は「P1」や「P2」といったタイプを選択するという印象です。
次にベースに使ってみます。設定は次の通りです。
デモではMODOBASSというベース音源を使用し、Nembrini Audio BASS DRIVERというアンプシミュレーションを組み合わせています。
ValveKultを通すことで、アタック感に複雑な響きを加えることができ、モデリングの特徴を軽減することができます。サンプリングベース音源でも効果は大きいですが、私個人としてはモデリングの特徴が好みではありませんでした。しかし、このサウンドの変化により、MODOBASSは私が求めていたものにより近づいたと感じています。
次にギターアンプに入る前に ValveKultを使うとどのような音になるかを聴いてみましょう。
使用しているアンプシミュはNEURAL DSPのArchetype Nollyです。
アンプ側で歪ませることが一般的ですが、ValveKultをチューブスクリーマーのような位置で使うと、以下のような結果が得られます。
アタック感は調整する必要がありますが、チューブ特有の歪みが加わることで、美しいディストーションサウンドが生まれると感じます。
機能性および操作性
ValveKultには3つの真空管タイプがあり名前と真空管タイプの関係性は次のようになります。
3極管(トライオード) | 5極管(ペンタード) | 5極管二構成 |
TYPE T | TYPE P1 | TYPE P2 |
一般的な音質傾向はとしては次のような特色が得られます。
3極管は最も基本的な真空管で、アノード、カソード、グリッドの3つの極から成り立っています。音質は一般的に滑らかで温かみがあり、中高音が豊かで、特にヴォーカルやアコースティックな音楽に適しています。しかし、パワーは限られており、大音量や低音の再生には不向きな側面もあります。
5極管は3極管に比べて複雑で、2つの追加の極(スクリーン・グリッドと抑制グリッド)があります。これにより、5極管はより高い出力と効率を実現します。音質は一般的に明瞭で力強く、低音もよく再現します。しかし、音の滑らかさや温かみは3極管ほどではありません。
二構成5極管は、一つの真空管内に2つの5極管を組み合わせたもので、一つの管でプリアンプとパワーアンプの両方の機能を果たすことができます。音質は5極管と似ていますが、一般的にはより広いダイナミックレンジと詳細な音像を提供します。
各パラメーターが緊密に連動しているため、どのパラメーターを調整しても音色に大きな変化が生じます。特に、選択した真空管タイプによって各パラメーターの反応が異なるため、パラメーター数が少ないにもかかわらず、ダイナミックな音色の変化を体験することが可能です。
ウィキペディア三極真空管
(東京理科大学)五極真空管の構造と動作
ValveKultは次の11のパラメーターによって音色を作ります。
OVERDRIVE | 3つの真空管を歪ませる |
DRIVE/INPUT | 真空管への入力ゲインを調整 |
TYPE(T、P1、P2) | 3極管(トライオード) 5極管(ペンタード) 5極管二構成 |
DRY-MIX | エフェクトに原音をミックス |
リンクマーク(オレンジ) | INPUTとOUTPUTのリンクのON/OFF |
OUTPUT | TUBEタイプを通った後の出力調整 |
Input-Adj | TUBEを通る前の入力ゲインを微調整 |
Output-Adj | TUBEとドライブを通った後の出力ゲインを微調整 |
LPF(2k 20k) | ローパスフィルター |
HPF(20k 2K) | ハイパスフィルター |
Tone Empireの「ValveKult」は、DRIVEとOUTPUTが連動しており、ゲインバランスの調整が簡単です。
40種類以上のプリセットが提供され、自分の好みに合った音質を見つけやすいです。
ただし、数値の直接入力ができず、HPF/LPFの調整が難しい点があります。DRY-MIXの設定は特異で、エフェクトが適用された状態をDRYとし、0dBでエフェクトと原音が50%ずつ、0dBを超えると原音が優先されます。
書き出し時にノイズが乗る
私の環境特有の問題かもしれませんが(詳細は下記のCPU負荷計測環境を参照してください)、ValveKultのオーバードライブ機能をONに設定した状態でLogic Pro 10.7.8を使用してオフラインバウンスを行うと、音の始まり部分が欠けてしまう現象がありました。これに対する対策として、書き出し時に数秒の余白を設けることで、今度は小さなノイズが乗るようになりました。
これはwavやmp3といった形式での書き出し時にもこの問題は生じます。
この問題を解決するための一つの方法は、リアルタイムバウンス(つまり、実時間での書き出し)を行うことです。これにより、ノイズが発生することはありません。
また、このノイズの問題は、トライアル版でも正規版でも発生します。
DAW起動直後にValveKult が反映されない
特にLogic Proの環境で、ValveKultを使用したプロジェクトを開くと、時折ValveKultが反映されない問題が発生することがあります。これを解消するには、プラグインスロットからValveKultを選択し、そのプラグイン画面を開くことが必要です。
また、プロジェクトを保存する際にGUIが表示されている状態で保存すれば、次回開いたときにValveKultが表示され、正常に反映されます。
さらに、ValveKultや他のTone Empireのプラグインには、「About」のようなバージョン情報を表示するウィンドウが存在しないことも覚えておいてください。
まとめ
メーカー | Tone Empire |
製品名 | ValveKult |
システム | MAC OSX – VST3/AU/AAX – 64 ビット WINDOWS – VST3/AAX – 64 ビット PC/MAC: Windows 10 以降* MacOS 10.13 以降 (Intel/M1/M2- ネイティブ サポート) 最小システム要件は、Intel i3 / AMD Ryzenまたは同等のもの、VST3、AU、またはAAX 64-bitホストが必要 |
認証方式 | シリアル認証 |
認証数 | 3 |
マニュアル | なし |
価格 | 86.90ドル |
Tone Empireの「ValveKult」は、3つの真空管タイプのサウンドをニューラルネットワーク技術を用いて学習し、解析することでリアルな真空管サウンドを再現するサチュレーションプラグインです。
使用感としては、音のフォーカスが非常に細かく、高度に改良されたサウンドから真空管特有の歪みまで、幅広い音質変化を楽しむことができます。一部、些細な不具合も存在しますが、これらはバージョンアップにより改善されると期待できます。