ソフトシンセを使った作曲は、単体で聴くと素晴らしい音色を持っているものの、ミックスの中に組み込むとなぜか浮いてしまう、という経験はありませんか?
高品質なソフトシンセでも、ミックスの中に適切に配置するためには一定の技術が必要です。その中でも特に効果的なのが「歪み」の技術です。ここで言う「歪み」とは、ギターのような過度な歪みではなく、ソフトシンセのエッジを取り除き、ミックスの中で聞きやすくするための微妙な歪み、つまり「サチュレーション」を指します。
ミックスって歪ませてもいいの?
適度な歪みは音楽をより魅力的にするよ!
このようなサチュレーションを提供するプラグインは数多く存在しますが、今回紹介するのはTone Empireの「ValveKult」は3つの真空管サウンドを最新の技術でエミュレートしたもので、現在最も注目されているプラグインの一つです。
ValveKultの歪みは、ソフトシンセだけでなく、生のドラムやベース、ボーカル、ギターなどにも効果を発揮します。これにより、ミックス全体の調和と各楽器の存在感を同時に高めることができます。
ただし、ValveKultがあれば全てが解決するわけではありません。それでも、その歪みはミックスの中での存在感を提供し、聞きやすさを向上させる助けとなり、ミキシングのスキルを向上させる新しい視点が手に入るでしょう。
この記事では実際使用した音色変化の例や機能性や操作性、使って初めてわかったデメリットなどを詳しく解説していきます。
- 3つの真空管タイプを選択可能
- 独立したオーバードライブ搭載
- 40の使いやすいプリセット
- 少ないパラメーターで多彩な音色変化
- オフラインバウンスに不具合の可能性
Tone Empire ValveKult 概要
メーカー | Tone Empire |
製品名 | ValveKult |
特徴 | モダンでクラシックなイギリス製バルブエンハンサープラグイン 3極管、5極管、5極管二構成の真空管タイプを選択可能 豊富なプリセット 高度なニューラルネットワークを用いて精巧に作成されたバルサウンド |
システム | MAC OSX – VST3/AU/AAX – 64 ビット WINDOWS – VST3/AAX – 64 ビット PC/MAC: Windows 10 以降* MacOS 10.13 以降 (Intel/M1/M2- ネイティブ サポート) 最小システム要件は、Intel i3 / AMD Ryzenまたは同等のもの、VST3、AU、またはAAX 64-bitホストが必要 |
バージョン | v1.0.0(2023-07-05) |
認証方式 | シリアル認証 |
認証数 | 3 |
容量 | 217.8MB |
マニュアル | なし |
価格 | 86.90ドル→42.90ドル |
備考 | 体験版あり(15日間期間限定) |
Tone Empire ValveKultは3つの真空管(バルブ)サウンドをTone empireが得意とするニューラルネットワークで精巧に作り上げた真空管エミュレーションプラグインです。
ニューラルネットワークとは?
ニューラルネットワークは、人間の脳の動作を模倣した人工知能(AI)の一種で、大量のデータからパターンを学習し、新しいデータに対して予測や決定を行うことができます。Tone EmpireのValveKultはadvanced neural networksという技術でより高度で高品質なデータ予測を行い、特定の真空管タイプの音響特性を学習し、サンプリングとモデリング技術でよりリアルな真空管サウンドをDAW内で再現できます。
この技術はテープエミュレーターのTone Empire TM700 やコンプレッサープラグインのTone Empire LVL-01に引き続き投入され新しいTone Empireが作る新しいエミュレーサーサウンドの顔になりつつあります。
技術的には取り込んだ音を最適化するようなものではなく、あくまで取り込み時にAIを使用しているという点を理解しておく必要があります。
SonibleやizotopeのOZONEシリーズのようなボタンひとつで最適な設定を探すというタイプのプラグインではありません。
Tone Empire ValveKult レビュー
それでは具体的なレビューをしていきたいと思います。レビュー内ででの帯の色には次のような意味合いがあるので参考にしてください。
- 青帯はメリット
- 赤帯はデメリット
- 緑帯はその中間
音質
4
3種3様のハイファイな真空管サウンドで音の隅々までフォーカスがあたる
ValveKultは真空管エミュレーションのプラグインです。真空管エミュレーションのプラグインには、一部の人にはローファイで「音を汚す」というイメージがあるかもしれません。
しかし、ValveKultはローファイな歪みだけでなく、非常にクリアでハイファイな出音を実現します。真空管の特性により、音の隅々までフォーカスが当てられ、高い解像度を持っています。さらに、広い空間での使用に適しており、空間が広ければ広いほどValveKultを使いたくなるでしょう。
デモはドラムのループに使用しました。設定は次の通りです。
各タイプにはそれぞれ独自の特徴がありますが、統一された音質感があり、使いやすいです。
続いて、DriveモードをONにした状態での比較です。設定は先ほどのデモと同じで、オーバードライブをONにした状態です。
ValveKultの特徴の一つは、ドライブ(インプット)の設定によって音色が大きく変化する点です。個人の好みによりますが、自然なサウンドを作りたい場合は「タイプT」を選ぶと良いでしょう。一方、真空管的な歪みを強調したい場合は「P1」や「P2」といったタイプを選択するという印象です。
次にベースに使ってみます。設定は次の通りです。
デモではMODOBASSというベース音源を使用し、Nembrini Audio BASS DRIVERというアンプシミュレーションを組み合わせています。
ValveKultを通すことで、アタック感に複雑な響きを加えることができ、モデリングの特徴を軽減することができます。サンプリングベース音源でも効果は大きいですが、私個人としてはモデリングの特徴が好みではありませんでした。しかし、このサウンドの変化により、MODOBASSは私が求めていたものにより近づいたと感じています。
次にギターアンプに入る前に ValveKultを使うとどのような音になるかを聴いてみましょう。
使用しているアンプシミュはNEURAL DSPのArchetype Nollyです。
アンプ側で歪ませることが一般的ですが、ValveKultをチューブスクリーマーのような位置で使うと、以下のような結果が得られます。
アタック感は調整する必要がありますが、チューブ特有の歪みが加わることで、美しいディストーションサウンドが生まれると感じます。
公式のデモ
機能性
4
特色のある3つの真空管タイプ+オーバードライブ
ValveKultには3つの真空管タイプがあり名前と真空管タイプの関係性は次のようになります。
3極管(トライオード) | 5極管(ペンタード) | 5極管二構成 |
TYPE T | TYPE P1 | TYPE P2 |
一般的な音質傾向はとしては次のような特色が得られます。
3極管は最も基本的な真空管で、アノード、カソード、グリッドの3つの極から成り立っています。音質は一般的に滑らかで温かみがあり、中高音が豊かで、特にヴォーカルやアコースティックな音楽に適しています。しかし、パワーは限られており、大音量や低音の再生には不向きな側面もあります。
5極管は3極管に比べて複雑で、2つの追加の極(スクリーン・グリッドと抑制グリッド)があります。これにより、5極管はより高い出力と効率を実現します。音質は一般的に明瞭で力強く、低音もよく再現します。しかし、音の滑らかさや温かみは3極管ほどではありません。
二構成5極管は、一つの真空管内に2つの5極管を組み合わせたもので、一つの管でプリアンプとパワーアンプの両方の機能を果たすことができます。音質は5極管と似ていますが、一般的にはより広いダイナミックレンジと詳細な音像を提供します。
各パラメーターが緊密に連動しているため、どのパラメーターを調整しても音色に大きな変化が生じます。特に、選択した真空管タイプによって各パラメーターの反応が異なるため、パラメーター数が少ないにもかかわらず、ダイナミックな音色の変化を体験することが可能です。
ウィキペディア三極真空管
(東京理科大学)五極真空管の構造と動作
操作性
3.5
10のパラメーターを動かすだけのシンプルな操作性
ValveKultは次の11のパラメーターによって音色を作ります。
OVERDRIVE | 3つの真空管を歪ませる |
DRIVE/INPUT | 真空管への入力ゲインを調整 |
TYPE(T、P1、P2) | 3極管(トライオード) 5極管(ペンタード) 5極管二構成 |
DRY-MIX | エフェクトに原音をミックス |
リンクマーク(オレンジ) | INPUTとOUTPUTのリンクのON/OFF |
OUTPUT | TUBEタイプを通った後の出力調整 |
Input-Adj | TUBEを通る前の入力ゲインを微調整 |
Output-Adj | TUBEとドライブを通った後の出力ゲインを微調整 |
LPF(2k 20k) | ローパスフィルター |
HPF(20k 2K) | ハイパスフィルター |
音作りにおける操作性に問題はありません。DRIVEとOUTPUTは連動しているので、ゲインバランスの調整は簡単に行えます(オレンジのリンクボタンをクリックすれば連動を解除できます)。
さらに、40種類以上の使いやすいプリセットが提供されているため、自分の好みに合った音質を見つけることが可能です。
ただし、各パラメーターに数値を直接入力することができないため、HPF/LPFのパラメーターの数値が大きく変わることが少し使いづらい点です。Macユーザーは、コマンドキーを押しながらパラメーターを調整することで、より細かい数値の変化を得られます。
また、DRY-MIXについては少し混乱を招くかもしれません。変化幅は-70dBから+12dBで、DRYは通常エフェクト未適用の状態を指しますが、ValveKultではエフェクトが適用された状態をDRYと呼びます。MIXノブを回すと原音が混ざるという設定になっています。0dBではエフェクトと原音が50%ずつとなり、0dBを超えると原音がエフェクトを上回るという、少し珍しい設定となっています。
安定性
2
CPU負荷はほぼなし!
オーディオファイルにValveKultを1つだけ挿した状態のCPU負荷です。
ほぼ負荷はない状態なので、どんなトラックにもValveKultの真空管ニュアンスを注入してトラックの存在感を高めることが可能です。
書き出し時にノイズが乗る
私の環境特有の問題かもしれませんが(詳細は下記のCPU負荷計測環境を参照してください)、ValveKultのオーバードライブ機能をONに設定した状態でLogic Pro 10.7.8を使用してオフラインバウンスを行うと、音の始まり部分が欠けてしまう現象がありました。これに対する対策として、書き出し時に数秒の余白を設けることで、今度は小さなノイズが乗るようになりました。
これはwavやmp3といった形式での書き出し時にもこの問題は生じます。
この問題を解決するための一つの方法は、リアルタイムバウンス(つまり、実時間での書き出し)を行うことです。これにより、ノイズが発生することはありません。
また、このノイズの問題は、トライアル版でも正規版でも発生します。
さらに、ValveKultの前にリリースされたTone Empire TM700 を使用して書き出すと、ノイズは発生しなかったので、ValveKultのオーバードライブ機能に何らかの問題がある可能性が考えられます。
DAW起動直後にValveKult が反映されない
特にLogic Proの環境で、ValveKultを使用したプロジェクトを開くと、時折ValveKultが反映されない問題が発生することがあります。これを解消するには、プラグインスロットからValveKultを選択し、そのプラグイン画面を開くことが必要です。
また、プロジェクトを保存する際にGUIが表示されている状態で保存すれば、次回開いたときにValveKultが表示され、正常に反映されます。
さらに、ValveKultや他のTone Empireのプラグインには、「About」のようなバージョン情報を表示するウィンドウが存在しないことも覚えておいてください。
CPU負荷計測環境
パソコン Macmini2018
CPU Corei7(i7-8700B)6コア
HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS12.6.1 Monterey
Audio/IF Focusrite RED 8PRE
バッファー 256
DAW LogicPro10.7.7
48kHz/24bit
再生ストレージ SSD
価格
同価格帯の中ではセール価格で最安
メーカー | Tone Empire | Antares | Brainworx | Valves |
製品名 | ValveKult | WARM | Black Box Analog Design HG-2 | AudioThing |
価格 | 86.90ドル→ 42.90ドル | 86.90ドル | 67.10ドル | 64.90ドル |
性能 | 3極管、5極管、5極管二構成の真空管タイプを選択可能 | 2 つの異なる真空管モデル | 仮想6U8A五極管および三極管用の個別のゲインコントロール | 3極管、5極管の切り替え |
ValveKultは同じ価格帯の真空管エミュレーションと比べて最もコストパフォーマンスが高いと言えます。さらに、新しいプラグインという立場から、個々の好みを除けば、真空管の質感を再現することに特に注力していることが感じられます。
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PluginBoutiqueでの具体的な購入方法はこちらの記事が参考になります!
Tone Empire ValveKultに関するFAQ
- Tone Empire ValveKultの主な機能は何ですか?
-
Tone Empire ValveKultは、デジタルオーディオワークステーション(DAW)内で真空管アンプの特性を再現します。これにより、音楽や音声に温かみと豊かさを追加することができます。多くのプラグインは、特定の真空管アンプのモデルをエミュレートし、その特性を詳細に再現します。
- Tone Empire ValveKultの使用方法は?
-
Tone Empire ValveKultは、通常、オーディオトラックのエフェクトとしてDAWに追加されます。プラグインは、オーディオシグナルに対して真空管アンプが行うような特定の処理を行います。多くのプラグインには、ゲイン、トーン、ドライブなどのパラメータがあり、これらを調整することでサウンドを微調整できます。
- どのような音楽ジャンルや用途にTone Empire ValveKultは適していますか?
-
Tone Empire ValveKultは、様々な音楽ジャンルや用途に適しています。例えば、ロックやブルースのギタートラックには、真空管アンプの特性をエミュレートすることで、生々しいと同時に暖かいトーンを得ることができます。また、ボーカルやドラム、シンセサイザーなどの他の楽器にも使用でき、それらのサウンドに深みと豊かさを追加します。
まとめ
Tone Empireの「ValveKult」は、3つの真空管タイプのサウンドをニューラルネットワーク技術を用いて学習し、解析することでリアルな真空管サウンドを再現するサチュレーションプラグインです。
使用感としては、音のフォーカスが非常に細かく、高度に改良されたサウンドから真空管特有の歪みまで、幅広い音質変化を楽しむことができます。一部、些細な不具合も存在しますが、これらはバージョンアップにより改善されると期待できます。
真空管サウンドと聞くと、ローファイな印象を持つ人もいるかもしれません。しかし、ValveKultは一般的に想像されるようなローファイサウンドにはなりません。そのため、ローファイなサウンドを求める場合は、AudioThing Valvesのようなプラグインがより適しているかもしれません。
ValveKultは、ハイファイな音質で、ミックスの中でうまく馴染まないソフトシンセや他の楽器を上手く調和させるのに役立つプラグインです。そのため、そのような用途で使用したい人、50ドル以下で高品質な真空管エミュレーターサウンドを求める人に強くおすすめできるプラグインと言えます。