正直なところ「またmoogかよ」」という印象でした。moogエミュレーションはある意味食べ飽きた感がある音源です。
しかし、音を聴いて「まだこんな音を出せるmoogエミュレーションがあるのか!」と驚きました。
音の太さや粗さなどどれをとっても良く、気がつけば3時間くらいCherry Audio miniverseで遊んでいました。
結論から言えばこの価格帯であればmoogサウンドバリエーションを増やす目的でもっておくのはアリです。個人的にGUIのリアリティがもう一歩感がありますが、それは音質が帳消しにしてれるレベルのソフトシンセです。
この記事では、ArturiaのMini VとSynapse Audio The Legendの音質を比較しながらCherry Audio miniverseのメリットデメリットを解説していきます。
- Moogの太さと質感を低価格で再現
- オーバードライブが使いやすく太い
- プリセットが即戦力
- GUIのリアリティがない
minimoodeからminiverseに名前が変更されていますが機能は同じです。
Cherry Audio miniverse 概要
メーカー | Cherry Audio |
製品名 | miniverse |
特徴 | モデルDタイプのMOOGエミュレーション クラシック4極、24dB/オクターブラダーフィルター フィードバックとサイドチェーン、 正確に複製されたオーバードライブ 外部入力機能を複製 200以上のファクトリープリセットパッチ 1、2、4、8、または16ボイス MIDIポリフォニックエクスプレッション(MPE)のサポート フォーカスズームイン機能 オーバーサンプリング制御 |
システム | マック macOS 10.9-macOS 12モントレー (Intel / M1 Appleシリコンをサポート)(64ビットのみ) 8GBのRAMを搭載したクアッドコアコンピューターを推奨 AU、VST、VST3、AAX スタンドアロン形式で利用可能 ウィンドウズ Windows 7-Windows 11 (64ビットのみ) 8GBのRAMを搭載したクアッドコアコンピューターを推奨 VST、VST3、AAX スタンドアロン形式で利用可能 |
バージョン | v1.0.12(2023-04-30) |
認証方式 | シリアル認証 |
容量 | 10.2.7MB |
マニュアル | 公式サイトにてユーザーガイド |
価格 | $59(メーカー価格) |
備考 | 体験版あり 30日間の無料デモが利用可能 (定期的にホワイトノイズを再生 |
もはや、今更感が強いキングオブシンセであるMinimoogのエミュレーションです。どうせ「それっぽい感じなんでしょ?」と思うかもしれませんが、ハイクオリティローコストのCherry AudioのMinimoogエミュレーション。音の粘り気太さ、どれをとっても「この価格ならば買い!」と思わせてくれるレベルのクオリティです。
Cherry Audio miniverseレビュー
音質 | 4 |
機能性(オリジナル性) | 4 |
操作性(使いやすさ) | 3.5 |
安定性(CPU負荷) | 3.5 |
価格(セールバリュー) | 5 |
総合評価 | 4 |
今回は、Moogのエミュレーションの定番とも言われているArturiaのMini V3と Moog最強エミュレーションと名高い Synapse AudioのThe Legentと比較してみたいと思います。
最強と定番の間でCherry Audioのminiverseがどれだけ存在感をアピールできるのかがポイントです。
音質
4
まずはロングトーンとスタッカートの音を聴いてみてください。基本すべてのパラメーターは同じにしてあります。
ここでのポイントは音のうねりです。音がどれだけうねっているかでリードやパッドの使い所が変わってきます。
音がうねる理由は色々とありますが、一番分かり易い理由はオシレーターのチューニングです。Mini Vはオシレーターのチューニングがデジタルレベルで一致しているかのような印象をうけるため、音に面白みがないと感じる人がいるかもしれません。
それに対してThe Legendやminiverseは音のうねりがあるため、音が少し分厚く感じます。
「音がうなっていないから駄目」という話ではなく、このうなりが自分のイメージしている音色の要素に必要かどうかを意識することが大切です。
使い所が大切ってことですね
そういうこと!
続いてベースフレーズの比較です。
こちらもすべてのパラメーターをほぼほぼ同じにして、音量も±1.5dB範囲に抑えてたうえでシンセベースの比較をしてみたいと思います。
モデリング界の大御所といえばArturiaです。そのArturiaのminimoogは現在バージョン3になっています。バージョンが上がるたびに音質が変わりました。個人的にはバージョン2.5の時代のmoogが好きでしたが、良く悪くも使いやすく優等生的なmoogサウンドです。
Synaps AudioのmoogエミュレーションLegendは音の太さと音質のカスタマイズの点で最強と言われています。
ArturiaのMini VやCherry Audioとはパラメーターが多少違う部分(特に背面のカスタマイズ)も多々見られますが、基本的には他のMoogエミュレーションと同じにしています。
ローエンドのふくらみはさすがLegendと言ったところです。しっかりとボトムを支えきれる安心感があります。
安い音良いでおなじみとなったCherry Audioのmoogエミュレーションです。Mini VとLegendと比べても太さや粘り気感など非常にクオリティが高いです。また音量を同じにしていても音圧があるので音を前に出てきます。
音質は最終的に好みが大きいところになりますが、個人的にminiverseがここまで検討するとは思っていなかったです
またmoogにはオーバードライブ機能があります。これも音声で比較してみたいと思います。
Driveのメモリは6に合わせてあります。
Mini VのDriveは正直なところ使い勝手があまりよくなく、思い描いた音に近づけるのに苦労しますが、Legendやminiverseはいかにも程よいアナログサチュレーションといった感じで使いやすい感じがあります。
miniverseのDriveは荒々しさが目立ち設定によっては太さも加わる感じなのでかなり使いやすいDriveと言えます。
またminiverseのドライブはサイドチェインとFeedbackの2つがありサイドチェインにすると外部から入力された音声をminiverseのフィルターに通すことが可能です。
レゾナンスの挙動について
Moogの特徴としてレゾナンス(Emphasis)を0まで下げると音が一段回太くなります。この部分に関してはThe Legendはあまり重きをおいていないのか、そこまでの変化はありませんが、Mini Vとminiverseは下げきったときとそうでないときの音の太さの違いがよく出ています。
機能性
4
機能としては以下の3つがminiverseの特徴的な機能になります。
オーバーサンプリングが16倍まで対応したこと
オーバードライブがサイドチェインに対応
同時発音数は最大16ボイス
MPEに対応
MIDIマッピング機能
Cherry Audioのすべての製品はMPEに対応しています。MPEとはMIDI Polyphonic Expressionの略で同時に「複数のノートなど多次元の演奏情報を同時にコントロール」できる新しいMIDI規格のことです。
専用のキーボードを使うことで動画のような複雑な音色変化が可能になります。
SEABORD RISEは一時期販売および開発をストップしていましたが2が発表されました。まだ日本には入ってきていないので一刻も早い日本での販売を望むばかりです。
MPE以外はさほど他のmoogエミュレーションと変わった機能はありません。ただ個人的にユニークだと思ったのがMIDIマッピング機能です。これは任意のパラメーターに外部ハードウェアのつまみを登録させるというものです。
コレ自体も基本的には新しいものではありませんが、miniverseのMIDIマッピングが面白いのは各パラメーターにCCだけではなくMIDIキーをアサインできるということです。
例えばフィルターのカットオフにC3のMIDIナンバーをアサインすることでC3を押すたびに設定したカットオフ周波数に変更させるというもの、各パラメーターのONとOFFを演奏できるというのがとてもユニークです。
操作性
3.5
他のmoogエミュレーション同様、すべてのmoogパラメーターの動きを再現しています。また、Cherry Audioシリーズでは各パラメーターだけをアップできるFocus機能があります。
これを使えば小さい液晶画面を使用するときにパラメーターが見えにくいという問題は起きないので便利だと思います。
ただ残念なのは音の良さに追求し続けた結果、GUI(グラフィカルユーザーインターフェイス)のクオリティが少し低いですす。
安定性
3.5
CPU負荷はやはりLegendが一番高いです。そして次にminiverseになっていますが、CPU負荷の分散がしっかりと聴いているので重たい印象はありません。
ただ上記の負荷はあくまで1ボイス時のCPU負荷になります。そこで16ボイスで4和音を弾いた状態と8ボイスで4和音を弾いた状態を比較してみたのが次の画像です。
同じ4和音であっても16ボイスの方がCPU負荷が高いのは、おそらくある程度バッファーを確保しているために負荷が高くなっているものだと思われます。
miniverseはオーバーサンプリングを搭載していますが、基本的に負荷は軽く、最大のオーバーサンプリング×4であってもCPU負荷は単音であれば25%程度です。
CPU負荷計測環境
パソコン Macmini2018
CPU Corei7(i7-8700B)6コア HT使用時12コア 3.2GHz/ターボブースト(TB)使用時4.6GHz
メモリ 32GB
システム OS11.6.5Big sur
Audio/IF APOGEE Symphony Ensemble
バッファー 256
DAW LogicPro10.7.3
48kHz/24bit
再生ストレージ SSD
価格
Cherry Audioのソフトシンセは定価も安く、さらにはリリースされた直後は大きなセールもやっています。miniverseも現在期間限定で¥5,543ですからかなりお買い得です。
Moogに限らず似たようソフトなんて1つあれば良い!と思う人もいるかもしれません。しかし、ハード(実機)でも個体差がありその一つ一つが個性であるように、エミュレーションであっても音の鋭さや太さなどは少しずつ異なります。
それらをどう使いこなすのかがクリエイターの腕の見せ所です。
miniverseはまた個性の強いmoogサウンドを手に入れられた感じで、LegendとMini Vの中間的な音色なので使い分けが可能だと感じています。
関連動画
こちら氏家さんがデモ行っているmoog復刻版と当時のmoogのサウンド比較、これと比較するとやはりソフトシンセはもう一歩奥行きというか深みに足りていない印象を受けますが、それでもCherry Audioのモデリングの高さはやはりすごいと思います。
まとめ
minimoodeからminiverseに名前が変更されていますが機能は同じです。
音質 | 4 |
機能性(オリジナル性) | 4 |
操作性(使いやすさ) | 3.5 |
安定性(CPU負荷) | 3.5 |
価格(セールバリュー) | 5 |
総合評価 | 4 |
最初に「またmoogかよ」と思ったと書きましたが、Cherry AudioはPolymodeとMemorymodeの2つをリリースしていてその2つも他のメーカーからリリースされてない(モデリング音源として)ので、おそらくMoogエミュレーションを今後も出してくるのではないかと思っています。
価格面では最強です。この価格帯でこの音を出せるのであれば今後moogエミュレーションを開発する企業かなり苦戦を強いられるでしょう。それほど出音の良さと価格帯が素晴らしいです。
EDMで使えるようなSuperSawやウェーブテーブル系のベースが出せるわけではないので、その系の音を望む人は購入しない方がよいです。
どんなウワモノが乗ってきてもびくともしないベースやアクの強いリードなど、自分の楽曲を最高に彩る存在感のある音色がほしいのであればminiverseはおすすめです。
しかし、なぜminimodeからminiverseに名前が変更になったのか疑問です